ACT.11 転職と噂と素顔

━━神殿区域ヴァルハラゾーン━━



一次転職なだけあって、目的地はすぐだった。元々そんなに大きな街でもない。気になるのは、大国ならまだしも小国の規模で全ての施設が賄えるようには思えないことだ。追々わかることだろうが、やはり気になることは多々あるのである。


「あ、ここ!ここです!」


包み込むような女性の半身彫刻が印象的な神殿だ。基本構造は、パルテノン神殿などに見られる造りになっている。円柱が天井を支えている、あの姿である。……お隣のエンチャラー神殿は、何だかカラフル過ぎて形容しがたい。


彼に付き添い、中に入る。奥に物々しく、祭壇が設けられていた。


カトリックの枢機卿とかが着てそうな服着たじいさんが微動だにせず、突っ立ってますね。あの帽子取ったら、絶対ハゲてますよ!


「すみませーん!転職お願いしまーす!」


物々しい雰囲気など関係なく、明るく声を掛けるクリストファーくん。



「初めまして。こちらにお名前をお願い致します。」


"NPC"らしい"NPC"ですな。まぁ、必要最低限の台詞しかいらない"NPC"もいるでしょうしね。


「はい!…………お願いします!」


言われるがまま入力したクリストファーくん。


「では、『マジシャン』から『クレリック』への転職で宜しいですね?」


「はい!」


音声認識は有難い。

……いや目視認識、こちらも出来ますよね?ちょっと不安になりました。あれ?心なしか、クリストファーくん、緊張してますね。


「こちらにどうぞ。」


促されるまま、アニメで見るような転送装置に入っていきます。咲哉さんをちらちら見てますね。初めての転職です。不安もあるでしょう。


扉が閉まり、光を放ちます。シュインと音を立て、反対側の転送装置が光ります。扉が開きました。じいさんと同じ服を着たクリストファーくんの登場です。



!/



「これで儀式は終わりです。お疲れ様でした。」


何の呪文も唱えてませんでしたけどね。意外にあっさりでした。


「サクヤさん!ありがとうございます!転職出来ました!」


どさくさ紛れに手を握ってます。咲哉は静かに頷いています。


「これで、お役に立つための一歩が踏み出せました!」


あとは勇気だけですね、わかります。一旦、城門まで戻りましょう。戻る間、終始クリストファーくんはハイテンションで喋り続けてました。内容がないので割愛します。


………しかし、ハゲを確認したかった。



戻ると、少し騒がしくなっていました。


「おい、知ってるか?昨日、『フレイムドラゴン』が倒されたらしいぞ。」


「マジ?最近は手を出すの居なかったろ?」


「マジマジ!それが初心者らしい。」


「えー?初心者が倒せるわけないじゃん。今じゃ、Bランクでも倒せないのに!」


「見に行ったヤツがいるんだよ。たまたまだったらしいけど、矢が何本も急所に刺さってたって!」


「初心者って『アーチャー』?リアル経験者じゃない限り選ばない初期職じゃない。」


「そうそう!しかも、刺さってたのが"鉄の矢"だったらしい。」


「"鉄の矢"ぁ?火属性は"氷の矢"じゃなきゃ、殺傷能力ないじゃん!」


「そいつとパーティー組みてーわ。経験値ガッポガッポじゃねぇか。」


どうも昨日の咲哉の武勇伝らしいですな。さっき来たときはまだ伝わってなかったようで。正直、経験値稼ぎなんかで咲哉は貸し出したくないですね。実力もないくせに甚だ迷惑ですよ。


「…噂になっちゃってますね。あまり良い話を聞かない人たちですよ。あ…………、会いたくない人もいます。」


さっと咲哉の後ろに隠れました。


「毎回僕をつれ回して、置き去りにしてく人がいました。無茶なクエストを選んで、自分はデスペナ嫌だからと人を囮にして逃げるんですよ。」


うわぁ、最悪だ。関わりたくないですね。


「……ん?あそこに希少な『アーチャー』いるな。あれ?あれってクリストファーじゃね?」


あちゃー、見つかっちゃいましたねー。



「なぁなぁあんた、『アーチャー』さんよぉ?昨日、"フレイムドラゴン"倒した『アーチャー』知らね?まぁ、あんたじゃなさそうだけど。」


見た目で判断すると痛い目見るよー?あんちゃん。当の咲哉は空気呼んで無言だ。


「喋れないんですかー?……何かムカつくわ。おい、クリストファー!おまえ、誰の経験値吸ったのー?『クレリック』になるにはそれしかないよなぁ?てか、釣るんでくれてる失礼なこいつかぁ?ねぇだろー?囮役でしか役に立たねぇおまえだぜ?代わりにデスペナ食らうのが、パーティー組んでくれるヤツへのご奉仕なんだからよぉ!」


こっちがムカつきますねー。



……ゴッと鈍い音が響きました。何事?!あ、咲哉が鞘に入ったままの《使い古された剣》をソイツにぶち当てたようです。


「ぐ…あっ!」


咲哉、形見をそんな使い方しちゃだめですよ……。クリストファーくんは固まってます。


「て、てめぇ!何しやがる!」


「サ、サクヤさん!僕は大丈夫ですから!」


正気に戻ったクリストファーくんが咲哉にしがみつきます。周りがざわついて参りました。


「こ、ここは対人ケンカしたら不味いんです。一発くらいなら大丈夫ですが、それ以上は……!」


しかし、何と咲哉はクリストファーくんを振り払っちゃいました。やだやだ!咲哉、熱いわ!でも、やめましょうよ!


……ぐっと、誰かに腕を掴まれました。咲哉がビクッとするくらい、動けません。



「……おいおい、ガチな初心者か?やめとけよ。こんなバカはいくら殴っても、殴り損だぜ?今までカモを何十人と騙して、罪悪感すらねぇんだ。無駄なんだよ、反省も出来ない能無しだからな。」


「あ、てめぇは…!非常識区分セレクターのヴェノム!?」



え?!今非常識区分セレクターって言いました?!


「あ、ヴェノムさん……お久しぶりです……。何かありがとうございます……。でも、サクヤさんは悪くなくて……。」


「わぁーてるよ!あのバカに腹立てない方がおかしいことくらいな。」


あ!まさか!あのキチガイさん?!すっごく真っ当なこと仰ってます……けど、何か小さいな。





「……んで………!!」



…………………え?ナンデスッテーー!?咲哉が喋ったー!ちょっと掠れてるけど超可愛い声だーー!…………………女の……子だと?!



「サクヤさんが………喋った………。やっぱり女性だったんですね!」


キラキラしてるよー。ヤバイよー。


「へ?コイツ、今まで喋ってなかったの?俺と同じ非常識区分セレクターが現れたって聞いたから、ここで張ってたら会えんじゃねぇかって思ってたら………ビンゴか。てか、性別危ぶまれてたの?俺、熱い姉ちゃんいんなーって止めに入ったんだけど。だってさー?ヤローのケンカ止めたって面白くねぇじゃん。」


あらー、清々しいですわねー。軽く同性ディスりましたよ、この人。私ほどじゃないですけどねー。私は性別で判断しません。全人類平等です!


「……にしても、勿体ねー。もっと可愛い服着りゃいいのに。ほら……。」


あ、あーーー!!然り気無く、然り気無く!咲哉の前髪持ち上げ………あー、綺麗っすね、可愛いっすね………………。



「……ビンゴ。すげー可愛い。ちょっと中性っぽいけど、女の子じゃん。」


クリストファーくんが口パクパクしてます。あ、咲哉払いのけた。


「………貴方にボクのことがわかるわけない。隠してるものをわざわざ曝さないで。」


え?ボクッコすか。ほう。てか、小さいナンパ師ですなー。もー、うちの咲哉に気安く触らないで頂けますー?


「んなもん。わかんねぇよ。だからなに?これから知ってけばいいじゃん。クリストファー、パーティー入れて。最強ペアがおまえを導いてやんよ!」


流石の咲哉も呆気に取られているようです。私だってびっくりですよ!咲哉の性別と可愛い声と顔以上に!……何か奇妙な三角関係が出来上がりましたね。咲哉からは一切、ベクトル向かってないようですけど。あ、押し負けしてパーティー入れちゃいましたよ……。





\何この展開!/




******ACT.12へ******

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