スキルアーツを習得しました。

 俺の助言が功を成したのか、レグフトさんは僅か一日で【精神安定Lv1】を習得した。

 これで虫を前にしてもある程度は大丈夫になった……筈だと信じた。

 まぁ、流石に習得して直ぐに試す訳にはいかないので、今日もレベル上げの為ロンリーウルフ狩りをする。

 何時も通りにレグフトさんと俺で襲い掛かってきたロンリーウルフを倒し、クロウリさんが唱えたブラックグラビティエリアで辺りに隠れてた奴を浮かび上がらせ、一気に殲滅。そんな流れを四回やって町へと帰還。

 そこから夕飯を食べて本日は解散となった。

 が、俺は皆と離れた後、一人で町の外へと出ている。ちょっと、試したい事があるので。

「夜でも大丈夫そうな、スライムの森でいいかな」

 雑貨屋で購入したランタンに火を燈し、スライムの森へと向かう。一応、ギルドでスライムの皮収集の依頼を受けて来たのでレンタル収納袋も持ってきている。

 今日ロンリーウルフを倒した事で【卓球】のスキルがLv1からLv2に上がった。そしたら、なんとスキルアーツを習得したのだ。

 スキルアーツの名前はフォアハンド三球目攻撃。

 三球目攻撃は、自分にサーブ権がある時にする攻撃法で、サーブ後に相手のレシーブで返ってきた球をドライブやスマッシュで打ち返して得点を狙いに行く方法だ。基本的に最初に覚える戦法で、これを習得してるかしてないかでは、得点力に結構差が出ると言っても過言じゃない。

 下回転のサーブをした時、相手は安全に返す為にツッツキでレシーブをしてくるので、それをドライブで打ち返すのが殆どかな。

 でも、当然相手も三球目攻撃を警戒する。下回転のサーブを返す際にツッツキじゃなくて台の上でツーバウンドするくらいまで威力を落として返すストップや、球が台の外に出る前に上回転で返してくる台上打法のフリックでレシーブエースを決めてきたりもするので、三球目攻撃をする機会は少なかったりする。

 それに、三球目攻撃が成功しても相手に返される事もざらだ。そこから怒涛のラリーに発展して息吐く暇も無くなる。

 まぁ、それでも決まる時は綺麗に決まる。バッチリなタイミングでドライブやスマッシュを打てて、それを相手が返せなかった時の爽快感と言ったらたまらない。

 久しぶりにあの爽快感を味わいたいなぁ、と思ってスキルアーツを習得したと分かって直ぐに町を出てきたのだ。ちょっと明日まで待ちきれなかった。

 まぁ、卓球をするのと魔物を倒すのじゃ感覚は違うかもしれないけど、似たようなのは味わえるんじゃないかな?

 そんなこんなで夜のスライムの森へと到着した俺は、ランタンを地面に置いてブルースライムが現れるのを待つ。一応、ブルースライムは夜も活動する個体がいるとガイドブックに書いてあったから、あいまみえる筈。

「お、来た来た」

 ランタンの明かりに照らされて、ブルースライムが奥の方からぴょんぴょんと跳ねてこちらの方へと来る。

 俺は鉄球を左の手の平に乗せ、バックハンドサービスの構えを取る。

 スキルアーツを発動するには、二つ方法がある。

 一つは、スキルアーツの準備姿勢を取った状態でスキルアーツ名を口にする事。

 もう一つは、口にするんじゃなくて心の中で呟く事。

 この二つに特に違いはないが、奇襲をかけるには後者が有利で、あえてこちらに注目させるには前者が有効だ。

「フォアハンド三球目攻撃」

 俺はスキルアーツ名を口にする。すると、身体が勝手に動き、バックハンドサービスをブルースライムに向けて放つ。

 鉄球はカーブを描いてブルースライムにぶち当たる。本来なら、そのまま貫通する鉄球だけど、今回は跳ね返ってこちらに向かってくる。

 跳ね返った鉄球の真正面に来るように動いた俺の身体はドライブの構えをする。このドライブの構えはこの頃多用してるループドライブのものじゃなくてスピードドライブのものだ。

 膝くらいまでラケットを下げるループドライブと違い、スピードドライブはやや腰よりも少し下くらいにラケットを持つ手を引き、身体を捻る。そしてやや上方に振り抜きながら球を擦り上げるようにして打ち返す。

 ループドライブと違って回転数は少ないけど、その分スピードが出て軌道も水平に近い弓形なる。プロが打つとスマッシュ並みの速さが出るとか。

 俺の身体は返って来た鉄球をスピードドライブで打ち返す。

 鉄球はスマッシュよりやや遅い速度を出してブルースライムへと向かう。ブルースライムは避ける事も出来ずに鉄球の直撃を受け、身体に穴を開けてしぼんでいく。

「おぉ」

 何か、流れるようにブルースライムを倒した。けど、特点を得た時よりも爽快感が無いな。やっぱり相手が打ち返さないからかな? ただ、一連の動作は俺が今まで打ってきた中で一番綺麗なフォームでやれたと思う。

 まぁ、俺が動かしたんじゃなくてオートで動いたから必然的に効率の良い動きになったんだろうな。

 フォームという点に関して言えば、少しばかり気分がいい。このフォアハンド三球目攻撃のスキルアーツを何回かやれば、身体に沁みついて俺が動いてもやれる気がする。

 そうと決まれば、だ。

「フォアハンド三球目攻撃」

 鉄球を回収し、新たに現れたブルースライムにもフォアハンド三球目攻撃をぶちかましていく。

 その後も、ブルースライム相手に何度も何度もフォアハンド三球目攻撃で倒していき、ランタンの油が切れると継ぎ足して、ハンドアックスに貼ったスライム皮が痛んだら貼りかえて、ブルースライムを倒し続ける。

「あ」

 十何回目か分からないが、ついに鉄球が耐えられずスピードドライブを放った際に割れてしまう。欠片となった鉄球は何個かはブルースライムへと向かっていき、そのまま突き破って倒す事は出来た。

 鉄球はまだ一個残ってるけど、交互に打ってたからこっちの方もそろそろ耐久度が危ないかな。

「今日は、ここまでかな」

 流石に深夜に突入したっぽいし、スキルアーツの連発で息も上がってきたのでそろそろ町に戻って馬小屋で寝るとしよう。俺は倒したスライムの皮と鉄球の破片を拾い集め、ランタンを手に取ってスライムの森を後にする。ギルドは当然閉まっている時間帯なので、依頼完了手続きとスライムの皮の換金は明日の朝一番で行うとしよう。

 あと、スライム皮の加工もドールンさんにして貰わないと。そろそろ在庫が無くなってきた。ついでに新しい鉄球も作って貰わないといけないな。遠距離攻撃手段が無くなってしまう。

 と、森を出る寸前でブルースライムが一匹目の前に立ちはだかった。

 折角なので、と俺はブルースライムを倒すのは何時もしてるツッツキじゃなくて、さっきの三球目攻撃のようなスピードドライブのスイングをしてみる事にする。

 何回も連続でやっていたから、ある程度は感覚的に分かった。それを元に練習すれば完成系に近付くけど、今の段階ではどうだろうか? という好奇心があった。

 なので、スピードドライブの構えを取って、振り抜いてブルースライムにぶち当てる。腰の捻りも、体重移動も、振り抜き方もまだまだだったけど、何時もよりはいい感じに振り抜けた。

 バキッ。

 そう感じた瞬間、右手が軽くなり、少しバランスを崩してしまう。

「あ、あれ……」

 不思議に思って右手を見ると、ハンドアックスの柄だけを握っていた。金属部分が存在せず、途中で折れたようにささくれ立っている。

 ザシュ。

 と、ハンドアックスの金属部分が落ちて来て地面に突き刺さる。

「……マジかぁ」

 俺はやや肩を落としながら、倒したブルースライムの皮とハンドアックスの金属部分を拾い上げる。

 そりゃ、何度もドライブとかスマッシュとかしてれば、鉄球やスライム皮だけじゃなくてハンドアックスにも負担がかかるよね。

 ……明日、柄の部分も交換して貰おう。

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