第9話【惰生】


 燃え上がる様な人生を歩めたならば。

 そう思わない日は無い程に、

 私は生きたまま死に続けている。

 情熱を失って、腐敗してゆくだけの肉体。

 正気も古ぼけて、何を認識しているのか分からない。

 踏み外した軌道は遠く、錆びて微風に壊される。

 生きたい。

 だが、其れこそが最大の苦痛。

 死を先延ばしにしているだけの、無価値な時間。

 これが私の望みか?

 こんな蛆虫の様な毎日が。

 何をするにも裏目に出る、

 人間にすらなれない人型のゴミは、

 何の為に生きている。

 他の人々を苦しめる為か?

 何故其れに罪悪感を抱けない?

 自分が生きている事を何故赦す?

 無能であれば未だマシだった。

 私は害悪。

 唯そこにいるだけで誰かを苦しめる。

 そうか。

 だから俺の心の灯火は消えたのだ。

 情熱を燃やせば誰もが火傷し、

 燻って吐き出した煙にも、今こうして咳込んでいる。

 何故生きている。

 何故未だ死にたくない等と横暴が赦される。

 早く死ね。

 死んでいなくなれ。

 其れこそが人類の幸福。

 私に赦された、唯一の存在理由。

 其れこそが私の生まれた価値。

 惨めに死んで、笑い草になる事。

 其れで不幸な人々の救いになり、

 幸福な人々への償いになるのなら。

 私は喜んで死ななければならない。

 何を躊躇っている。

 私は死ななければならない。

 何が私へ死を拒ませる。

 死にたくない、そんなエゴを赦す。

 私の善意は何処へ消えた。

 何故私は生き続ける等と謂う、極悪非道の選択を止めない。

 これ以上何人を苦しめれば気が済むのだ。

 早く死ね。

 それだけが俺に求められる唯一の願い。

 何者にも愛されず

 何者にも求められなかった私へ願われた唯一の意志。

 早く死ななければ。

 死ななければ。

 何故生きているんだ。

 誰の赦しを得て。

 私の生きる意味は無い。

 私が生きていても、誰かを苦しめるだけ。

 これ以上生きても何も生まない。

 これ以上存在しても誰も幸福にならない。

 未だ空虚な人間であった方がマシだった。

 誰も苦しめずに済むのだから。

 私は誰を幸福にする事も出来ず、

 誰に幸福にされる事も無い。

 私は唯々苦しみ、

 のたうち回り、

 その醜悪な有様を人々へ見せつけ、苦しめるだけだ。

 救いも赦しも無い。

 人は神が救い、赦す。

 獣は人が救い、赦す。

 だが。

 バケモノを赦す神はいない。

 火は絶えたのだ。




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