ACT.6 雑魚とドラゴン

━━経過時間、二時間。


代わり映えしない森の中を延々と歩く、ご一行。いや、ただ代わり映えしないというのは二人だけなのだけど。咲哉とクリストファーの出番が一向にない状況。モンスターの動きが単調過ぎて、前衛三名で事足りてしまっている有り様である。

問題は2つ。1つは、前衛の武器が鉄なので50匹×3種類で150匹仕留めるまでに使い物にならなくないか。後は咲哉の実力が実践で拝めない危機だ!………あ、そうか。3人が使い物にならなくなったら、出番ですね!いやいやいや!出番無くなるか、残りが少なかったら影薄いままじゃないですか。パーティってこう、覇気があって、連携プレーするもんじゃないんですか?ガチで初心者なの?咲哉も初心者ですけど、リーダーいないチームとかおかしいし。

……重要なことを見落としてました。クリストファーくん、一度も魔法出してないんですよね。彼、サポート魔法あるって聞いたんですけど全く使う気配すらないのは不味くないですかー?ただのマスコットじゃ困りますよね。


……私がグダグダ言っている間にどうも迷子になったようです。


「……モンスターに気をとられたようだ。誰か道がわかるやつはいないか?」


リーダー気取りのキングスさん。ダメダメですねー。しかし、何と!咲哉が頷いた……。土地勘ないのにすごいですね。弓の下り辺りから有能っぽく見えてきましたよ。


「へぇ……滅茶苦茶に動いたのに?」


ヘイズさん、ちょっと意地悪しようとしてます。気にも止めずに頷く咲哉。何か隣でクリストファーくん、キラキラしてますよ。


「それじゃぁ、Uターンしながら残り回収していこうぜ」


カナトさん、貴方も分からなかったのに清々しいですねー。残りは10匹前後ずつ。ヤバイです!このままじゃ咲哉の役職が《アーチャー》から、道案内ナビゲーターになっちゃいます!


「!?……わぁぁぁぁ!!」


……幸か不幸か、いきなりクリストファーくんが青ざめて悲鳴を上げました。咲哉は微動だにせず、同じ方向を向いていました。3人はがばっと振り向きます。大きな黒い影が彼らに闇をもたらしていたのです!


「ド、ドラゴン!?に、逃げ場なんてねぇぞ!」


「……こんなとこで死に戻りしたら、経験値なくなっちまう。」


「流石に無理だろ?あれ、Bランク級のフレイムドラゴンじゃん……」


あんたらが適当に移動するから、根城に迷い混んだんじゃないんですかー?!どうすんの!これ!クリストファーくん何か、気絶してるし!使えないにもほどがある!

……1人、ただ1人冷静な人がいました。我らが咲哉さんです。10本を束にして弓をつがえ始めました。かなり重い仕様の弓。10本ならば、ざっと10倍の圧力があるはず……。矢張あまり溜めもせず、放ちます。けれど全てが勢いを落とすことなく、ドラゴンの柔らかそうな部分にうまい具合に命中していきます。目、繋ぎ目、火を吹こうと開いた口の中。……全弾命中!弱い武器でも、急所に当てれば確実に倒せる。それを見せつけました。……やっぱりBランクいけましたね、この人。ゆっくりとドラゴンが悲鳴を上げる余裕もなく絶命して、落下する音だけがリアルに響き渡ります。まるでスローモーションのように見えました。きっとこの場にいる皆(気絶してるクリストファーくんは除く)がそう見えたことでしょう。3人は何も言えませんでした。サポートさせるつもりで誘った後衛がまさかの伏兵だなんて思いもしなかった、そんな驚異を感じているようでした。


……当の咲哉は変わらず無言でしたが、うまい具合に当たって落ちたフレイムドラゴンの牙を拾ってました。戦利品ですね、わかります。

倒した証拠品には十分でしょう。それよりも………、この空気どうにかなりませんか?

重いんですけどー!皆さん、戦意喪失して、クリストファーくん放置して帰りそうになってますよ。いや、咲哉いないと帰れないんですけどね。

咲哉を先頭に、咲哉がクリストファーくんを腰に結びつけ、クエスト回収をしながらUターン。何、この絵面!咲哉ってば、クリストファーくんの重さがないかのように変わらない足取りで前進。後ろから項垂れた大の男3人。咲哉は一本で数匹仕留めちゃったりなんかして、あっという間に彼らの倍倒してます。

何ですか、この人?リアルチートなの?


~・~・~・~・


……街に無事、生還しました。事務作業のように淡々と、無言で完了報告する咲哉。更に森の番人であるフレイムドラゴンのクエストもあったので、たまたまだけど理由を話したら、それも受理されました。やったね!

報酬を分けようとすると、3人が拒否をしました。


「……あんたがもらってくれ。俺たちはあんたに救われた。受け取るには、分不相応だ」


キングスさん、やっと重い口を開いてくれました。他の二人は頷くだけ。そのまま3人はバラバラに去っていきました。仲間ゲットのチャンスでしたが、この状況では一緒には無理でしたからね。

………クリストファーくん、どうしましょうか。咲哉、ずるずるとクリストファーくんを引き摺って宿屋に入りましたー。優しいですねー。お荷物とは言え、置き去りは可哀想ですからね。まぁ、育てたら大成するかもしれませんよ?うん。

無言で二人分の宿代を払い、ツイン取ってました。何とか片方のベッドにクリストファーくんを投げ、もう片方に横になります。


……お疲れさまー。咲哉、超カッコ良かったよー。聞こえてないのがちょっと悔しいけれど。

まさかの大金ゲット。明日は装備でも揃えましょうか。おやすみなさい、いい夢を……。



******ACT.7へ******

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