ACT.32 チャラ戦車と偏愛聖職者現れる

━━人には避けては通れぬものがあり、時を経れば経るほどに確執は強大なものとなる━━



暫くして、結局無言なままの和巳さん共々、街道に戻ります。疎らになったそこには、王妃さまはもういません。予定のお時間が過ぎたんでしょうね。当然、人も捌けます。


「……面倒臭そうなのはいないよな?」


警戒しながら進みます。



「……ねぇねぇ、君たち。ちょっといい?あ、君はヴェノムくんだよね?」


軽い感じの男性が、にこやかに話し掛けてきました。油断は禁物ですよ!


「そうだけど……、あんた誰だよ?」


「あ、あ、あ!ああ!『チャリオット』さん!四次職チャリオットのチャリオットさん!」


名前と職が同じ変人さんですか。ちょっとガタイのいい、ハンサムさんですな。


「数少ないSランクさんが何か?」


「はっはっはっ!更に数少ない非常識区分セレクターさんが何をー。」


超軽い。何か超軽い!


「退きなさい!まどろっこしいのは嫌いなの!あなた!あなたね!?うわさの!」


男性陣ガン無視と言うか、押し退けて咲哉に詰め寄る超美人!いきなりで言葉を発せないようですね。あまりに突然ですから。


「うわっ!聖女『イヴリーテ』様?!」


さっきから紹介してくれるクリストファーくんですが、細かい説明の余裕はないようです。

確かに聖女って感じの容姿ではありますが、なんと言うか剣幕がすごくて台無し。


「まぁ!まぁ!きれいな子!あたし、ハイプリエステスのイヴリーテ。……サクヤと言うのね。コノハナサクヤの生まれ変わりかしら?!ああ!なんて運命!」


勢いに任せて、我を忘れてうっとりとサクヤの手を握るイヴリーテさん。正直、ちょっと怖いです。美人の迫力とは違った意味で。


「ね?ムサイ男たちなんて放っておいて、あたしとパーティを組みましょ!そう、それがいいわ!あたしが何でも教えてあげる!」


顔近いです。流石に咲哉の顔がひきつってます。


「……有難いイメージが欠片もなくなってますね。あの、チャリオットさん……。」


「すまないね。イヴリーテは女の子、しかも可愛い女の子に目がない変態なんだよね。大丈夫大丈夫、襲ったりする類いではないから。でも彼女、真逆で大人しいみたいだから、ちょっと可哀想だなぁ。」


可哀想って思ってるなら止めてくださいよ!


「お、おい!咲哉が困ってるだろ?!」


ヴェノムがイヴリーテの肩に手をやると、透かさずはね除けられます。


「……触らないで、俗物。男なんて汚らわしい。きれいな子はそれだけでいいの。しかも、サクヤは悪意もない純粋な瞳をしているわ。ああ!その瞳にあたしが映ってる!あたしを見てる!」


ダメだ、この人どうにかして!ヴェノム、ヒクついてます。


「はいはぁい!イヴリーテ、それ以上はやめてあげようよ。彼女ノンケみたいだから、嫌われちゃうよ?」


軽い口調は変わらずにイヴリーテさんに話し掛けるチャリオットさん。イヴリーテさんがぴたりと止まりました。


「ご、ごめんなさい。嫌わないでね?嬉しくてつい、取り乱してしまったわ。」


おろおろとする美人さん。あの勢いを見なかったことに出来たなら素晴らしく高揚できますが、見ちゃいましたから!


「……問題ないわ。何故そんなに男性を毛嫌いするのかわからないけど。」


小柄イケメンをメッタ刺しでしたからね。正直、ざまあみろとか思いました。それにしても、イヴリーテさんはそこまで嫌うほどの何かがあったんでしょうか?女性が好きっていうだけなら、男性は眼中にない程度でしょうし。


「あ、あの!ご用向きは……?」


こういうとき、クリストファーくんがいるから助かりますね。一番臆病でありながら、前に出る勇気のあるところが。


「ああ、すまないね。実際は知り合いになりに来ただけなんだけど。便乗で今回の有り得ない緊急クエスト、ご一緒出来ないかなと。あ、最初に言っておくけど僕らはもうSランクだから、ランクに意味も興味もない。到達報酬はそちらの万年被害者クリストファーくんにでもあげるといいよ。」


笑顔が胡散臭いですね。説得力はありますが。


「あたしたちが居れば、バカなヤツらが近寄らない保証付きよ。の異名通り、近寄りがたい存在だからひと避けになるわ。」


笑うとキラキラと美しい。……しかし、あの姿が過って中々純粋に喜べないです。

まぁ、お二人は咲哉ありきなんでしょうね。どんな人物か確認しに来たら緊急クエストに出会した、そんな感じでしょう。はっきり言って、Sランクも非常識区分セレクターほどではないにしろ、立場は近いのかもしれません。実力主義のこの世界ゲーム、肝が座っていなければSランクとクエストなんて要請出来ないでしょう。ランク=優劣っぽいですもの。


「だとさ。増えるのは困るかもしれないが、荒くれものたちに追われるのと天秤に掛けてみれば?」


黙っていたゲオルグさんがいい感じにまとめてくれました。判断はすべて咲哉に寄りますからね。


「……俺には聞かないのかよ。」


仕組みを知らない和巳さん、空気が読めるはずがありません。

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