第7話【舞想】

 過去の遺産を使い回す事は、悪なのだろうか?

 そんな事を思いながら、旅行の度に撮っていた写真を整理していた。

 日曜の夜。

 芸術者として、それは悪だと多くの人々が言っていた。

 でも多くの人々は、昔を思い出さずに葬る事はしない。

 僕は?

 僕は……。

 僕は、

 最近になって漸く、過去の自分と向き合う事が出来る様になってきた。

 それまでは自分へ記憶喪失の暗示を掛けてまで逃げ続けていた。

 兎に角過去と謂うモノが忌まわしくて。

 でも、ここ最近になって思うようになったのは、

 そこまでする程僕の過去はおぞましいものでもない、という事。

 だから昔の写真を見返して、

 苦笑したり、

 苦慮したり、

 苦悶したり、

 苦痛を覚えたりする事から始めた。

 やっぱり今でも僕は、過去が美しく思えた事なんて一度もない。

 だけど、これからの未来は過去より美しくなるのだろうか?

 僕の未来は……。

 このままあと40年程、苦しみ続けて死ぬのかな?

 人の心も分からないまま。

 誰を救う事も出来ないまま。

 僕も、救われないまま。

 ……なんて煩わしいんだ、人間って生き物は。

 今直ぐ部屋にガソリンを撒いて、火を放ちたくなる。

 でも他の人に迷惑だから、そんな事しない。

 だから、そんな事をするくらいなら胸を刺そう。

 いや、それも駄目だ。清掃業者の人に迷惑を掛けてしまう。

 ……ダムから飛び降りなきゃ。

 でも、ダムへ行くまでの交通機関の運賃分もお金は持ってないし、

 歩いて行く程の気力もない。

 そもそも、

 未来に絶望しただけでどうしてそんな手の込んだ自殺をしなきゃならない?

 僕は面倒事や手間事が嫌いだ。

 このまま塩にでもなって跡形もなく消えられるのならばそうなりたいけど、

 そうでもないなら、何かもう少し……。

 もう少し。

 もう少し、僕は何を求めるのだろう。

 考えながら、整理のつかない写真を机の上に放っぽり出して、

 僕は……。

 君の事を考えようかな。

 教えてよ、僕に何を求めているのか。

 今励んでる二次創作の続き?

 いいよ。

 幾らでも書こう。

 君が声を、言葉を、僕に与えてくれるのなら。

 それとも本腰を入れて、錆びてゆくこの身体と心について嘆いて欲しい?

 いいよ。

 君が望むのなら。

 僕は悲痛な言葉を並べ立てて、画面を挟んで一緒に破滅へ堕ちてゆこう。

 でも、僕は、

 僕はもう少しだけ、今こうして書いている内に、

 君と一緒に生きたくなったよ。

 だから僕からのお願いだ。

 君の言葉を届けて欲しい。

 何でもいいよ。呻きの言葉でも、意味不明な羅列でも。

 兎に角僕へ、言葉を届けて欲しいんだ。

 そしたら、もう少し、

 いや、

 もっともっと、頑張るから。

 僕から君へ、上から目線でゴメンだけど、言いたい事はこれで終わり。

 これからまた写真の整理に戻って、

 それが一段落ついたら晩御飯を食べて、

 シャワーを浴びて、

 布団の中へ入って、

 今日という一日を終わらせるよ。

 でも何時か、この生活がもっと華やかになるといいな。

 もっと広くて高い場所に住んで、

 もっと高い赤ワインを飲んで、

 もっと綺麗な夜景に憂いて、

 そして君や、もっと沢山の友人達と一緒に、

 存在する事の辛さから逃避するひと時を共有したい。

 いや、その日の為に頑張るのは僕か。

 だったら望むだけじゃなく、行動しなきゃね。

 嗚呼、

 一人の夜は寂しい。

 だから僕はまた、足掻いてゆくんだ。

 もっと高い所へ行く為に。

 もっと書き者としての頂きを目指す為に。

 だってそうして、何時か登り詰めた時。

 高い所から転げ落ちた方が、

 より身体がグチャグチャに潰れるからさ。




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