初めてスライム狩りに行きました。

 異世界スレアに来て一週間が経った。

 俺は現在も馬小屋生活をしているが、決してお金がない訳じゃない。毎日町中の依頼を受けてきちんとこなし、お給金を手に入れている。

 町での依頼は荷物の配達だったり、広い家の庭の雑草抜きの手伝いだったり、外壁の補修作業だったり、町の道端に捨てられたごみの回収だったりだ。

 日当としてはだいたい一日5000ピリーくらい。日によって上下するけど、平均するとそのくらいの稼ぎになる。

 そこから食費を差っ引いて、衣類や毛布、バッグを買って、汗を流す為に銭湯に通って、馬小屋での宿泊費を払ったりして、現在俺の手元には12000ピリー程残っている。

 一番安い宿で六日は泊まる事が出来るけど、ポーションとか防具を買う為にお金を溜める必要があったから馬小屋生活を継続している。

 それらを買おうとしているのも、外に出てモンスターを倒してみた方が今後の為にもいいと思っているからだ。異世界に来てから毎日ランニングと筋トレ、素ぶりは欠かさずに行ってるから動きは鈍っていない筈。

 一応、レベル1でもスライムくらいなら楽に倒せるらしいし、スライムしかいない群生地があるらしいから、当面はレベルアップも兼ねてスライム狩りをしていこうと思う。ポーションと防具は念の為だ。用意するに越した事はない。

 と、言う事で。今日は町の外に出てスライムの皮を集める依頼でもしてみようと思う。

 スライムは倒すと皮を残すらしく、その皮はそこそこの弾力を誇っているそうだ。その弾力を持って衝撃を和らげる為に馬車の車輪に纏わせたり、割れ物注意な品物を運ぶ際の緩衝材に使ったり、低反発枕の中身にされたりと色々な用途で使用されている。

 ただ、もともとが生き物の皮の為か数日でぼろぼろになってしまうそうだ。なので、スライムの皮の収集については常に依頼がある。毎日でも集めないと町中で色々と支障をきたしてしまうとか。

 なので、魔物討伐をメインとしている冒険者は、ついでの依頼としてスライムの皮の収集もしているらしい。小遣い稼ぎにもなるし、町への貢献にもなってイメージアップにも繋がるとか。

 俺は馬小屋の掃除を終えてから武器屋と薬屋に寄り、皮の胴当てと一番安いポーションを購入してから冒険者ギルドへと赴き、スライムの皮の収集の依頼を受ける。

 スライムの皮の収集は出来高制で、一つに付き200ピリーだそうだ。なので、今までと同じくらい稼ぐなら二十五匹はスライムを倒さないといけない。

 そんなに倒してるとスライムがいなくなるんじゃないか? と心配にもなるけど、その心配は不要だそうだ。なんと、倒しても倒しても減らないそうだとか。辺り一帯のスライムを狩り尽くしたと思ったら、また何処からともなく湧いてくると言う。何そのミステリー?

 なので、いくらスライムを狩っても生態系を壊す事無く皮を入手していけるそうだ。と言うか、逆にスライムが増えすぎるのを人間が抑制してるんじゃないかとさえ思えてくる。

 兎にも角にも、俺は町の東の門へと向かい、そこから町の外へと出る。町の外に出るのは初めてで、平原が広がっていた。一応、馬車が通れるように道は整備されていて、遠くに続いている。

 東門から出た俺はそのまま近くにある森へと向かう。こじんまりとした森は別名『スライムの森』。その名の通り魔物はスライムしか生息していない。どういう訳か他の魔物はスライムの森に近付く事はないらしい。その理由は今でも不明だそうだ。そして、魔物じゃない動物や鳥は普通に入り込んだり生息しているので、余計に訳が分からないとか。

 俺の他にも東門から出た冒険者が何人かいて、皆スライムの森へと向かっている。俺も彼等の後に続いてスライムの森へと足を運ぶ。

 スライムが生息するだけあるのか、森の外よりも少しひんやりとしていて、微妙にじめっとする。太陽光が木々で遮られているのも理由の一つかもしれないけど、ぷるぷるうるおいボディのスライムが大量に生息しているのが主な理由な気がする。

 森に入った冒険者は蜘蛛の子を散らすように別々の方向へと進んで行った。多分、狙った獲物の重複を未然に防ぐ為に別の場所へと行ったんだろうな。それがここでの暗黙の了解かな?

 俺も先に進んだ冒険者達に倣って、彼等とは違う方へと向かう。

「あ、いた」

 少し進んだだけで、早速スライムに遭遇した。見た目は青く半透明なぷるぷる。目や口はないし、内臓も見るからに存在していない。まるで水が意思を持って動いているという印象が強い。

 そして、このスライムはブルースライムと呼ばれる種類で、スライムの中で一番危険がないそうだ。

 攻撃手段は体当たり。胴体とか背中に向けてタックルをかまし、相手を押し倒したら腹の上や背中の上で何度も跳び跳ねるそうだ。

 ぷよんぷよんとして気持ちいいらしいけど、複数のブルースライムにスタンピングされると流石に危ないそうなので、倒れたら身動き一つしない方がいいそうだ。そうすると、スライムは相手を倒したと誤解してその場から去っていくそうだ。

 俺の目の前にはブルースライムが一匹。ぷるぷるとその場で震えている。あれ、触ったら気持ちよさそうだな。

 なんて思っていると、ブルースライムが俺を感知したらしく、ぽよんぽよんと飛び跳ねながらこちらに向かって来た。

 よし、取り敢えず狩ってみよう。

 俺は森に入った時にカバーを外しておいたハンドアックスを構える。構えると言っても、卓球の構えだけどさ。右手でハンドアックスを持って、やや前傾姿勢になり右足を引く。ハンドアックスの持ち方は卓球ラケットのシェイクハンドの持ち方をしている。握手になぞらえた持ち方で。人差し指を伸ばして金属の面の部分にそえる。

 ぽよんぽよんと跳ねるブルースライムが近付くのを待ち、もう少しで俺に触れると言う所で俺は右足に体重をかけ、姿勢を少し低くしながら右側に上体をねじる。その際にハンドアックスを持った右手を膝付近まで下ろす。瞬間的に右から左へと体重を移動し、足をバネにして勢いをつけながらねじれを戻しやや上方へと振り抜く。

 卓球で言う所の、上回転の球を放つドライブのスイングだ。今回はちょっとふり幅を大きくして打った球が山なりの軌道を描くループドライブ寄りの打ち方にしてみた。

 タイミングはバッチリで、勢いよく振り抜かれたハンドアックスはブルースライムを両断……しなかった。

「あれ?」

 ブルースライムは刃に全く当たらず、かわりに金属の面に当たった瞬間擦れるようにして打ち上げられ、回転しながら前方に飛んで行ってしまった。

 ……ヤバい。目測見誤った。と言うよりも、卓球での癖が出てしまった。

 取り敢えず、結構切り裂けると思ってドライブの打ち方でブルースライムを切ろうとしたけど、どうも俺の体は切り裂くよりも打ち返す事を優先させたみたいだ。

 そりゃ、卓球は縁の部分でピンポン玉を打ち返すんじゃなく、面の部分で打ち返す競技だ。それを五年も続けていれば、自然とそうなるように振り抜いてしまうのも頷ける。

 ドライブのスイングを受けたブルースライムは回転しながら地面にぶつかり、更に高く、そして速さを増して飛び跳ねて奥へと消えてしまった。

「…………」

 俺は茫然とブルースライムが消えて行った方角を眺め、ゆっくりとハンドアックスに視線を移す。

 これ、普通に斧として使った方がいいのかな? でも、折角【卓球】っていうスキルがあるんだから、何としても活用したい。

 ならどうするべきか? と軽く腕を組んで考え、一つ妙案が浮かぶ。

「あぁ、スマッシュのスイングをすればいいのか」

 スマッシュは球を面で思いっ切り強くぶつけて打ち返す方法だ。これなら切らなくても金属をブチ当てると言う強い衝撃をブルースライムに当てて破裂させる事が出来るんじゃないかな?

 一応、ブルースライムの皮は破裂しても小さく切って用途別に使うので買い取りはして貰える。なので、問題はない。ちょっと価格は下がるけど、卓球での癖が抜けるまではスマッシュスイングでブルースライムを倒していこう。

 そうと決まれば、と俺は新たなブルースライムを見付ける為に森の中を突き進んでいく。

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