ACT.3 剣と弓

さぁ、勇気を振り絞って現実に還ろう。


「……あの、旅人さんですの?」


全く微動だにしない咲哉に痺れを切らせた婦人が声を掛けてくれる。咲哉は静かに、ちょっと考える間らしきものを取り、ゆっくり頷いた。物語始まって、やっと反応らしき反応を見せました。


「物静かな方ですのね。……あら?その剣、どこかで…………ああ!ちょっと!エリーヤさん!」


近くにいたお友だちのご婦人らしき人に話し掛ける。


「え?!」


多分、関わるのを躊躇っていたのだろう。仕方のないことだ。この風体ならば。


「ほら!この方の持ってらっしゃる剣!お宅の旦那さんが打ってるのと似てないかい?」


《まだ立ち向かう気力のあった戦士の剣》から《使い降るされた剣》に無惨にも改名されてしまった、この剣のことらしい。


「た、確かにうちの人の打ってるものに似てるね……」


戸惑いはまだ隠せないらしい。確かに話し掛けにくい。出来れば関わりたくない出で立ちだ。


「……大丈夫よ、きっと。無口な方みたいだから。旦那さんに見てもらいましょうよ、ね?」


奥さん、お気遣いありがとうございます。まぁきっとデフォルト機能なのだろうが、有難いことにはかわりない。咲哉は連れられるがままに鍛冶屋と向かった。そう遠くはない場所、と言うか目と鼻の先にあった。……《小国》ですからね。現れた場所から入り口までが異様に長かったことは忘れよう、うん、忘れよう。


「……何か用かい?」


何か妖かry…失敬。咲哉の顔を見るなりしかめ顔になる亭主。その辺りは置いておいてあげてください。


「旦那さん、旦那さん。怖い顔しないでくださいな。ほら!この剣、見覚えありませんか?」


気の良いご婦人、付き添い感謝します。デフォルト機能とは言え、助かります。


「ん…………。!これは!」


お?ご存じで?いや、知らなかったら困るんですけどね。


「……十年前にアーノルドにこさえてやった物じゃねぇか!何であんたが持ってるんだ?!アーノルドにあったのか?!」


取り敢えず首を振る咲哉。知りませんからね。何せ刺さっていただけですから。にしても、今回は反応が早かった。空気は読めるらしい。


「……そうか。ただ拾っただけなんだろうな。虫の知らせでヤツは死んだと聞いた。……だが、《運命》かもしれねぇな。」


虫の知らせって、風の便り並みにふわっとしてませんか?まぁ、十年も前で連絡もなければ大概は死んでますわな。しかし、《運命》とは新展開じゃないですか?……ちらちら咲哉を見ながらだと微妙に、信憑性薄れてますけど。そこは咲哉が悪いです、はい。


「……アーノルドの意志があんたを選んだのやもしれぬ。よし!あんたの為に何かこさえてやろう!金はいらねぇ!無いだろうしな!得意な武器を言ってくれ!何でも造ってやる!」


お?旦那、太っ腹!ええ、きっとこの世界ゲームのお金はありません。……あ、咲哉が動いた。腕を動かし、何かジェスチャーで訴えていた。


「………弓か!器用なんだな!あい、わかった!ちぃとばかし時間がいるからな。今日はうちに泊まってけ!」


気前が宜しいですな、旦那!……と言うか、よくわかりましたね。……デフォルト機能なんだろうけど。ほら、お金ないから宿屋にも泊まれないだろうしね。


「エリーヤ、こいつに真っ当な服を用意してやんな!目立……ちはしねぇが、別の意味で目立つからな!それとカリムさん、連れてきてくれてありがとう。良かったら、街ん中でも案内してやってくれ」


やっぱり気になりますよねー。自分もこの格好はどうよ?って思ってましてー、もー多大なるお気遣いありがとうございますー。咲哉は旦那さんに軽く会釈をすると、エリーヤさんとカリムさんに連れられて、奥の部屋に消えていった。


…………あれ?何この伏線?ナレーション置いてっちゃうフラグ?お着替えシーンは?性別判明させたくない、何かの陰謀?


………斯くして、何かの策略により、折角の性別判明チャンスは先伸ばしにされたのであった。



******ACT.4へ******

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