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「で、これがその日記なわけだけど」

 待ってましたとばかりに由希はノートをカウンタの上に置いた。

「いや、店長さ、なんで今それを持ってるの?」

「七夕の日は毎年持ち歩くようにしてるの。お守り、みたいなものかな」

 まさか隆一さんが今日くるとはねー、と由希は言う。

 でも美沙は思うのだ。由希のことだから、もしかしたら隆一が来ることを初めから想定していたのではないだろうかと。

「それで、今そのノートを取り出してどういうつもりなんだ。まさか今から俺を公開処刑にでもするつもりなのか」

 隆一もそうは言うものの慌ててはいない。まるでそうされても仕方ない、といった感じで。

「まさか。全部は読みません、要点だけです」

「要点は公開するんだな」

 公開する、といっても、事情を知らないのは美沙だけだ。

「いいの?」

 今までは勢いがよかった美沙も茉梨の死の話を聞いてからおとなしくなっていた。

「私が知ってしまって……いいことなの?」

「美沙ちゃんならいいよ。いずれ話すつもりだったし」

「そうなの?」

 うん、と由希は笑った。

「美沙ちゃんは大切な仲間だからね。そろそろ私の根幹にある出来事を知ってほしいな、って思ってたし」

「店長……」

「あ、もちろん、美沙ちゃんが望むならだよ。無理強いはしないけど」

「もちろんです、店長! 私はどこまでも店長についていきます!」

 ぎゅっと美沙は由希の手を握った。

「そっか」

 柔らかな笑みを由希は浮かべた。

「年下の子を甘えさせるって、こういうことだったんだね」

 かつての茉梨と優奈の姿を由希は今の自分に重ねた。

「それじゃ、始めようか。そうだね、最初は……」

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