二つ名が出来ました。
結論から言おう。
俺は早々にスマッシュスイングを封印した。
何故かと言うと、ブルースライムが可哀想になったからだ。
そこまで歩かなくても二匹目のブルースライムを見付ける事が出来た俺は、早速卓球の構えを取って、俺に向かって襲い掛かってきたブルースライムにスマッシュをかました。
ハンドアックスの金属面はブルースライムにジャストミートし、スライムはそのまま真っ直ぐと吹き飛ばして近くの木にぶち当たった。
木に当たった際に、びちゃん! と盛大な音を立てながらブルースライムは文字通り弾け散った。破裂じゃなくて、木っ端微塵に。当初の俺の予想では水風船が割れるような感じで破裂するんじゃないかなぁ、と思っていたんだけど、全然違った。
ブルースライムの皮は数十もの欠片となり、辺り一面へと飛び散って行った。まるで熟れたトマトを思いっ切り壁に投げつけたかのような惨事になったのだ。中に入っていたと思しき青い液体は生々しく木に残り、これが赤い色だったら間違いなく殺人現場の痕跡だろうなぁ、と思ってしまった。
まさか、スマッシュ一発がこんなにも悲惨な現場を生み出すとは思えなかった。つい、このスマッシュを受けたブルースライムに黙祷を捧げる程に。
なので、俺はスマッシュを封印し、ツッツキという打法でスライムを倒す事にした。
ツッツキは相手の下回転サーブやカットを台上であまり腕を振らずにピンポン玉の下を擦るようにして下回転で打ち返す方法だ。ラケットの軌道は前方やや斜め下に持っていく感じだ。
最初こそドライブと同じでブルースライムに下回転を掛けて打ち返してしまったが、だんだんとコツを掴んで刃の部分で斬る事に成功している。
ブルースライムは斬られた箇所から液体が流れ出て、完全に液体が流れきると綺麗な皮だけが後に残る。皮だけになると全く動かなくなるので、中の液体が生命維持に必要不可欠な物質なんだろうなぁ、と感慨深く思いながらブルースライムを狩っていく。
ブルースライム狩りは途中食事休憩を取りながら行い、夕陽が射し込んでくるまで行った。
成果としては、四十二匹のブルースライムを倒し、うち四十一匹分の皮を収集する事が出来た。単純計算で8200ピリーの収入となった。わぉ、町の中で依頼をこなすよりも多くの収入を得る事が出来たぞ。
因みに、四十一匹分のブルースライムの皮は結構かさばるので持ち帰るのに苦労しそうだが、その心配はいらなかった。
スライムの皮の収集依頼に限り、冒険者ギルドから収納袋を借りる事が出来るのだ。この収納袋はだいたい百キロまで物を収納出来、更には重さを感じさせず、見た目も膨れているようには見えないと言う摩訶不思議な袋だ。因みに、普通に買うと容量が一番少ないので20万ピリー、そこそこの容量で100万ピリーくらいするらしい。た、高い……。
ただ、ギルドから借りる収納袋はスライムの皮しか入れられないように細工がされており、そして冒険者がカリパクしたり細工を解除をしようものなら即行でお縄になる防犯機能も搭載されてるらしい。実際、過去に何人かそれで町にいる兵士さんに詰所まで連行されたとか。
なので、この収納袋を借りる際はきちんと受付の人から注意事項を訊かされるようになってる。そして、初回借りる時は注意事項が書かれた念書にサインをする事になる。冒険者に知らぬ存ぜぬを通させぬようにする為だとか。
そんな訳で、この収納袋を借りパクしたり細工を解除しようとする輩は余程の間抜けか、結構な額の借金を抱えて背に腹を変えられなくなった者、またはかなりの馬鹿が該当するらしい。
俺はホクホク気分になりながら町に戻り、依頼完了の手続きとスライムの皮を買い取って貰う為に冒険者ギルドへ赴く。
受付に行って、名前を名乗って受けていた依頼が終わった旨を伝え、冒険者カードとスライムの皮を受付の人に預ける。
冒険者の依頼は、自分が現在受けている依頼に限り冒険者カードの裏の欄に依頼内容と完了条件が記載されるようになる。
今回の場合は『スライムの皮の収集』で、完了条件は『スライムの皮一枚以上』と記載される。で、俺は四十一ものスライムの皮を入手したので依頼内容の所に判子が押されたかのように赤文字で『依頼完了』と浮かび上がっている。
完了した依頼内容を冒険者カードから消すには受付の人に頼む必要がある。自動では消えないようになってるのは、ギルドの方でも個人の実績を記録する必要があるからだ。記録が終わると完了した依頼を裏の欄から消した状態で冒険者カードが返却される。
俺は何時も以上の収入にちょっとわくわくしながら受付の人が戻ってくるのを待つ。
「ほら、あの子が……」
「へぇ、あの子が……」
が、なんかその間俺の事をちらちらと見てこそこそと喋る人が何人かいる。この冒険者ギルドに入ってから、ちらっちらっと俺の事を見て、それとなく視線を感じた方に俺が顔を向ければさっと顔を背けおしゃべりが中断される。そんなのが何回かあったので一旦無視して受付に行った。
けど、受付に来ても視線は感じるし、こそこそ喋ってるし、それとなく顔を向ければ直ぐにさっと目を逸らされる。……一体何なんだよ? 俺何かした? 一緒に依頼をこなした事のある冒険者の人に何か不評を買うような事でも無意識のうちにしちゃった?
「お待たせしました。カードの方お返ししますね」
言い知れぬ不安を抱えながら待ってると、受付の人が戻ってきて冒険者カードを返してくれる。
「そして、こちらが今回の報酬となります。しめて、8200ピリーです。ご確認下さい」
受け付けの人は更に硬貨の乗ったトレイを俺の前に置く。8200ピリーがきちんとある事を確認してからこの世界に来てから財布として活用している巾着袋に突っ込んで行く。
さて、これであとは帰るだけなんだけど……。
「ねぇ、あの子が……」
「そう、あの子が……」
流石にひそひそ話を周りでされているのを気に留めずに帰る事は俺のメンタル的に不可能だ。どうして俺を見てひそひそと話しているのか、その原因を突き止めないと人間不信に陥りそうだ。
「あの、ちょっと聞きたい事があるんですけど、いいですか?」
「はい、構いませんよ」
「先程から、他の冒険者の方々が俺をちらちら見てひそひそと話してるんですけど、何でか分かります?」
「あぁ、その事ですか」
どうやら、受付の人は訳を知っているらしい。
「実は、ウツノミヤ様は今ちょっとした話題に上がっているんです」
「え? 話題に?」
「はい」
俺は暫し顎に手を当てて考え、恐る恐る疑問を口にする。
「……それって、悪い意味ででしょうか?」
「いえいえ、依頼はきちんとこなしますし、他の冒険者の方ともいざこざを起こしていないので悪い意味での話題ではありませんよ」
「あ、そうですか」
「はい。ウツノミヤ様はいい意味で話題に上がってるんです」
悪い意味で話題に上がってるんじゃないと知り、ほっと一息吐く。と言うか、いい意味で話題に上がってるの? 俺何かやったかな?
「えっと、内容としてはどんなのですか?」
ちょっとうきうきとしながら受付の人に訊いてみる。
「斧で殴ってスライムを木っ端微塵に破裂させた凄い新人って言われてますよ」
「……はい?」
斧で殴ってスライムを破裂させたって……あのスマッシュの悲劇か。と言うか、あの場面誰かに見られてたのか。
にしても、どこら辺が凄い事なんだろう? 原形を留めずに破裂させて惨い現場を残したって意味で凄いなのかな?
と、疑問符を浮かべていると受付の人が続きを語る。
「スライムは皮の性質上斬撃には弱いのですが打撃にはめっぽう強いんです。なので、どれだけ強く殴って木にブチ当てても、本来なら破裂する事無く跳ね返って逆に反撃されるのが常です」
「そう、なんですか?」
「はい。ですので、斧で殴ってスライムを倒したウツノミヤ様は可愛い見た目をしてるのに、意外と豪傑な人なんだと言われていますよ」
「……そうですか」
知らなかった。スライムって打撃に対してかなりの耐性を誇っていたなんて。ゲームとかだと一番弱いモンスターポジションで、素手でも倒してたからてっきり攻撃与えれば倒せるだろうくらいにしか思ってなかった。
そして、そんなスライムを俺は平然と破裂させた、と。
これは……俺の力と言うよりもスキル【卓球Lv1】の御蔭だろうな。あのスマッシュ動作じゃなく普通に斧で殴ってたら跳ね返って来てカウンターを喰らっていた可能性が高い。
まさか、卓球の動作に補正が掛かるとは思わなんだ。凄いな【卓球Lv1】。
と言う事は、これから魔物と戦う時は卓球のスイングで攻撃すればいいのか。でも、そうなるとかなりの至近距離での戦闘になる。今後の事を考えると、早急に遠距離からも攻撃出来る手段が欲しいよな。
まぁ、それは明日考えよう。取り敢えず、今日は夕飯食べて銭湯で汗流して、馬小屋に泊まって寝よう。
俺は話してくれた受付の人に礼を述べて冒険者ギルドを出る。その際にも、ちらちらと見られ、ひそひそと会話していた。
この日の出来事から、俺は【斧殴りのミャー】と呼ばれるようになった。
因みに、ミャーとは宇都宮の宮の部分に由来しているのに加え、俺の顔が何処となく猫を連想させるからだとか。
異世界に来て僅か一週間で二つ名が出来たけど、あんまり嬉しくないな……。
『名前:宇都宮卓海
性別:男
年齢:十五
レベル:3
体力:D+
筋力:D
敏捷:C-
耐久:E
魔力:F-
幸運:C
ポイント:5
習得可能スキル:【殴打Lv1】(消費ポイント5)
スキル:【卓球Lv1】
魔法:なし
称号:【異世界からの流れ人】(隠蔽中)』
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