ACT.16 デフォルト機能と《非常識区分(セレクター)》

━━重い空気を払拭するのはクリストファーくんの役目です━━



「……あ!そういえば、サクヤさん!クエストまだ行ってませんでしたよね?」


「?ああ、これね。」


畳まれたクエストの紙を取り出す。

内容は……「ドラゴン討伐」。

『フォレストドラゴン』、『ナイトメアドラゴン』、『シャドウドラゴン』、『ブラックドラゴン』の全てAランク級の討伐だ。


「ん~?へぇ、殆ど闇属性の偏ったクエストだなー。」


自然に、覗き込むように確認する。……何気なくても、こういう仕草ってドキッってしちゃうんですよねー。慣れてないっすかー?まぁ、当の咲哉には効果ないみたいですけど。


「あ、『フレイムドラゴン』倒したの、咲哉だったのか。だったら、余裕だな。」


「ええ、僕は気絶しちゃってみれてないんですけどね。」


「咲哉の実力知らなかったら、絶体絶命って思うだろうし、仕方ないんじゃね?」


「サクヤさんの実力?…………何でヴェノムさん、知ってるんですか?何でサクヤさんってわかったんです?」


やっと悟りました。


「だって俺、咲哉のこと知ってたもん。出会ったのは偶然だけどな。……やっぱ運命かもしれねぇなぁ。」


ニヤニヤしないでくださいよ。そう簡単には、咲哉は渡しませんからねー?


「えー!リアルで会ったことあるんですか?!」


「会ったつーか、見掛けた?咲哉は有名人だもん。」


「ゆ、有名人なんですか?知らなかったです……。」


すごいショック受けてますが、そもそも異世界ですから仕方ないのに、容赦ないですね。


「……本人に認識のない話はやめてもらえる?」


有名人だと認識していないそうです。見事、二人を黙らせました。


「取り敢えず、クエストしに行きましょう。どんな生き物がいるのかもまだ、把握してないの。来てから、3、4日しか経ってないんだから。」


全てを一蹴しました。流石、咲哉!


「確かに咲哉はまだ日が浅いもんな。闇属性は夜行性だから、今からが丁度いいか。クリストファー、時間大丈夫?」


「はい、明日は学校もお休みですから多少の夜更かしは出来ます。」


長くやっている分、切り替え早いですね。咲哉は無言で準備を始めます。


「……待て、待ってくれ。」


ん?何ですか?


「『矢』くらい新調しようぜ。」


「そうですよね。『フォレストドラゴン』はそれでもいいですけど、他は『闇属性』なんですから、『光の矢』がないと。」


え?『鉄の矢』はダメですか?


「……鍛冶屋のおじ様が、折角いっぱいくれたのだけど。」


まぁ、"NPC"ですけどね。


「……これ一式?」


咲哉は頷きます。ええ、そうですよ。一揃え、見繕ってくれました。あれ?何で二人して、顔を見合わせてるんですか?不安になるじゃないですかー?


「……俺、最初何もなくて、だったんだけど。」


「僕の作成時は、初期装備の『木の杖』と『布のローブ』でした。」


あれ?あれれ?


「世話焼きのおば様が街案内してくれなかった?」


「あー、それはあった。」


「僕もありました。『チュートリアル』ですね。」


カリムさん、お疲れ様です!


「……鍛冶屋に案内してくれて、武器を作成してくれたり、泊めてくれたりは?」


「え?鍛冶屋は固定属性付与するときに頼む場所ですよ?それに、武器自体は武器屋で購入します。……鍛冶屋に泊まるとか聞いたことないです。」


どういうことでしょう?……あ、あー!あの剣ですよ!《まだ立ち向かう気力のあった戦士の剣》!アーノルドさんの《使い古された剣》!あれがあった……から……。あれ?何で咲哉だけ?


「…この"剣"。これを持っていたら、連れていかれたの。私、気がついたらこの"剣"の刺さっている場所にいて、これを抜いた。……そこにこれも落ちていて。」


"剣"と共に首に掛けていたを差し出す。第二話以来の登場ですね。絶対忘れられてましたよ。


「……どういうことだ?」


ヴェノムがわからないって顔してます。


「《使い古された剣》って書いてありますね。何故、こんなものが?それと、このネックレスは何も表示がありません。」


クリストファーくん、首を傾げています。


「……この"剣"の持ち主が、十年前、"魔王"に立ち向かった最後の戦士だったって。鍛冶屋のおじ様の息子さんのバルドーさんの親友で、アーノルドさんっていうらしいんだけど。……お二人とも亡くなったらしいって聞いた。」


おおー!覚えてましたね!流石です!


「……そんなクエスト、聞いたことないです。"NPC"が、戦士になれるなんてことはないはずです。」


クリストファーくん、悩んでますね。これは、雲行きが怪しいですぞ。


「……あのさ、もしかしたらなんだけど。」


おもむろにヴェノムが口を挟みます。


「咲哉だけ俺らとは違う意図で呼ばれたんじゃねぇかな?例えば、『英雄』はあって『勇者』がないこの世界ゲーム。これはクリストファーからの受け売りだけどな。咲哉の話からの憶測になるが、咲哉は『勇者』として選ばれた真の非常識区分セレクターで、俺らは咲哉に選出される側の非常識区分セレクターだとしたら辻褄が合わないか?」


「じゃあ、僕たちプレイヤーは何なんですか?」


「んー、カモフラージュ?憶測による仮定が成立するならば、クリストファーは逆にイレギュラーになるよな。」


大それた話ですが、納得できますね。


「……もしかしたら全てのプレイヤーも基準だったらって予測も出来るわね。私が『勇者』だなんて余程の理由がない限り、違和感しかないのだけど………。」


「まぁ、『勇者』の基準がこの『剣』や『ネックレス』ならって仮定ですけどね。」


あれ?咲哉が何か考えているようですよ?


「咲哉?どうした?」


「……あ、ごめんなさい。何か引っ掛かったの。昔誰かに何か言われたことがあった気がして?よく……思い出せなくて。」


沈黙タイムです……。


「い、今は悩んでも仕方ないですよ!取り敢えず、この世界ゲームを把握することから始めましょう!慣れてきたら分かるかもですし!」


流石、払拭担当!先ずは武器を見に行きましょうか!


******ACT.17へ******

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