ウォルヴァンシア・バレンタイン♪

 ――Side ウォルヴァンシア王宮メイド・リィーナ


「ユキ姫様、おはようございます!! 今日はいよいよ『チルフェート・デー』本番なわけですが、ご準備の方はいかがですか? 私もお供させて頂いてもよろしいでしょうか!?」


 朝一番でユキ姫様の許を訪れ、自分も義理チルフェートを包んだ小さな小箱を大量に入れたカゴを手に持ちながら、いつも以上のテンションの高さで朝の挨拶と共にユキ姫様の傍へと駆け寄っていきます。

 すでに朝の支度を終えられているユキ姫様の背後のテーブルには、各男性や王宮の者達に渡す為のチルフェートをラッピングした箱がどっさりと入っておりますね。流石準備万端の模様です。

 全部、ユキ姫様が想いを込めてお作りになられた、チルフェード菓子ばかり。

 ユキ姫様を意識されている男性陣の皆さんだけでなく、王宮の者達も、それを頂ける瞬間を心待ちにしているのです!!

 勿論、男性陣ばかりではありません。ユキ姫様はチルフェートを女性陣にも配られる予定なので、男女関係なく、大盛り上がりは確実なのです!!


「おはようございます、リィーナさん。……今日は、もしかして、お休み仕様ですか? 私服ですよね、それ」


「はい!! 今日のこの日の為に、休みをもぎとっておきました!! チルフェート配りも量が多そうですし、少しでもお力になれればと思いまして!!」


 本当は、ユキ姫様のチルフェートを貰ってデレデレする男性陣の反応が見たいだけなんですけどね!!

 それぞれにタイプの違う方ばかりですし、ユキ姫様とのやりとりも楽しみなんですよね~。

 そんな自分の下心満載の今日この日を楽しむ為に、三か月前からメイド長様の腰に縋り付いて休みを頂けるようにお願いしておいたのですよ!!

 いつもは両サイドで三つ編みにしている亜麻色の髪を整えて背に流し、町娘仕様の白い長袖の服に、胴の辺りを黒紐で真ん中を交差させて身体のラインをきゅっと引き締めた紺色の上位。

そして、同色で広がりのあるロングスカートを纏っている私を珍しそうに眺めながら、ユキ姫様が「よく似合ってますね」と褒めてくださいました。

 

「でも、私の為にリィーナさんの貴重なお休みの日を使って貰うのは、ちょっと申し訳ない気が」


「大丈夫です!! むしろ、付き添わせて頂けないと、私の休みが収穫なしで終わってしまいます!!」


「え……、しゅ、収穫、ですか?」


 あ……、つい私の中の願望がっ。私は慌ててユキ姫様を誤魔化すと、自分の手首から下げているカゴから薄いピンク色の包み箱を取り出しました。

 去年は私がユキ姫様から素敵なチルフェート菓子を頂きましたからね。気合を入れて用意したんですよ!!


「どうぞ、ユキ姫様。私からのチルフェートです!!」


「え、いいんですか? わぁ……、可愛らしいラッピングの箱ですね。ふふ、でも丁度良かったです。私もリィーナさんに用意していたんですよ」


 蕾が春の風を受けて柔らかに綻んでいくように、ユキ姫様は嬉しそうに受け取ってくれました。

 そして、テーブルの方から、少し大きめの黄色いラッピング袋を手に持って私の前へと戻ってきます。

 差し出された希望の色。受け取る際に触れた、ユキ姫様の優しい温もりの感触。

 私はそれを丁重に受け取って、ぎゅっと胸に抱き締めました。


「今年もまた頂けるなんて……、ユキ姫様、本当に、有難うございます!!」


「私のいた世界では、仲の良い女の子同士で交換し合う友チョコ、あ、この場合は、友チルフェートと言った方がいいですね。そういうのが流行っているんです」


「はわ~……、そうだったんですか。エリュセードでも、女性同士で交換というのはないわけではないんですが、やはり、女性から愛する男性にとか、お世話になっている男性にというのが主流ですね」


 それに、こんなに沢山のチルフェート菓子をせっせと厨房でお作りになっていたユキ姫様は本当に凄いと思います。

 私達が王族の皆様のお世話をさせて頂くのは当たり前の事なのに、ウォルヴァンシアの王族の皆様は、レイフィード陛下をはじめとし、私達下々の者達にも感謝の念を抱いてくださる。

 本当に、勿体ない程の幸福と、お仕えしていて良かったと、心から思える主様達です。

 

「ところで……、ユキ姫様」


「はい?」


「今年は……、本命の方用のチルフェートはあるんですか?」


「え、えっと……、そ、それは……そ、その」


 おやおやぁ~? 不自然な程に可愛らしく動揺されてますね~。

 ポッと秘密の熱を頬に抱いたユキ姫様のもじもじとした反応に、同性ながらも、こう……わきわきと抱き締めたい衝動に駆られてしまうのは、本当に罪作りな御方だと思います。

 けれど、これで確証が出来ましたね。今年のユキ姫様には、本命チルフェートが用意されている、と!!

 私はくるりとユキ姫様に背を向けると、バレないように小さく喜びのガッツポーズを取りました。

 ふふふふふふふ、今年は義理ではない、素敵な甘々仕様のシチュエーションが間近でみられるのですね~!!

 エリュセード神様、チルフェート・デーを作って下さって、本当に有難うございます!!

 このリィーナ、必ずや、心の萌えメモリアルにユキ姫様の記念すべき一日を刻ませて頂きます!!




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 朝食を終えたユキ姫様の供をし、王宮の騎士やメイド達にチルフェートを配りながらやって来たのは、ウォルヴァンシア王宮の二階にある図書館です。

 もう一か所、王宮の敷地内には小さな森の図書館があるのですが、使用率が多いのは、断然、二階にある綺麗で広い図書館の方ですね。

 こちらには、図書館司書のアイノスさんという男性が常勤していますし、明るくて過ごしやすい場所なのですよ。


「アイノスさん、おはようございます」


「あぁ、ユキ姫様、おはようございます。せっかくお越し頂いたのに申し訳ないのですが、今日はちょっと館内の整理作業が入っておりまして、ご覧の通りです」


 階段を上り終え、二階の王宮図書館に続く広々とした通路の先から歩み寄ってきたアイノスさんの言葉に前方の先を見遣れば、両開きの大きな扉は左右に開かれ、沢山の本を抱えて館内のあちらこちらを行き来している方々の姿がありました。

 これでは中に入る事が出来ませんねぇ……、どうしましょうと目でユキ姫様に尋ねてみると、アイノスさんから声がかかりました。


「もしかして、何か御入用の本がありましたか? でしたら、俺が取りに行ってきますが……」


「いえ、今日はチルフェート・デーの贈り物を配りに来ただけですから、大丈夫ですよ」


「チルフェート・デー……、あぁ、そういえば、今日でしたね」


「アイノスさ~ん、女の子が勇気を振り絞る一大イベントをど忘れって、ちょっと問題ですよ?」


 男性なら、意中の人からのチルフェートを気にしてそわそわする日でしょう?

 なのに、この落ち着き払った司書さんときたら……、女性よりも本の方が大事なんでしょうねぇ。

 イベントの事を思い出しても、全く自分には関係ないとばかりに、にこやかな対応っぷりです。


「そうは言われても、毎年義理チルフェートの類を貰って、やっと気付くぐらいだからね。そういうリィーナは、ユキ姫様のお供かい?」


「意中の方にアピールするとか、本命を貰う為の努力をした方がいいですよ~!!」


「ははっ、そうだね。じゃあ、貰いたくなったら、少しお強請りしてみようかな」


「くぅぅぅっ、何でそんなに余裕たっぷりなんでしょうね!!」


 自分のカゴから義理の小箱を取り出し、持ってけ泥棒!! とばかりに、私はアイノスさんの手にそれを押し付けます。

 こういう余裕綽々の、大人の男性を前にしていると、恋愛話大好きな私としましては、その鉄壁の余裕をぶち壊して、激しい恋心に振り回される萌えな姿を楽しみたいという欲求が!!


「アイノスさん、早く本命さんを見つけてくださいよっ。それで、私に素敵なシチュエーション萌えをさせてくださいっ」


「相変わらず、恋愛系の話に目がない子だね……。まぁ、平和でいい事だけど、そういう君も、早く恋をしたらどうかな?」


「そういえば、リィーナさんって、恋人さんとかいるんですか?」


「え……」


 人の恋愛話は大好物ですが、まさかここで……、私に矛先が向かうとは!!

 ニコニコと、悪意のない好奇心の眼差しに晒された私は、どう反応していいかもわかりません。

 だ、だって……、今までに淡い初恋をした事はありますが、本気で誰かを好きになって恋人同士になった事なんて……。


「う、うぅっ……、わ、私は、ま、まだ、『少女期』なので、え、縁のない話というかっ」


「『少女期』でも、時間はかかるけど、恋は出来るよね? 恋人だって、いても別におかしくないと思うんだけど」


「い、いません!! わ、私は、皆さんの幸せそうな恋の話が好きなだけで、じ、自分がそうなるというのは、まだ、考えられません!!」


 『少女期』と『少年期』にあたる者達は、大人となる『成熟期』と違い、恋愛感情を抱き、意中の相手を定めるにはかなりの時間がかかるのです。

 感情の波が難しくなるというか、惑わされる対象も多く、自分で自分の気持ちがわからない。

 だから、本当に、ゆっくりゆっくりと……、愛する相手を心の中で時間をかけて定めていくのですよ。

 それなのに、アイノスさんは意地悪な方です!! 繊細な乙女心を掌の上で弄ぶような発言をするなんて!!

 あ、ユキ姫様はいいんですよ!! 女の子同士ですから!!

 

「君の場合は、自分の欲に素直すぎて、自分の幸せに意識が向いてないだけだと思うよ? せっかく可愛い顔をしているんだし、誰かと想い合う楽しみを見出しても……」


「余計なお世話ですよ!! 『成熟期』を迎えているのに、未だに独り身のアイノスさんの方こそ、さっさと恋人を作られたらいかがですかね!!」


「り、リィーナさん……」


「あぁ、でも、アイノスさんの場合、人よりも本の方がお嫁さんに相応しそうですけども!!」

 

 売られた喧嘩は買いますよとばかりに、ズズイッと長身のアイノスさんを見上げ挑発してやると、あれ、何でしょうかね。物凄く楽しそうな気配がアイノスさんの瞳に……。


「そうだね。……作ろうかな。もう少ししたら、本気で」


「え……」


 唐突に、アイノスさんの穏やかな青の双眸に、洞窟の中に潜んでいた凶悪な魔獣でも叩き起こしてしまったかのような怖い気配が浮かび上がりました!!

 ズゥゥゥン……と、私とユキ姫様が手を取り合わずにはいられない程の極寒の気配が周囲に満ちると、アイノスさんは喧嘩を買った私の方をじっと見つめながら、僅かに口端を持ち上げます。

 普段の穏やかで落ち着いたアイノスさんの気配じゃありませんよ!!

 隠し持っていた鋭い凶爪を不気味に光らせながら、今にも獲物に狙いを定めて喰い殺しにかかってきそうな恐ろしい気迫を感じます!!

 ただの王宮図書館の司書に相応しくない迫力に、恐れ戦く私とユキ姫様ですっ。


「ふふ、なーんてね。昔、騎士団に所属していたから、噛み付いてくる子の躾をする時の癖がつい」


「癖って何ですか~!! 私だけでなく、ユキ姫様まで怖がらせるなんて最低です!!」


「申し訳ありません、ユキ姫様。ご無礼を」


「い、いえ……。でも、珍しいですね。アイノスさんが、あんな気配を纏うなんて」


 まだ小刻みに震えているユキ姫様を守るように、むぎゅっと抱き締めた私は、館内にいる人達の分のチルフェートの箱をささっとその場に置くと、ダッシュで逃げる事にしました。

 あんな怖い方の傍にいたら、ユキ姫様に何があるかわかったものじゃありません!!

 私は、さっき渡した義理チルフェートの小箱を乱暴な手つきで奪い返すと、それをスカートのポケットに押し込み、ささっとユキ姫様の手を引いてその場を離れ始めました。

 

「あ、あの、リィーナさんっ、そんなに急がなくてもっ」


「い~え!! すぐに離れましょう!! アイノスさんは怖い人です!! ユキ姫様を危険に晒したら、国王陛下に申し訳が立ちません!!」


「はぁ、ユキ姫様には何もする気はないんだけどね?」


「アイノスさん、それって、リィーナさんの方には何かするって聞こえ、きゃっ」


「ああっ!! ユキ姫様、大丈夫ですか!?」


 転びそうになるユキ姫様を支え、後ろでくすくすと笑っている図書館司書様に舌を出して悪態を吐き、その場を離れていきます。

 十分によくわかりました。アイノスさんは、ああいう性格をしているから、お嫁さんの当てがないんですね!!

 


 ――……。



「まだまだお子様だね、あの子は……。

 まぁ、元気があって見てる分には飽きないんだけど……、

 あの子はそろそろ……、自分に向けられている『感情』にも、敏くなってほしいものだね」


 私とユキ姫様が去った後、義理チルフェートの山を腕に抱えたアイノスさんは苦笑と共に呟いた独り言を聞く事は出来ませんでしたが、穏やかな司書様の口許に意味ありげな笑みが浮かび、その小さな含み笑いと共に、足音は慌ただしい館内へと向かって、消えて行ったのでした。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 意地悪なアイノスさんの許を去り、次にやって来たのは銀の髪の副団長様がいらっしゃるウォルヴァンシア騎士団の稽古場です。

 団員の皆さんが輪を作って盛り上がっているその中心では、隊長格の一人であるレオンザード様と、副団長のアレクディース様が銀の切っ先を互いに構え、激しい剣戟を繰り広げられております。

 体格的に言えば、レオンザード様の方が長身でがっしりとした戦士としての身体つきをしていて、傍目から見れば、勝敗は決まったも同然……。

 けれど、必ずしも大きく強そうに見える方が勝つとも限らないもので、現在の勝負模様は、隙のない剣捌きで流れるようにレオンザード様の攻撃を躱しながら、アレクディース様が確実に攻めていっております。

 動く度に宙へと流れるように舞う、白銀の月のように美しいアレクディース様の御髪。

 団員さん達の視線を受けながらも、決して意識を逸らす事なく、目の前の敵を打ち倒す事だけを、その深い蒼の双眸に込められた闘気が物語っています。

 団員の皆さんに最前列を譲って貰い、お二人の鍛錬の様子を嬉々として眺めていると、アレクディース様の意識が一瞬だけ、ユキ姫様の方へと向けられました。

 けれど、それは本当に僅かな瞬間だけで、叩き付けるように振り下ろされたレオンザード様の巨大な剣の一撃を躱し、アレクディース様はその懐へと飛び込んで鋭く研ぎ澄まされた殺気と共に、レオンザード様の首許に勝利の証を突き付けました。


「降参です……、副団長」


「レオン、前よりは精進しているようだが……。やはり大剣を扱うせいか、隙が出来やすい。振るった後の対処も詰めておけ」


「了解です」


 ようやく手合せが終わったみたいですね。

 私はユキ姫様と共に、アレクディース様の許に駆け寄っていきます。

 ほんのりと滲み出した汗を団員の方から受け取ったタオルで拭っていたアレクディース様が、ユキ姫様のお顔を目にすると共に、滅多に見られないような蕩けるような笑みを浮かべます。

 私はユキ姫様から少しだけ離れ、これから始まる素敵な萌えシチュエーションを堪能する為に待機しつつ、義理チルフェートを団員の方々に配っていきます。

 さりげな~く、見てませんよ~と、アピールするのも忘れません。


「すみません、お仕事中にお邪魔してしまって……」


「いや、丁度この手合せが終わった所で執務室に戻るつもりだったからな。ユキ、お前が訪ねて来てくれて……嬉しい」


「そう言って頂けると、とても嬉しいです」


「今日は……、そうか。チルフェート・デーだったな、確か。わざわざ届けに来てくれたのか?」


 ユキ姫様の腕に下げられているカゴを見下ろしたアレクディース様が、心からの喜びをその低い声音に乗せて優しい音を奏でます。

 きっとユキ姫様以外の方には向けられない顔ですよね~。

 お二人の間に漂う、心からの信頼関係と、見ている者達を和ませる癒しのオーラ……。

 レオンザード様と繰り広げていた戦いが嘘のように、凪いだ海の流れを思わせる穏やかなアレクディース様の温かな気配。

 きっと、愛おしい方が傍におられるからなのでしょうね~。ふふふふ、ニヨニヨが堪え切れませんよっ。

 ユキ姫様の手からチルフェートのカゴを受け取り、執務室まで持たせてくれと微笑むアレクディース様の姿を、私だけでなく、団員の皆さんも保護者のような温かい気持ちで見送ります。

 堅物の副団長様が、一人の女性の前では牙全抜きですものね。

 出来ればアレクディース様のお気持ちが叶いますようにと、騎士団の思いはひとつなのでしょう。

 ……って、いけません!! 私も早く追いかけなくては!!




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ユキ姫様とアレクディース様の後を追いかけ、やって来ました副団長執務室。

 中では、難しそうな書類の束と睨めっこをしている副団長補佐官のロゼリア様が、真剣な様子で羽根ペンを走らせておりました。

 ロゼリア様の夕陽色の美しい髪は、騎士団の勤務の時は邪魔にならないようにとのお考えらしく、頭の上の方でひとつに束ねられています。

 あぁ、物憂げに吐き出されるそれさえ、女神の吐息のように惹き付けられてしまいますっ。


「ん? あぁ、副団長、お帰りなさいませ。手合せは終わられたのですか?」


「一通りは済ませた。あとはクレイスとレオンザードが相手をする予定だ」


「了解しました。では、ユキ姫様とリィーナ殿もお越しになられた事ですし、少し休憩の時間をとった方がよろしいでしょうね」


「あ、ロゼリア様、お茶なら私が!!」


 たとえ休みの日であろうとも、お茶を淹れるのはメイドの役目というもの!!

 という訳で、勢いよく挙手したわけですが……、あ、ロゼリア様が楽しそうに片目を瞑って颯爽と行ってしまいましたっ。

 流石は、茶葉の専門店、カーネリアン茶葉店の娘さんですね!!

 去年と同様に、お茶を淹れる役目を自然な流れで奪われてしまいましたっ。

 でもまぁ、貴重なチルフェート・デーの甘々なシーンを見逃さずに済むので、ロゼリア様、心から感謝です!!

 私は視線を目の前に戻し、今まさに、ユキ姫様の手からピンク色の可愛らしいピンクのレースリボンできゅっと結ばれた青色のラッピング袋を受け取ろうとしているアレクディース様の反応をカッと目を見開いて観察します。

 基本的に、アレクディース様はユキ姫様相手であれば、始終その表情が綻んでいるのは変わらないんですが、やはり、特別な贈り物の日、しかも、チルフェート・デーとなると、どこぞの誰かのように平常心ではいられないのでしょうね~。

 嬉しそうにユキ姫様の顔を見つめながら、その手元は器用にリボンを解いて中身を取り出しています。

 ユキ姫様がアレクディース様の為にお作りになられたそれは、まるで子供が肌身離さずその腕に抱いていそうな、可愛らしい狼を模した濃いダークブラウンの物体でした。

 チルフェートでコーティングしてあるらしきそれに、アレクディース様の目が驚きの気配に染まります。


「外側はチルフェートで固めてあるんですけど、中には小さなクッキーがいっぱい入ってるんです」


「そうなのか……。だが、これだけ立派に出来ている物を壊すのは、少々忍びないな」


 ええ、本当に……。職人も顔負けの技術が施されてますよ、その狼チルフェート。

 アレクディース様の、嬉しいけれど、少し困った様子を観察しながら、一体どの部分から食べるのだろうと、ちょっとだけ面白がってしまうのは仕方ありませんよね~。

 

「暫くは……、飾って楽しませて貰おうと思う。お前が俺の為に趣向を凝らしてくれた逸品だ。すぐに食してしまうのは、勿体ない」


 アレクディース様は一度狼チルフェートを袋にしまうと、おもむろに立ち上がりました。

そして、お茶を淹れに執務室の隣に続いている別室へと向かったロゼリア様の後を追うように、足早にそこへ入ると、一枚の大きな白いお皿を手に戻ってきました。

 

「アレクさん、どうしたんですか?」


「いや、この皿に……、これを置いて、暫く鑑賞させて貰おうかと思ってな」


「ふふ、アレクさんたら」


 再び袋から取り出した狼チルフェートを白いお皿の上に置くと、アレクディース様はユキ姫様とそれを交互にちらちらと見ながら、訪れた幸福に口許を緩ませ、とても楽しそうな様子で無言になられました。

 今、狼の姿になっていれば、間違いなく全開で尻尾をブンブン振られていた事でしょう。

 う~ん……、ですが、この凝ったチルフェート菓子は、果たして本命なのでしょうか?

 ユキ姫様とアレクディース様は普段から強い信頼関係で結ばれていますし、ユキ姫様のお顔にもあまり変化が見られません。

 相変わらずの仲睦まじい騎士様と王兄姫殿下の光景です。

 これは、他の男性陣の皆様との接し方や、用意されているチルフェート菓子にも、よく注意してみておかないといけませんね。

 ユキ姫様の本命がどなたなのか……。今年こそは確かめてみせますとも!!


「副団長、せっかくユキ姫様がプレゼントして下さった物なのですから、せめて、傷まない内にお召し上がりになる事をお勧めしておきますよ」


「あ、ロゼリア様」


 四人分の紅茶を淹れて戻ってきたロゼリア様の言葉に、アレクディース様が苦笑しつつ頷きを返されます。

 確かに、アレクディース様のユキ姫様命の思考を考えれば、飽きずに鑑賞し続けそうですものね。

 勿体なくて食べられないというお気持ちはよくわかります。

 ロゼリア様にお茶のお礼を言って、私はほど良い温度の水面に口を付けると、そういえば、今日は騎士団長であるルディー様のお姿を見ていない事に気づきました。

 あの御方も、普段は十代半ばほどの『少年期』の姿を纏っているとはいえ、実際は二十代前半の『成熟期』のお姿こそが本物だとお聞きしております。

 という事は、ユキ姫様の恋のお相手として、バッチリ対象内のはず!!

 

「あの、今日は、ルディー様は……」


「団長ですか? 今日は確か、ガデルフォーンの騎士団長殿に御用事があるそうで、物凄く面倒そうな顔をされながらも向かわれたはずですが」


「ガデルフォーンにですか……」


 う~ん、それは残念です。

 ガデルフォーンといえば、エリュセードの裏側と呼ばれる別空間に存在する皇国です。

 女帝陛下の御世の許、実力がものを言う実力主義の世界だそうで、国を治めるその座を狙って、絶えず挑戦者達が皇宮へと押しかけてくるのだとか。

まぁ、私は行った事がないので、噂でしか知らないんですけどね。

 けれど、ユキ姫様はガデルフォーンへの遊学経験がありますので、きっとお知り合いの方もおられるはずです。

 

(ルディー様のチルフェート・デーでの反応は見られないわけですね。……残念です)


 こっそりと私が落胆の溜息を吐いていると、ユキ姫様が予想外の事を口にされました。


「じゃあ、あとでガデルフォーンにも行ってみますね。丁度、サージェスさんにもチルフェートを渡しに行く予定だったので、その時に、纏めてお二人に渡してきます」


「ゆ、ユキ姫様、ガデルフォーンにも行かれるんですか?」


「はい。ルイヴェルさんに頼んだら送り迎えをしてくれるはずなので、すぐに行けますよ」


「はわ~……、便利ですね!! 私も喜んでお供いたします!!」


 諦めかけた希望が即座に復活!! その上、ガデルフォーンの騎士団長様にもお会い出来るなんて、滅多にある事ではありません!!

 やっぱり、美形さんですかね!? ユキ姫様の恋のお相手候補なのでしょうか!!

 期待に燃え滾った目で、ふふふふふふ、と、傍から見れば不気味な笑いを零す私を、ロゼリア様が「気持ちはわかりますが、考えている事が表に出ていますよ」と、苦笑しながら背中を軽く宥めるように叩いてきます。

 いえいえ、これはもう仕方がないのですよ。

 ウォルヴァンシアの輝ける花こと、心優しき王兄姫殿下、ユキ姫様の恋愛話となれば、誰だって興味を抱きますとも!!

 特に、チルフェート・デーは、男女にとって特別な日なのです。

 受け渡しの際に生じる、お二人の甘い雰囲気を、バッチリこの目に焼き付けなくては!!


「でもその前に、カインさんを見つけないといけないんですよね。今日は日差しが気持ち良いので、二階の図書館の奥にでもいるかと思ったんですが」


「ユキ……、カインにも渡すのか?」


「はい。でも、先に王宮医務室の方に行こうと思っていますけど」


「そうか……。で、カインに渡すチルフェートというのは」


 ちらりと、ユキ姫様の方を見ながら尋ねたアレクディース様に、ユキ姫様は何の疑いもなくカゴの中から真っ赤な箱に黒いレースリボンが施されたそれを取り出し、差し出しました。

 それを受け取り、じっと険しい表情で見下ろし始めたアレクディース様の手に……、おかしな力が籠るのを見逃さなかったのは、私とロゼリア様です。


「副団長、面白くないというお気持ちはわかりますが、どうか耐えられてください」


「ぐっ……」


 流石は副団長補佐官様ですね。びしっと釘を刺されました。

 大切に想っているユキ姫様が、他の男性に贈り物をなさる事がきっと耐え難いのでしょう。

 特に……、アレクディース様にとって、一番の天敵とも言えるカイン様が相手となると、他の方以上に注意して警戒したい存在です。

 嫉妬の権化となるのも、まぁ、仕方ないのでしょうね。見ている私は大変オイシイですが!!

 そんなこんなで、何とかロゼリア様のお蔭でカイン様のチルフェートを死守出来たユキ姫様は、次なる場所へと向かって副団長執務室を後にする事になったのでした。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「おい、セレスフィーナ。これはこっちでいいのか?」


「ええ。その薬草はそちらの棚で大丈夫です。それと、次の作業は別室にて薬の調合の手伝いをお願いしてもいいですか?」


「おう。別に暇だから構わないぜ」


 次に訪れたのは、セレスフィーナ様とルイヴェル様がお仕事をされている王宮医務室でした。

 入って右奥にある小さな研究室と医務室側を忙しなく出入りしているカイン様の姿を発見した私達は、一石二鳥の光景に安堵します。

 これで、王宮中や町中を探し回らなくて済みますね、ユキ姫様!!

 

「あら、ユキ姫様にリィーナ。今日はどうされたのですか?」


 入ってきた私達に気付いたセレスフィーナ様が、その女神のように美しいご尊顔に慈愛の笑みを纏い、歓迎してくれます。

 前方奥の窓張り仕様の扉の向こうから差し込んでくる暖かな光に照らされた長く柔らかな曲線を描く金の髪も相まって……、本当に、この世のものとは思えないほどの美しさの方です。


「セレスフィーナさん、これを。今日はチルフェート・デーなので、皆さんにお配りして歩いているんです」


「まぁ……、去年に続いて今年も……、有難うございます、ユキ姫様」


 ピンク色の小箱を受け取ったセレスフィーナ様は、その笑みを深め、研究室の方にいるカイン様を呼び寄せました。

 手には様々な種類の薬草を持ち、顔にも少し汚れが見られますが、片付けの真っ最中だったようですね。

 カイン様は、ごしごしと自分の顔を乱暴に拭くと、ユキ姫様の前に立ちました。

 ほんのりと気恥ずかしそうな熱を抱いたカイン様の頬の意味、私にはわかります。

 今日がチルフェート・デーである事を意識しての緊張でしょう、そうでしょう!!

 私はささっと壁の方に身を寄せると、これから始まる甘いイベント模様を楽しむべく、ニヨニヨと含み笑いを小さく漏らしました。

 

「カインさん、これをどうぞ」


「ん……、サンキュ」


 アレクディース様の被害を逃れた真っ赤な箱を、カイン様は素っ気ない仕草で受け取ります。

 左手で口許を覆い、窓の方にわざとらしく視線を外している様子から察するに……、ふっ、にやけるのを必死で堪えているわけですね? この純情皇子様!!

 カイン様はツンデレっぽい所も若干見られますしねぇ……、内心では物凄く嬉しがっていても、ユキ姫様を前にしては、なかなか感情大爆発は出来ないのでしょうね。あぁ、可愛いっ。


「あとで……、休憩中にでも食う」


「はい。甘さ控えめのひと口サイズ仕様ですから、食べやすいと思いますよ。結構数も入っているので、お暇な時にでも食べてくださいね」


「おう……、サンキュ」


 あぁ、なんかわかってきましたよ~。

 カイン皇子が丁度良く、王宮医務室にいた理由……。

 きっとセレスフィーナ様の手伝いと称して、ユキ姫様が必ずここに立ち寄るとわかっていたから、すれ違わずに見つけて貰えるよう、待機していたんですね? そうでしょう!!

 

「……お前って、本当料理や菓子の類が好きだよな。それも全部手作りなんだろ? 手間がかかるってのに……、よくやるよな」


「私の場合は、自分がやってて楽しいからが一番の理由なんですけどね。でも、滅多にここまでの量は作りませんから、やりがいがありましたよ」


「ふぅん……。まぁ、お前が楽しいなら、別にいいけどよ」


 とか何とか言いながら、カイン様の視線はユキ姫様の手許へと向かっています。

 お菓子を作る際に怪我の類をしていないかと心配なのでしょうね。その心配そうな目は。

 カイン様、言葉にしたらどうですか? ユキ姫様の好感度が上がりますよ~。


「あの、セレスフィーナさん、ルイヴェルさんの姿が見えないみたいなんですけど」


「ルイヴェルですか? あの子なら、ウォルヴァンシア国内にある牧場に行っていますよ。昔、縁があったモンモーの子供の様子を見に行くとかで……」


 モンモー? それって、美味しいミルクを生産してくれる、もっふもふの大きな動物ですよね?

 あのルイヴェル様とモンモー……、どういう縁があるんでしょうか。

 はっ、まさか……、密かにモンモー愛好家とか、そういう事なんでしょうかっ。

 いつも何を考えていらっしゃるのか掴みにくい、クールで知的なルイヴェル様が、日頃の疲れを癒しに、モンモーの毛に顔を埋め、ひとときの休息を得る……。

 

『俺が仕事を頑張れるのは、お前の存在があればこそだ……。この温かな触り心地の良い手触りと、栄養満点のミルク……、これに勝る物はない』


『モンモー』


『今この場所には、俺とお前だけだ……。さぁ、こっちだ!! 一緒にこの花畑を駆け巡ろう!!』


『モンモ~!』


『はははははっ、俺を捕まえてみろ、愛しいモンモー』


 美しい花々が咲き乱れるその場所で、王宮医師としての責務から解放され、本来の自分に戻って少年のように笑いながら走り回るルイヴェル様……。


「きっとそう!!」


「ねぇよ!!」


「えっ」


 壁際で趣味の妄想に浸っていると、背後から、容赦なく入ったカイン様のツッコミ!!

 あれ、私……、もしかしなくても、声に出してましたかね!?

 あわわっと振り向けば、カイン様が物凄く残念なものを見る目で私を見下ろしていましたっ。


「お前なぁ、どうやったら、あのルイヴェルがモンモー相手にはっちゃけるっていうんだよ。別に妄想癖があるのはいいが、現実とかけ離れすぎてんだろ」


 やっぱり、聞かれてましたあああああああ!!

 そして、聞き逃せばいいものを、ツッコミを忘れないカイン様は律儀だと思います!!

 

「ま、お前の妄想が現実だったら、腹抱えて笑いまくる自信はあるけどな?」


「か、カイン様……」


 呆れはするけれど、どこか微笑ましそうに私の頭をポンポンと軽く叩いてくださったカイン様が、チルフェートの箱を手に研究室へと戻って行かれます。

 う~ん……、ああいうさりげない優しさが、カイン様の美徳ですね。

 弟妹がいたら、絶対に面倒見の良いタイプですよ、あれは。


「リィーナは何事にも前向きで、楽しい事を考えるのが得意だものね。私も、あの子のそんな姿を想像したら、何だか楽しくなってしまったわ」


「ふふ、私もです。ルイヴェルさんが、にこやかに花畑を走り回ってるなんて……、……ふふふふ、ちょ、ちょっと、意外すぎて、お、お腹がっ」


 ゆ、ユキ姫様までツボにはまってしまって……。

 まぁ、私も正直なところ、自分で妄想しておいてなんですが、我に返ってみると、そんな抱腹絶倒の光景は、色んな意味で楽しいような恐ろしいような気がしてきましたっ。

 もしも、ルイヴェル様にこんな妄想をした事がバレたら、あれですかね? 

 後日、お呼び出しを受けて、怒られてしまうのでしょうかっ。本当にごめんなさいっ。

 一瞬、お説教の後に氷漬けにされる自分の図を想像してしまい、私はぶるりと震えてしまいましたっ。

 なにせ、ウォルヴァンシアだけに留まらず、エリュセードでも有名な魔術師様ですからね……。

 その逆鱗に触れたら何をされるか……、考えただけでも寿命の縮む思いですっ。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ルイヴェルさ~ん!!」


「ルイヴェル様~!!」


 王宮医務室で談笑をした後、私達はセレスフィーナ様の助けを借りて、ルイヴェル様がいらっしゃる国内の牧場へとやって参りました。

 せっかくのチルフェート・デーですので、出来れば顔を見て渡したいものですしね。

 転移の術で訪れたその場所は町の奥にあり、そよそよと優しい風に牧草を揺らめかせながら、それを食んでいる十頭以上のモンモー達が平和そうに暮らしておりました。

 モンモーはその身体をもっさりと白い毛が覆っていますが、大きなお目々だけはバッチリと、私達には見えています。

 気性は温厚で害は一切ない可愛い動物なのですが、こうして何頭も集まっている光景を目にすると、壮観ですね~。モンモー天国じゃないですか。

 その広大な牧草地の真ん中あたりに、ぽつんと見えた人影。間違いありません、あの白衣姿はルイヴェル様に違いないでしょう。

 私とユキ姫様は牧場主の方に許可を貰い、その姿を目指して駆け寄って行きました。


「……ん? あぁ、お前達か。どうした、こんな所まで」


「お届け物があって、追いかけて来たんです。ここへは、セレスフィーナさんに送って頂きました」


「届け物?」


 幼く小さなモンモーの傍から立ち上がると、ルイヴェル様は不思議そうに銀フレームの眼鏡の中心を僅かに押し上げました。

 あぁ、これは……。どこぞの司書様と同じく、今日が何の日か忘れていますね? 

 ユキ姫様が差し出した緑の箱を目にしたと同時に、「あぁ」と、納得の声を上げられました。

 

「今年は自分から届けに来ただけ、進歩だな?」


「去年は、ルイヴェルさんが意地悪な事を仕掛けてきたんじゃないですか!! そのせいで、セレスフィーナさんを怒らせてしまいましたし、少しは反省してください!!」


「お前が俺に相手をしてほしそうな顔をしていたんだがな?」


「してません!!」


 あぁ、確か去年は……、王宮医務室にチルフェートを届けに行った際に、ユキ姫様を壁際に追い詰めて、壁ドンよろしく、敬語でからかっていらっしゃいましたねぇ。

 あの後、セレスフィーナ様が怒りのあまり、裁きの鉄槌をルイヴェル様に振り下ろしたと事後報告で耳にしました。

 今も、素直に反応を返すユキ姫様を面白そうに見つめながら、ルイヴェル様がどう遊んでやろうかとウズウズしていらっしゃる気配がひしひしとっ。

 

「お前はもう少し、自分が相手にどういう印象を与えるか、自分の事を振り返るべきだな」


「まぁ、確かにユキ姫様は反応が可愛らしくて、……いじりたくなりますよね」


「り、リィーナさん!?」


 あ、つい本音がぽろっと……。

 ぎょっと私を振り返ったユキ姫様に「ごめんなさい、ごめんなさい!! でも、本音なんです!!」と頭を下げて謝る私に、ルイヴェル様の方は上機嫌の様子でニヤリと口端を上げられました。


「俺以外にも、ちゃんとわかっている者がいるようだぞ? むしろ、可愛がられる性格をしている事に感謝すべきだと思うがな」


「ルイヴェルさんの場合は、その可愛がり方に多大な問題があるんです!!」


「どこがだ? 俺は可愛い妹のようなお前を日々見守ってやりながら、時に遊び相手にもなってやっているだろう?」


「見守って下さるのはありがたいですけど、遊び相手にはならなくていいんです!!」


「それだと、俺が面白くないだろう? お前は何を言っているんだ?」


「私で面白がるのはやめてください!!」


 ははっ……、相変わらず、ルイヴェル様はユキ姫様『で』遊ぶのが大好きなんですね~。

 集まってきたモンモー達に退路を塞がれて、そのもふっとした毛並みに背を押し付けられたユキ姫様が、去年に続いて、今度はモンモードン! を、ルイヴェル様に強いられています。

 その綺麗なお顔をぐっとユキ姫様に近づけられて浮かべたのは……、まさしく悪魔の微笑み。


「律儀にも届けに来てくれた心優しいお姫様には、俺も心からの礼をしてやるべきだろう?」


「い、いりません!! 全力でご遠慮いたします!!」


「遠慮をする事はないんだぞ? 丁度モンモーの様子見も終わったところだからな。お前の相手をしてやる時間は十分に」


「悪ノリしないでください!! というか、リィーナさんの存在を忘れる真似はっ」


「あ、ユキ姫様、私はたっぷりと鑑賞させて頂きますので、お構いなく!!」


「リィーナさああああん!?」


 私の同行目的は、あくまでユキ姫様と男性陣の皆様の甘々なイベント場面をこの目に焼き付ける

事ですからね!!

 アレクディース様とカイン様の穏やかで可愛らしい反応もいいですが、そろそろ大人の刺激もほしいところです!!

 半泣きで瞳を潤ませるユキ姫様の助けを、ガッツポーズを取りながら泣く泣く退けた私は、無情にもルイヴェル様の味方にまわりました。

 申し訳ありません、ユキ姫様、私……、自分の萌えには逆らえそうにありません!!

 

「リィーナ、あとでお前の気遣いに対する報酬は考えておく」


「光栄です!!」


 さぁ、この目に、心に、素敵な甘々シチュエーションを!! と、期待に胸を震わせる私と、さらなる悪戯を仕掛けようとするルイヴェル様の意図を妨害するかのように、突然頭上高くに空間がぐらりと歪む気配が生じました。

 これは、転移の術が空間に影響をもたらした際に感じられる魔力反応ですね……。


「ルイヴェル~!! 姫ちゃんをいじめんなぁあああ!!」


「ええええええええええ!? る、ルディー様~!?」


 なんという事でしょう!! 遥か上空から現れたのは、我らがウォルヴァンシア王国騎士団長、ルディー・クライン様と、青色の髪を纏うニコニコ笑顔の男性です!!

 上空から飛び降りてきたルディー様が、牧草地に足を着いた瞬間、ルイヴェル様の頭にまさかの渾身の一撃をお見舞いしてしまいました!!

 小さな低い呻き声が聞こえたかと思うと、ルイヴェル様は頭を押さえて仁王立ちをしているルディー様の方を振り返ります。


「現れて早々に一撃とは……、やってくれたものだな?」


「いい歳して、大人げない事をやってるからだっての。はぁ……、サージェスの奴がお前に用があるっていうから付き合ってみれば……」


「ははっ、タイミングバッチリで割り込めたねー」


 ルイヴェル様の腰に追加の肘鉄を打ち込んだルディー様の様子を見ながら楽しそうに笑って、ユキ姫様の傍に近寄ったのは、一緒に飛び降りてきた青髪のとアイスブルーの双眸を抱く男性です。

 あの服は……、身なりからして、恐らくは騎士様なのでしょう。

 ユキ姫様が「サージェスさん」と気を許している事から見て、お知り合いなのは間違いないですね。


「ルイちゃん、駄目だよー。女の子をからかって遊びすぎると、必ずあとでしっぺ返しが来るんだから」


「まだ遊び始めてもいなかったんだがな……、痛っ」


「いやいや、姫ちゃんからすりゃ、ダメージでかいっての」


 凄いですね~……。あのルイヴェル様が、ルディー様からすればまるで子供のようにべしべしと叩かれて追いやられていますよ。

 流石はウォルヴァンシア騎士団長様ですね。年の功ってやつでしょうか。

 姿は十代半ばの年若い『少年期』を思わせるルディー様ですが、中身は立派に大人年齢なので、年下にあたるらしいルイヴェル様の扱いは心得ているのでしょう。


「そうだよー、ルイちゃん。また前の時みたいに、『ルイヴェルさんなんて、大っ嫌い!!』って言われたくないでしょー?」


「……」


 おや? サージェスさんと呼ばれた男性からの気になる発言で、ルイヴェル様が目に見えてわかるほどに、気まずい顔になられましたよ?

 ユキ姫様の方をちらりと見やり、……「今日はこのくらいにしておく」と、降参の意思を示されました。

 どうやら、サージェスさんのお言葉は本当の事のようですね。

 大嫌い……って、言われたんですか、ルイヴェル様。

 温厚で心優しいユキ姫様がそんな言葉を人に叩き付けるなんて、貴重な機会の気もしますが。

 

「ルディーさん、サージェスさん、そういえば、どうしてここに?」


「ルイちゃんにちょっと用事があってね。ついでに、ルディー君と一緒したってわけだよ」


「そうだったんですか……」


「リィーナぁぁああああっ」


「ひぃいいいっ、る、ルディー様、お顔が怖いです~!!」


 ルイヴェル様を難なく撃退したルディー様が、ダダダダッと私の方に迫り、ぐいぐいと私のほっぺたを引っ張ってきますっ。いひゃいですよぉおおお!!

 お怒りの原因はわかってますよ!! 自分の萌えを優先して、ルイヴェル様の悪戯を続行させたからでしょう!? 反省してます、反省してます!! 本当にごめんなさい!!


「ははっ、なーんか楽しそうな子だねー。自己紹介してもいいかな?」


 ほっぺをぐにぐにと引っ張られてお説教されている私の傍に、あの青髪の青年が近づいてきました。

 な、なんでしょうか……。笑顔を纏っているのに、隙の一切ない気配を感じるのですが、この方、本当にただの騎士様ですか? ちょっと得体の知れない迫力を感じますよ!!


「俺は、サージェスティン・フェイシア。一応これでも、ガデルフォーンの騎士団長だよ。よろしくね」


「は、はぁ……。初めまして。ウォルヴァンシア王宮でメイドをしております、リィーナと申します。よ、よろしくお願いいたします……」


 差し出された右手を、恐る恐る握り返します。

 侮れない気配を感じますが……、信頼は出来そうな方ではあります、ね。

 ……って、ガデルフォーンの騎士団長様!? この方がですか!?

 私の目線に合わせて、にっこりとその顔を近づけてきたサージェスティン様にドキッと鼓動を跳ねさせると、その視線が私の持っているカゴへと向かいました。


「ねぇ、これって……、もしかしてあれかな?」


「は、はい?」


「実はちょっと疲れてるんだよねー。良かったら、お裾分けを貰えないかなーと。……駄目?」


 あ、義理チルフェートをご所望なわけですね?

 多めに用意しておいたので、勿論差し上げますとも。

 どこかの誰かさんと違って、意地悪な事を仰いませんし、快く差し上げますよ~。

 私はカゴの中から義理チルフェートを一個取り出して、それをサージェスティン様に差出しました。


「有難うね。書類仕事で多忙を極めてたせいか、女の子からの甘い物が欲しくて欲しくて」


「サージェス、お前……、執務室に山盛りのチルフェートが運び込まれてただろうが!!」


「えー……、ガデルフォーンの女の子って、結構行動派っていうか、過激な子が多いんだよー? 中身のチェック全部終わらせてからじゃないと、とても食べられたもんじゃ……」


 ガデルフォーン皇国の女性陣の皆さんって一体……!!

 過激って、まさか……、意中の方を射止める為に、お薬の類でも仕込むのでしょうか!?

 それとも、魔術を込めた髪の毛とか爪とかですか!? というか、やはりおモテになるんですね!! 流石は騎士団長様です!!

 想像以上の美形様ですし、そりゃあもう、射止めたい女性は多い事でしょう!!

 ですが……、サージェスティン様のご様子を拝見していると、あまり嬉しくはなさそうですね。

 一体、どれだけ凄いチルフェートの猛攻をお受けになられたのでしょうか。


「あの、……色々と大変そうですが、お疲れ、どうか癒されますようにっ」


「有難うねー。向こうの子達も……、君みたいに素直で可愛いといいんだけど。……はぁ」


 本当にお疲れのようですね……。

 私の頭を優しく撫でてくださったサージェスティン様は、胃の辺りを押さえながら哀愁に満ちた溜息を吐かれました。

 

「サージェスさん、お仕事本当にお疲れ様です。丁度ガデルフォーンに伺おうと思っていたところなんですが、こちらに来てくださったのなら、今のうちにお渡ししておきますね」


「ん? もしかして、ユキちゃんも俺にチルフェートをくれるのかなー?」


「お世話になってますからね。はい、どうぞ」


「あぁ、文句なしに安全で可愛い女の子二人目からのチルフェートだよー。お兄さん、嬉しすぎて泣いちゃうね。感動の大洪水だよ」


「そんな大げさな……。ルディーさん、これをどうぞ」


「お、姫ちゃん、サンキュー」


 ユキ姫様の手から心のこもったチルフェート菓子の箱を受け取ったお二人は、嬉しそうに頬を緩められました。

 私が義理チルフェートをお渡しした時も嬉しそうにしてくださいましたが、……やはり、反応が目に見えて違いますね~。

 それが、恋という感情なのかはわかりませんが、ユキ姫様の手から箱を受け取られたお二人の雰囲気は、先ほどよりも喜びの気配に染まっておられます。

 う~ん……、でも、どなたがユキ姫様のご本命なのか……、今いちよくわかりませんね。

 それぞれに、専用のラッピングや仕様が成されているとは思うのですが、決定的な何かが足りないのです。

 ユキ姫様が恋心を向けられているお相手だと確信を抱けるような……決定打が。

 結局、その日はまたウォルヴァンシア王宮へと戻り、レイフィード陛下やレイル殿下達にもチルフェートを配って歩かれたユキ姫様でしたが、お部屋の前でお別れするまで……、私には、どなたが本命だったのか、まるでわかりませんでした。

 



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「はぁ……、恋愛話好きな私の目も、曇ったものですねぇ」


 特別な日が終わっていく夕日の光を顔に受けながら回廊を歩いていた私は、ふと、自分のスカートのポケットに何かが入っている事に気づきました。

 ……あ、そういえば、アイノスさんから奪い返した義理チルフェートを仕舞いっぱなしでした。

 意地悪な事を言ってきたアイノスさんが悪いとは思うのですが、……私も少し、感情的になりすぎた気もします。

 人の恋愛話が大好物でも、……いまだに自分は本当の恋を知らぬ立場です。

 何度か告白を受けたりはありましたけれど、毎回なんか違うな~と思ってはお断りしていたんですよね。

 アイノスさんの言う通り、『成熟期』になるまで受け身というのも、何だか成長を拒んでいるようで、改めて考えてみると、自分はまだまだ子供なのだと自覚してしまいます。

 恋は強制されるものではないですが、自分から誰かを好きになる努力というものを、少しは頑張ってやってみるのも楽しいかもしれません。

 だけど……、なかなか、そういうお相手とは巡り会えないのですよねぇ。

 

「……まぁ、焦る事はないんでしょうけど、アイノスさんとお話をしていると、変に心の奥がムズムズするというか、いちいち感情的になってしまいます……」


 今日の事だけではなく、何故か前から顔を合わせる度に、アイノスさんからは時々意地悪な物言いをされる時があるのですよ。

 王宮にお勤めし始めた頃は、ただの優しいお兄さん司書様だったのですが……。

 人の恋路にばかり興味津々の私に、いつの頃からか、どこか気に入らないというような目を向けってくるようになったのです。

 『少女期』は色々と複雑で微妙な時期なのに、惑わせるような事ばかりを言ってきて……。


「はぁ……、私、何かアイノスさんに嫌われるような事でもしたのでしょうか」


「特にされた覚えはないけどね?」


「え……」


 突然背後から耳元のすぐ近くで低く楽しそうな声音に囁かれてしまった私は、ばっと耳を押さえ、前に転び出てしまいました。

 な、なななななななななな何ですか!? 今のは!!

 自分を驚かせた不審な人物の姿を視界に映した私は、口をパクパクとさせながらその方の名を呼びました。


「あ、あ、あ、アイノスさん!? な、なななな、何をするんですか!!」


「声をかけただけだよ?」


「普通に声をかけてください!!」


 危うく心臓が緊急停止するところでしたよ!!

 突然現れた図書館司書様の穏やかな笑みに、私はぷるぷると怒りと羞恥で震えながら抗議の声を叩き付けます。

 わざわざ私の耳元に顔を寄せて囁く必要なんてどこにもありませんよね!?

 それなのに、またこの方は……っ。


「で? 俺の事を何か言っていたみたいだけど、用があるなら聞くよ?」


「あ、貴方に用事なんてありません!! し、失礼します!!」


「そう……。じゃあ、俺の用事を済ますから、ちょっと動かないで貰えるかな?」


「え……っ」


 何の用事だと聞き返す暇もなく、アイノスさんは私の前にスタスタと距離を詰めてくると、神業的な速さでスカートのポケットからチルフェートを奪い返してしまいました。

 な、ななななな、何をやってるんですか、この方は!!

 驚きで固まっている私の目の前で、義理チルフェートの小箱を鮮やかに奪って見せたアイノスさんに、私はまたパクパクと酸素を求める魚のように狼狽えてしまいます。


「これ、俺のだからね。勝手に処分されちゃ困るんだよ。わかった?」


「な、何を言ってるんですか!! それは、誰の物でもありません!! い、一度は差し上げましたけど、意地悪な事を言うアイノスさんにはやっぱり、あげない事にしたんです!!」


「一度貰った物は、その人の物になるんだよ? やっぱりなしっていうのは、あまりにも理不尽だし、俺だけ貰えないというのは酷いと思うんだよ」


「酷くありません!! か、返してください!!」


 ピョンピョンと、長身のアイノスさんの持ち上げた手からチルフェートの箱を奪い返そうとしますが、うぐぐ……、全然届きませんよ!! 何のいじめですか!!

 急に人を驚かせて、今度は泥棒なんて、王宮図書館の司書様の名が泣きますよ!!

 けれど、しつこく食い下がってチルフェートを奪還しようとしてくる私に飽きたのか、アイノスさんは、ぴょんっと飛んだ私の腰に空いている左腕を回し込んでくると、動きを押さえるようにぐっと自分の方に軽々と抱き寄せてしまいました。な、ななななななっ。

 がっちりと片腕だけで抱き締められているせいで、全然身動きが取れません!!


「リィーナ、あまり駄々を捏ねると……、俺も優しくはしてあげられないよ?」


「は、はあああ!? な、何なんですかっ」


「はぁ……。君って子は、本当に人の恋路にしか興味がないんだねぇ。……ここまでされて、まだ気づかないとか、一体頭の中はどうなっているのだか」


 ぼそりと最後の方で呟かれた呆れ交じりの声音には、残念がっている響きが感じられます。

 一体何なんですか!! 私の頭はきちんと正常ですよ!! 失礼な事を言わないで頂きたいものです!!

 至近距離で溜息を吐かれてしまった私は、その綺麗なお顔に泥でもぶつけてやりましょうかと嫌みを返しましたが、何故かまた溜息を吐かれてしまいました。本当に失礼ですね!!


「ともかく……、このチルフェートは俺のだから。……観念しておくんだね?」


「駄目です!! それはもうあげません!! 私が家に帰って美味しく頂くんです~!!」


「ほぉ……、俺が貰った物を、君が勝手に食べるんだ? へぇ……」


「だから、アイノスさんにはあげないって言ってるじゃないですか!! もうっ、く、苦しいので、おろしてくださいっ!!」


 そう大声で抗議するのに、アイノスさんは全く解放してくれる様子がありません。

 それどころか、その優しいはずの青の双眸に不穏な気配を浮かべ、さらに顔を近づけてきます。

 こ、怖い……、な、なんか、お、怒ってませんか? この方!!

 吐息が直に触れ合う程の距離……。私は顔をよくわからない熱で火照らせながら、アイノスさんの双眸に囚われてしまいます!!


「リィーナ、選ばせてあげようか?」


「な、何をですか……っ」


「今ここで、俺に大人しくチルフェートの所有権を渡して、無事に家まで送られるか。それとも……、今、この場で、俺が君にチルフェートを『食べさせる』のか……。好きな方を選んでいいよ。さぁ、どっちにする?」


「ふぇえっ、い、意味がわかりませんよぉおおお!!」


 前者を選べば、何故かアイノスさんに家まで送られてしまうわけですよね!?

 でも、後者を選ぶと、私がアイノスさんからチルフェートを食べさせられるわけで……。

 どちらにせよ、全く意味がわかりません!!


「ど、どちらも却下です!! わ、私は、一人で家に帰って、一人で、チルフェートを食べるんです!!」


「却下を却下しよう。はい、選び直し」


「何でですかあああああああ!!」


 何故アイノスさんに、こんなにも近くで脅迫同然の選択を迫られるのか、本当に意味がわかりません!!

 というか、近い!! 近すぎますよ、アイノスさん!!

 突然の事故でも起きたら、唇同士がくっついてしまいます~!!

 全力で抵抗する私を、アイノスさんはさらに強く抱き締めて、またあからさまな溜息を吐きます。

 「この子の鈍感は荒療治しか方法がないよなぁ」とか、物凄く失礼な事を……!!

 ……って、ん? ど、鈍感? えーと、それはつまり、私が何かに気付いていないという事だと察する事が出来るのですが……、い、一体、何を?


「リィーナ……。一応言っておくけどね。確かに、『少女期』の子は、心が迷いやすく、恋心の自覚も遅い。だけど……、自覚を早める為に、『刷り込み』的な方法もとれるんだよ?」


「へ?」


「特に、他の異性からの好意を受けていない『少女期』の子に対しては、必要以上に口説いてしまえば……、自ずと意識の対象に入れるものなんだよ。そして、それを積み重ねていけば……、自分の事を愛するように仕向ける事もできる」


「あ、あのぉ……、そ、それは、えっと、ど、どういう……」


 意味でしょうかっと聞こうとした私の唇に、ふわりと舞い降りた温もり……。

 唇どころか……、こ、心まで鷲掴まれて動けなくされてしまいましたよ!!

 自分がアイノスさんに何をされているのか……、把握するまでに十秒以上かかりました。

 ゆっくりと顔が離れていくと、アイノスさんはストンと私を地面に下ろし、それはそれは大人の男性の魅力全開の艶やかな笑みを纏われました。


「こういう事、かな」


「ふあぁああっ!?」


 特別な日が夕暮れと共に終わりゆくその時……、私はとんでもない宣告を受ける羽目になったのでした。

 こ、これって……、私が恋する努力云々の前に、……お、


(落とされる恐ろしい危険な予感しかしないんですが!!)


 あぁ、な、何で気付かなかったんでしょうかっ。

 人の恋路云々を期待する前に、自分がとんでもなくお腹の内が真っ黒な人に目をつけられていたという恐ろしい事実を!!

 ごめんなさい、ユキ姫様!! 当事者になるって、こんなにも慌てふためく事態に陥ってしまうものなのですね!! このリィーナ、心から反省しています!!

 だけど、今気付いても遅いんですよね!? 私の手を取って歩き出したアイノスさんから逃げられる自信が微塵も湧いてきませんっ。これ、物凄く不味いですよね~!?

子兎を咥えた獅子のような気配を醸し出す王宮図書館司書様の楽しそうな様子を目にしながら、私は再び、王宮内に響き渡るかのような驚愕と羞恥の絶叫をあげる事になるのでありました……。

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