ACT.30 軋む世界《ゲーム》の音
━━少しずつ、少しずつ、歪みが生じていく━━
……さぁて、私たち、大事なこと忘れてました。四人ではなく、五人だったはず。私も忘れてました。和巳さんでしたっけ?あの性格破綻仕掛けてる人。だって、完全にクリストファーくんとゲオルグさんを無視ですもん。咲哉とヴェノムさえも名前聞くまで、凡人に価値はないって上から目線。私、ああいう人絶対フィーリング合わないです。だからこそ、咲哉に平手打ち食らって黙っちゃいましたからね。自尊心の塊ってやつですね。
そう、あれなんですよ。視界から消えちゃったんです。一緒についてきていたはずなんですけどね。
「探すって言ってもだなぁ……。って、伊砂は?」
クエスト配ってないですかね?あ、やっぱりヴェノム、知ってるだけ早く思い出しましたね。咲哉は言われてから首廻らせましたよ。まぁ、仕方ないです。あまり周りに関心ないですからね。興味が持てるほど彼の存在が記憶に定着してなかったんでしょう。
「……おい。」
あれ?和巳さん?手に何やら紙を握って現れました。
「伊砂、どこいってたの?」
「さっき言ってたクエスト、あの王妃のだろ?」
「まぁ、そうだけど。」
ずいっと紙をヴェノムに突きつけました。
「おまえらが動かないから、貰ってきたんだよ。配ってたから。」
えー?配ってたんですか?それだけ大掛かりなクエストなんでしょうか。
しっかしこの人、明らかにクリストファーくんとゲオルグさん見てないですよ。二人も空気読んで話し掛けません。
「どれどれ……。」
みんなで覗きこみます。
『緊急クエスト・国王を魔王城から救出せよ』
魔王城?魔王城?!いきなりラスボス居城ですか?!皆さんが暗黙の了解で避けているのにも関わらず……。
「……滅茶苦茶なクエストだな。えーっと?『このクエストは魔王討伐クエストではありません。あくまで、国王を救出することを目標としています。確かに魔王城には魔王以外にも強大な敵が数多く存在しますが、協力プレイにより、討伐可能範囲内になっております。』」
長い前説ですが、魔王討伐しないだけ難易度は低いですよって話ですね。
「『国王は魔王城の左塔の最上階に幽閉されています。左塔に直接向かえば、魔王には出会さない設定になっています。しかしAランク獣騎兵が数多く存在しますので、彼らを倒し、最上階を目指してください。』」
ゲームって感じを全面に押し出して来てますね。
「『報酬は参加者全員に送られますので、多数のご参加を願います。尚報酬は、国王まで最初に辿り着いた方に+ランク3が付与されます。辿り着かなくても2体以上の獣騎兵を倒せば、辿り着いた方以外全員に+ランク2が付与されます。賞金は公平に一律同じとなります。』」
これって、誰かしら辿り着かないと終わらないですねぇ。咲哉たちが辿り着いた場合、賞金しかもらえない。この場合、どさくさにクリストファーくん辺りを押し出せば今後楽ですな!彼が一番ランク低いですし、おすし。
「……金はほしいな。と言うか、俺らは何にしても、金しかメリットはないが。」
ですよねー。
「……獣騎兵ってランクAクラスではありますが、現在はSクラス二人係りです。」
それでも、難易度はくそ高いと。
「厳しいクエストだな。ヴェノム、勝算あるか?」
和巳さんではなく、二人ともヴェノムに話し掛けてますね。一蓮托生、協力してくれないと困ります。
「Sって、四次職になれるレベルです……。」
どちらにしろ、難しいクエストには代わりありません。そもそも、周りの方々はランクいくつなんでしょうか。
「確かDで二次職挑戦権でCが顔パス扱いだから、三次職がBとA、四次職挑戦権か。」
あれ?あれれ?今更なんですが、丁度やってきたクエストがAランク四種ドラゴン討伐でしたよね?
……いやーな予感がしますよ?
「+ランク3でクリストファーはS、ゲオルグはSSS……最終ランク目前だな!」
「……五次職、実装されてねぇからな?しっかし、四次職はまだまだだと思ってたから考えてなかったわ。」
「ボボボボボボ、ボクにSは早いですよ!」
分かりやすい二人ですねぇ。だけど、世間話では済まされないようですよ?
ほら、和巳さんはともかく、咲哉とヴェノムは本格的な努力型天才ですからね。……咲哉がリアルチート過ぎてヴェノムが普通に思えなくもないですけれど。このメンツなら、何十という獣騎兵をも薙ぎ倒せそうです。
……だからこその嫌な予感ですって。
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