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「あれから二十年なんだよな」

 店はもう閉まっているのだが、店長の由希と向かい合う形で隆一は淹れたてのキリマンジャロを片手にカウンターに座っている。

 ちなみにウェイトレスの美沙に対しては、由希は長くなりそうだからもう帰っていいよと言ったのだが、「二股野郎と店長を二人きりにはできません!」ということで、少し離れたテーブルからにらみを利かせていた。

「やっぱり思い出深いんですか」

「そうだね」

 本当ですかね、と言いつつ、由希は手元のブルーマウンテンをぐいっと飲み干した。

「でもお姉ちゃんから告白されたときって、すぐにはオーケーしなかったじゃないですか」

「そりゃいきなりだったし」

 女性二人の冷たい視線を感じて、隆一はこほんと咳払いをした。

 隆一にとって今日は飛んで火に入る夏の虫のような目にあうことを覚悟してここにきたのだ。それはわかっているが、やはり居心地は悪い。

「言い訳していいかい」

「私にしても仕方ないと思うんですけど……」

「じゃやめとくわ」

 あっさりと隆一は引き下がった。

「言い訳しても俺が最低のヘタレ野郎ってことには変わりないからね」

「あのさ、店長」

 美沙が遠慮なく会話に入り込んできた。おしゃべり好きのこの子がこの空間に居る時点で想定できたことなので、由希はなぁにと答えた。

「この最低ヘタレ野郎って、店長のお姉さんと付き合ってたの?」

「そうだよ」

「なのに二股したってこと?」

 ずけずけと直球を投げてくる。

「うーん……話はそう単純でもないかな」

「そうなの?」

「やっぱ、身内から見ても、茉梨お姉ちゃんに全く非がなかったとは思わないし。あ、いや、でもどうなんだろうね。病気だったんだし、お姉ちゃんの問題じゃなくって、やっぱり運命だったのかな。うーん……」

 小声でぼそぼそと由希はつぶやいた。

「別に全部俺が悪かったでいいじゃんか」

 助け舟を出したつもりだったのであろうか。だが隆一の申出を、由希はきっぱりと断った。

「よくないです。なんでもかんでも自分のせいにしないでください」

「だけど」

「そんなことで、お姉ちゃんが浮かばれると思っているんですか?」

 いつもはおっとりしている由希にしては強い口調だった。

「お姉ちゃんはあなたのことが心の底から好きだったんですよ。ただでさえ私の中であなたの印象は悪いのに、これ以上自分で自分の価値を下げるようなことをしないでください。お姉ちゃんがかわいそうです」

 なんでこんな人をお姉ちゃんは好きになったのだろうと由希は首をかしげた。こうやって周りの人を守るために自分から泥をかぶってくれるところなんだろうな、ということには気づいていたけれども。

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