聖談
「ああもしそこのお嬢さん」
「私?」
「そうだよ。よければ私たちの会議に参加していかないかね」
「でも私には探し物があって」
「ならば尚更のこと情報収集が必要だ。是非参加していきたまえ」
「そうだよ。そのほうがいい」
ガヤガヤと多くの人が集まっていた。活気があるものの剣呑な雰囲気があるわけではない。黒髪をした細身の女性、編集者という役割を担った彼女はその集団に近づいていく。最初に声をかけられた男性に編集者は質問を投げかける。
「これは何のための会議なの?」
「何のための会議?面白いことを聞くね」
「そうだな。それを決めるための会議ともいえるかもしれない」
「哲学的でいいね」
「ところで哲学とは何であろうか」
「古くは知を愛するギリシアの言葉よ」
「ギリシアといえば……」
すると四方八方から男女が集まってきて彼女の話とは関係がない話を進めていく。近くにいた女性に編集者は尋ねた。
「私は探しているものがあるのですが」
「へえ、どんなものを?」
「面白い小説です」
編集者の言葉を聞いたその場はとたんにざわめいた。
「おいおい面白い小説だって?馬鹿をいっちゃいけないよ。そんなものが簡単にできたら苦労はしない」
「山の頂上にいくほど面白い人たちはいるらしい」
「彼等は自分たちの身内で評価しあっているだけ」
「そんなこともない。第一、目立てば他の人にも読んでもらえるだろう」
「割合の話で……」
「そもそも面白いって何だよ」
「そうだ、面白いって何だよ」
群集の群れが編集者に目を向ける。つくり笑いを浮かべながら
「えっと、評価されるってことだと思います」
そう編集者はつぶやいた。
「はあ?あんた一番売れているジャンクフードが一番美味いという口かね」
「誰も食べない消し炭になったものよりかはマシだろう」
「なんだと!」
「おいおい落ち着けって!彼もあんたに言ったわけじゃないだろう。彼女も彼女だ。不用意に面白いという言葉を使って誰がどう傷つくかを考えていない。どっちもどっち」
「愚弄する気か?」
「でも何が面白いってことなのかは気になる」
「私もー」
「なんでもかんでも言っちゃダメってありえなくない?」
「おい!言葉を慎め!俺を誰だと……」
「面白いという言葉の定義をしよう」
編集者は切り株に腰掛けると左手を軽く口元に当ててあくびを隠す。そのまま頬を支えて軽く目をつむると睡魔に襲われてしまい、まどろみの中に沈む。彼女が目覚めたときには日の位置は大きく動いており、3時間ほど経過している。
「つまり面白さとは」
「私はそれを面白いとはいえないと思う」
「おなかすいたね」
「ねむい」
「ギリシアの歴史を考えてみると知を愛するという言葉の文献が残っているのはプラトンの代表的な本でソクラテスの言葉だ」
「オークの群れを見たことがあってついこの前」
「根拠が無い」
「カラスをみたことがあるかい。この山にはたいそう大きなカラスがいるそうだが、あれも作家のようだよ。しかもそのカラスがウサギと喧嘩をしたらしくてね。どちらも無事ではなかったらしい。いったいどうやってウサギがカラスを撃退したというのか」
「オークの媚薬も飲んでみたい」
「病気も怖いね」
「医者がいうには健康のためには少しの運動がいいらしい」
そっと編集者はその場を離れた。そして三日後に再び足を運ぶと人々は同じように話を続けていた。
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