ACT.28 サッカーと上から目線

━━彼らは立ち上がりました━━


ずっとこうしているわけにもいきませんからね。来た方とは反対側に向かいます。


『ああ………!!くそ!!』


一歩踏み出した瞬間、少し離れた場所から叫ぶ声がします。な、何が?! 四人ははっとして、声のする方へ向かいます。聖域サンクチュアリからは死角の位置にある、開けた空間。木々が鬱蒼と生い茂り、あまり日の当たらない場所。そして、その木々はかなり高い。その場に対峙するは、若い男性と真っ黒で巨大なドラゴン。男は確実に追い詰められていた。


「ノルマコンプ出来そうだな。」


やけに冷静だ。


「た、確かにブラックドラゴンですけど!」


苦笑いしながら叫ぶ。


「あいつ!何も装備してねぇぞ!?ヤバイだろ!」


そう、彼はジーパンにワイシャツしか着ていない。


「あ!あの人、非常識区分セレクター?!」


確かに最低限のRPG装備もない。まぁ、着たばかりの頃の咲哉に比べたら全然まともですけどね。


「そんなことより、助けることが先よ。」


すっと前に出る咲哉。矢をつがえようとした瞬間……。


「余計なことすんじゃねぇ!!………光翔蹴ライトニング・シュート!!」


皆、揃いも揃って唖然とする。光の球を作り出して、しかもそれを蹴り当てた?!ブラックドラゴンがよろめき、咆哮を挙げる。しかし、一発では倒れないらしい。反撃しようと大口を開け始める。不味いんじゃないの?


「!?くそっ!!やっとダメージ受けたのに!!球切れかよ!!」


ああ、何度もやったんですね。確かに光の球が形成できなくなってます。あの人が本当に非常識区分セレクターなら、体力の限界なんでしょう。プレイヤーならMP切れかな? あ、咲哉が弓また構えましたよ。大口を開けたのが運のつきですね。間を開けずに放ちます。光の矢を何十本も一気に。すごい断末魔の叫びにより、皆耳塞ぎながら地面に突っ伏してます。……だから、何で咲哉は涼しい顔で立ってるの!


「と、取り敢えず礼は言ってやる。助かった。球切れしなけりゃ一人で……。」


青年は最後まで愚痴が言えなかった。途中から、"ぱぁん!"と小気味良い音が彼の聴覚を支配したからだ。


「……へ?」


「お礼何かいらない。文句を言うくらいなら、無事を喜びなさい。」


いつもながら、諭してますな。そして、その中にある優しさ!


「……サクヤさんも相当無茶しますけど、今のはヤバかったと思いますよ?」


「やる気があるのはいいことだが、助けを求めることも勇気なんじゃないか?」


あれー?何か睨んでますね。


「……経験積んだからやれただけだろ。いい気になるなよ。俺は天才肌なんだ。おまえら凡人の話なんか聞く意味もない。」


何すか、この生意気野郎。腹立ちますねぇ。初対面で見下すとか何なんですか。


「はぁ?初めて会ったんだから、天才も凡人もねぇだ……ろ。あー!伊砂和巳いさ・かずみ

じゃね?!見たことあるわ!やけに綺麗なフォームだと思ったら!」


ヴェノムが叫び……え?誰?三人が全くわからないって顔してるから、混ざっておきます。


「ふん!六年前とは言え、かなり実力あったからな!」


うわー、偉そうー。腹立つー。はらたつのりー!


「え?咲哉も知らね?サッカーのオリンピック選手に有望視されてた伊砂和巳!」


咲哉、首を振ります。知らないそうですよ。


「あ、俺はそんなでもねぇけど、咲哉は有名だぜ?有栖川咲哉!弓道のスペシャリスト!小学生の頃から優勝しまくりで!」


あーあ、咲哉そっぽ向いちゃいましたよ。


「あ、有栖川咲哉?この女が?天才弓道家じゃねぇか……。何年か前にアーチェリーも始めたってゆう……。す、すげぇな。こんな場所で出会うとか運命だな!」


お?本当に有名みたいですね。


「すごくなんかない。確かにこのメンツは、偶然にしては出来すぎているわね。」


彼は、自分と咲哉だけ言ったみたいですけどね。


「俺はどうかわかんねぇけど、《桜庭優也》ってんだ。知ってる?」


何か察したのか、間に入るヴェノム。


「あー!の!マジか!あれ?確かあんた、とかじゃなかったか?」


罰が悪そうに顔掻き始めましたよ?


「警察……学校?」


「あー……、俺元警官なんだ。」


警察の人がなんでオリンピック?不思議ですね。


「……取り敢えず、クリストファーとゲオルグが置き去りになってるわよ。正直、私もよくわからない。特に警察官が何故、オリンピック選手になったかも。」


そこ突きますよねー?


「ワケアリ、なんだわ。」


変な流しかたですね。絶対何か隠してますね。


「………………まぁ、いいわ。伊砂さんも一緒に街に戻りましょう。」


絶対気にしてるでしょ?

ま、こんなとこに長居は無用ですからね。


「……あっ、待ってください。メールが!」


メール、あるんですね。


「ん?俺もだわ。」


クリストファーくんとゲオルグさんに?

プレイヤー同士で出来る機能ですか。


「……何か街で騒ぎが起きてるみたいです。」


「『。』って『王妃様』が呼び掛けてるらしいな。」


「……詳細がなくて皆、困ってるみたいです。取り敢えず、戻って状況確認ですね。」


皆一様に頷きます。イレギュラーな臭いがしますよー?クエストって掲示板に貼られるものじゃないんですかね?NPCとは言え、口頭って珍しくないですか?


前編了******ACT.29へ*****

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