遠距離攻撃が出来るようになりました。
俺に二つ名が出来て、四日が経った。
前までは町中での依頼を主にしていたけど、スライム相手に余裕を持って相手を出来る事が分かった。なので、今では町中の依頼とスライムの皮の収集依頼をそれぞれ受けるようにしている。
朝起きたらランニングに筋トレ、それに素振り。朝食食べて馬小屋の掃除をしてからギルドへ赴き、午前中は町中での依頼をこなし、昼食を食べた後は夕方までスライムの森でブルースライムを狩り皮を収集。あとは町に戻って依頼完了の手続きと報酬のお金を受け取る。そして食事して銭湯で汗を流し、馬小屋で就寝すると言う日々を送っている。
魔物との戦闘をしている為、必然的にレベルが上がる。【異世界からの流れ人】の称号効果もあって、今ではレベルが7にまで上がっている。そして、スライムを斧でスマッシュしたからか【殴打Lv1】というスキルが習得可能だったので、レベルアップ時に入手したポイントを5つ消費して習得した。
あと、二日前に冒険者カードを確認したら新たに【斬撃Lv1】と言うスキルが習得可能だったので、こちらもポイントを5つ消費して習得しておいた。
これらのスキルは受付の人曰く、それに対応する攻撃の威力を僅かに向上させる効果があるそうだ。
ただ、これらのスキルを習得しても遠距離攻撃が可能となる訳じゃないので、今の俺は近接戦闘を主体としている。
スライム相手ならまだ大丈夫なんだけど、他の魔物と戦う時は遠距離からの攻撃手段は持ち合わせていた方がいい。魔物は何も地上を這うものだけじゃなく、空を飛んだりする魔物も当然いる。それらを相手にするにはどうしても近接攻撃だけでは分が悪すぎる。
一番初めに思い浮かんだ遠距離攻撃は魔法だ。ここはファンタジーな異世界。ステータスの項目にも魔法ってのがある。だから、魔法を覚えれば空を飛んでいる相手にも有効打を与えられるようになる。
けど、ここで一つ問題が。
俺の魔力ステータスランクはなんと最低のF-。魔力のランクがFの位だと魔法を覚える事が出来ないそうだ。E-になって漸く、魔法を覚えられるようになるらしい。
しかも、この魔力のステータスを伸ばす方法は魔法を使い続ける事。もしくは魔力を流して魔道具を使用し続ける事だとか。
前者は魔法が使えないので無理。後者はまず魔道具を手に入れれば何とかなるので、魔力を伸ばすには魔道具に魔力を流し続けるしかない。
この魔道具には様々な物が存在する。例えば、魔力を流して一定時間経つと爆発する【マジカルボム】、少しの間身体の表面シールドが発生する【マジカルシールド】、指定した相手の魔法詠唱を妨害する【マジカルジャミング】なんてのがある。
勿論、戦闘用のものだけでなく、日用品にも活用されている。映像を残す【写映機】に文字を打ち込んで紙に同じ内容のものを何枚でも刷る事が出来る【印刷機】、そして遠くにいる人と会話出来る【念話機】などもある。
ただ、これらの魔道具。基本的に結構高い。普通に50000ピリーとかする。あと、戦闘用に関しては消耗品だ。一回使えば壊れてその都度補充していかなくてはならない。日用品のも何回か使うと壊れる物もある。
魔法が使えないうちは魔道具に魔力を流す方法しかないけど、金銭的な問題が纏わり付いてしまう。
それでも俺は魔法を覚えたかったので、スライムを倒しまくってお金を貯め、魔道具【発光珠】なる物を買った。【発光珠】は魔力を流す事によって光が灯る魔道具だ。夜道を歩く時とか、野宿する時とか役に立つ。お値段は魔道具の中で一番安い30000ピリー。これを買った御蔭で所持金が一気に600ピリーにまで減った。
取り敢えず、移動中とか寝る時とか、時間があればこの【発光珠】に魔力を流している。流し方はギルドの受付の人に教えて貰ったから問題ない。最初は上手く行かなかったけど、何回かやると魔力が流れるようになって淡く光るようになった。今では普通に光るようにもなった。
で、魔法を使えるようにする以外にも遠距離攻撃をする方法も思いついてる。
それは、球を打つ事だ。スキル【卓球Lv1】があるんだから、打った球にも補正が入る筈。普通に打ったり投げたりするよりも威力の増した球ならば充分にダメージソースになる。
ただ、如何せんよさそうな球体が見付からないんだよな。今の俺のラケット(?)はハンドアックスだ。仮に金属球を打とうとすればハンドアックスにかなりの負荷がかかり、刃の部分が脆くなってしまう。最悪一発で刃が粉砕される可能性もある。
流石にそれでは本末転倒なので、球はあるべく柔らかく、そして弾性があるものが望ましいか。ただ、そうなるとピンポン玉と勝手が違ってくるから、慣れる為に試し打ちをしないといけないな。
まぁ、それも条件に合致する球体が見付かってからの話だけどさ。
何かいい球体ないかなぁ、と思いながらブルースライムを狩っていると、ある物が目に付いた。
そう、ブルースライムの皮だ。この皮は弾力があって加工しやすい。
俺はこれを使って球にすればいい……と思った訳じゃない。
これでラバーを作ればいいんじゃないか、と考えた。
卓球では木のラケットにゴムの層とスポンジの層からなるラバーを貼り付ける。ラバーの種類は色々あり、それによって球のスピード、回転数が変わってくる。
ただ、今回はハンドアックスの金属部分を保護する目的でラバーを貼ろうかと考えた訳だ。
柔らかく、弾性のある球が見付からない。そこから逆の発想をしたのだ。ハンドアックスの金属部分に柔らかく弾性のある物を貼り付ければ、金属部分に加わる衝撃を減らせるんじゃないか? と。
そうと決まれば、と俺は昨日何時も以上にブルースライムを狩り、ギルドに戻ってスライムの皮の加工が出来る人を紹介して貰い、作って貰った。
そして、今日。俺は試し打ちを兼ねてスライムの森に来ている。
手に持つハンドアックスの金属面には加工された半透明な青色のスライム皮が貼られている。凹凸はなく、真っ平で横から見れば綺麗な直線を描いている。金属面に接しているスライム皮の部分は粘性が増しており、接着剤なしでもペタッと貼り付ける事が出来、自由に剥す事も出来るようにしてもらった。
ただ、あまり長時間つけていると錆びそうなので、使い終わったら即剥すように心掛けるとしよう。
「よしっ」
俺は軽くハンドアックスを叩き、左手にピンポン球サイズの金属球を持ってブルースライムを探す。
森に入って数十秒と経たずに、ブルースライムを発見する。今回は向こうが近付いて来るのを待たずに、こちらから攻撃を仕掛ける。
俺は左の手の平に金属球を置き、右足を前に出し、左の脇に挟むように右手に持ったハンドアックスを構える。
左手に乗せてる金属球を上に放り投げるのと同時に、右足を上げてやや前傾姿勢になって上体を少し左に捻る。
タイミングを合わせ、右足を踏み抜くのと同時に落ちてくる金属球を斜め下から擦るようにハンドアックスを居合のように振り抜く。所謂、バックハンドサービスの打法だ。
スライム皮に接触し、擦れるように当たった金属球は右斜め下回転が加わり、カーブを描きながらブルースライムへと向かって行く。
金属球は吸い込まれるようにブルースライムへとぶち当たり、ブルースライムは金属球に押されるように後方へと吹っ飛ばされる。
その際に金属球はブルースライムから離れず、それどころか回転しながらどんどんとめり込んで行く。
終いには、ブルースライムの皮をドリルの要領でぶち破って向こう側へと突き抜けた。開いた穴から青い液体が流れ出て、ブルースライムは皮だけを残して地面に落ちる。
すどんっ!
で、勢いの衰えた金属球は近くに生えてた木の幹に当たり、軽く痕をつけて地面にぼとりと落ちる。
「……すごっ」
思ったよりも威力が凄かった事に驚きつつも、実用的な攻撃方法だと分かって嬉しさが込み上げてくる。
金属球とスライムの皮を手に取り、俺は新たな獲物を求めて森の中を進む。
今日は、この方法だけでスライムを狩ろう。
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