ACT.14 明かされる真実と告白
━━責めるわけではなく、知る権利があると目で訴えていた━━
「どこまで……さぁ、どこまでだろうな。」
「質問を変える。あ、その前に……ごめんなさい。取り乱してしまって。」
「あはは。確かに危機迫ってたね。……仕方ないと思うぜ?あんたの《状態》ならな。だが、俺はあんたに殴られても仕方ない人間ではある。」
「?どういうこと?」
意味深な発言に顔をしかめる。
「……最初に二つ、伝えよう。説明はそれからだ。一つめ……殴られても仕方ない理由は、俺は深沢真菜の婚約者だった男だ。」
「!?」
出てきた名前に聞き覚えがあった。忘れたくても忘れられない名前。咲哉の人生、そのものを台無しにした人物。彼は彼女の婚約者……だった?
「覚えてるんだな。いや、忘れられないよな…。アイツのやったことは許されない。すまなかった………。」
咲哉は葛藤した。そうでなければ即答していた。彼女が悪いのであって、貴方は悪くないと。血の気が無くなる感じ。立っていられない。気持ち悪い目眩が咲哉を襲う。考えないようにしてきた事柄を今、また考えなければならないことへの戦慄。
「!?咲哉!!」
~・~・~・~・
気がつくと、血相を変えたヴェノムに支えられていた。先程までの軽い感じは消えている。
「ごめん…!でも、最後まで聞いてくれ。こうして会えたことはきっと運命なんだ。あんたは知らなきゃいけない!」
隣のベッドに座らされる。話す気力さえもまた無くなった。
「……もう1つ。あんたはあの"事件"から、ニュースや新聞は一切見てないよな。」
ニュースや新聞がなんだというのだ。戯れ言だらけの映像や文字列など取るに足らない。だから、ゲームに没頭した。最初から作り物だとわかっている安心感ある世界に。
「簡潔にいう。あんたの潔白は証明された。」
「…!?」
青ざめた顔を勢いよくあげる。しかし、まだ目眩が消えず、横に力なく倒れる。どういうこと?といいたげだ。
「お、おい!無茶すんなよ!」
心配そうに隣へ座る。
「……あの場所に俺も居たんだよ。惜しかったな、っていってやろうと思って。結果発表聞くより明らかだったよ、あんたの金メダルは。けど、発表に耳を疑った。真菜が金メダルだと発表された……。あんたは銀メダル。俺は真相を確かめに向かったんだ。あんたもそうだったから、あの場所にいたんだろ?」
咲哉は辛うじて頷く。起き上がれないほどに頭はパニックを起こしてはいるが、意外に冷静だった。そんな咲哉の頭を優しく撫でるヴェノム。少し前までムカついていたのに、今は心地好い。
「…あんた、アイツに平手打ち食らわせてたよな。『ドーピングしてあの程度なのに、更に
悔しそうにというより、悲しそうな顔。
「『あなたの方がよっぽどドーピングよね。全てド真ん中なんて常識ハズレじゃない。あたしとマネージャーが否定すれば皆信じるわ。あなたのことは誰も信じない。ぽっと出がでしゃばらないで。』……全部覚えてるよ。俺はアイツに裏切られた。 天使のように心の綺麗な人間なんて存在しないって、絶望した……。」
きっと婚約者である深沢真菜を本気で愛していたのだろう。その彼女の裏の顔を知ってしまったのだ。辛くないわけがない。
「…俺さ、桜庭優也って言うんだ。」
どこかで聞いた名前だ。しかし、思い出せない。
「知らないって顔に書いてあるぜ?一応、フェンシングで銀メダル取った。本業は剣道だけどな。……あんたと似てるだろ? アーチェリーで出てたけど、本業は弓道。」
そんな名前の出場者がいた気がする。確かに似ているが、フェンシングと剣道では少し違うような……。
「脱線したな、悪い。……俺、あの時のあんたの真っ直ぐさに惹かれて、どうにかしてやりたかった。逆に真菜を裏切ることになっても。だから、あんたのことを調べた。」
調べたところで面白味のない人生だ。興味すら持てないだろう。
「弓道を始めたのが三歳。初めての大会は小五で準優勝。初めての大会優勝は翌年、小六。それから、中学高校では三連覇・三連覇の六連覇優勝を飾った。大学に入ってからアーチェリーを初めて、和洋を極めた。そして、やっと出場が決まったあの時のオリンピック。出来レースにまさかの伏兵だったあんたは、罪を擦り付けられ、欠場扱いになった…。ドーピングのレッテルを代わりに背負わせられ、失踪した。」
間違っていない。正にそれだ。大会本部がアイドル選手としている深沢真菜をバックアップするために暗躍し、アーチェリー界では名の知れていない咲哉を祭り上げた事件だ。彼女は努力が報われないからとマネージャーに言われるがまま、ドーピング行為に走り、今回やっとの思いで金メダルを手に入れる手筈だった。咲哉も言葉が過ぎたことを後悔はしていた。しかし、努力をしていないと決めつけられては、きつい言い方になるのは道理だった。
……咲哉はうわ言のように語り出す。
「……私はいつも完璧を求められた。唯一である肉親のお祖父様に。だから、最初の大会で優勝出来なかったことを罵られ、必死に鍛練して翌年に優勝出来た。それからはずっと優勝していたから、お祖父様は満足げだった。
……けれど、あのことのあった日。私は………お祖父様にさえ、裏切られた。帰宅したら、お祖父様が高いだけの高級キセルを噴かしながら、『おまえはワシの顔に泥を塗ったな。そんなことを長年続けて、叱責逃れをするとは恥ずかしい。』と。私には分かっていたわ。お金が全ての事実を塗り替えたことを。……もう、何も聞きたくなくなった。言葉さえ、発したくなくなった。長年貯めた貯金を片手に家出したの……。」
人間は完璧ではない。完璧に思われている人の努力は半端ない。しかし誰もが、結果のみをみて、過程などみない。
半人前扱いされる人間も、同じだ。結果だけを見られ、永遠にレッテルを張られ続ける。
完璧に思われている人は一度転がり落ちたらおしまいなのだ。天才が失敗しないなんて誰が決めつけたのか。
「…うん。あんたのじいさんのことは知ってた。まんまな人だったな。俺が、と言うか、俺んちが少し良いとこだったから、誰も文句言えない証拠を片っ端から集めて叩きつけてやった。……あっという間に手のひら返したわ。無性にムカついた。こんなヤツのためにあんたが苦しんだって知ったら……。本部にも直談判した。先回りして放送局全部にばら蒔いてやった。……真菜は大泣きしたけど、慰めてやるつもりなんてなかった。」
なんで、なんでそこまでしたのかわからなかった。そんな価値は自分にはないはずだ。返せるものなんてない。
「……終わってから知った。あんたが居なくなったって。一番辛いのはあんただろ?慰めるべきはあんただったんだから……。だが、こうして会えた。運命以外、なくね?」
悪戯っぽく笑う優也から目が離せなくなった。
\俺は魔王になる/
そんなことをいい放つような人にはみえない。
「……俺はあんたを見たあの時から、あんたを忘れられなくなった。だから、すぐに婚約解消した。やっと
……俺は咲哉が好きなんだ、本気で。クリストファーに負けないぜ?」
にっと笑う優也。ふいの告白に動けなくなる。恋愛なんて知らない咲哉。
「……すぐじゃなくていい。これからずっといるんだしな。逆に惚れさせてやるから、覚悟しとけよ?」
咲哉の頭は真っ白になった。ショートして気を失うように眠ってしまったのは仕方ない。
………って、ナニコレー!?独白に近いナレーション誰よ?!うちの咲哉がー!うちの咲哉がー!
******ACT.15へ******
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