ようじょたちのきっく・うぉー 3
改めて缶を蹴り直し、缶蹴りが始まった。あの後もう一回すっ転んだので、結局るなが缶を蹴り飛ばしてスタートした。
とててててーと、散り散りに走っていく。
俺は一先ずトンネルの中へと逃げ込んだ。
しかし入ってから、逃げ場がないことに気がついた。すぐさま脱出を図るべく、入ってきた方とは反対の出口に駆けて行った。
急いで走っていると、後ろからとててててーと追いかける音。
後ろを振り返ると、ローズゴールドの長い髪と、青と白の可愛いデザインのエプロンドレス。ありすが走ってきていた。
「まちなさーい!」
「まてといわれてまつひとはいないー!」
とててててー。
とててててー。
他から見れば、微笑ましくかけっこをしているように見えるのだろうが、こっちは真剣にやってるんだ!
心の中でうおおおぉぉ!!と叫びながら走る。走る。
まぁ、実際には。
「まちなさいー!」とててててー。
「きゃー!」とててててー。
なのだが。
どうやら、俺とありすの足の速さは同じらしく、一向に向こうが追いつく気配はない。振り切れる気配もないのだけれど。
逃げ惑っていると、視界にブランコが入る。
そこには、ぽけ~っと座っているみづきが……ってえぇ!?
「ちょっとみづきー!なんでつかまってるのー!」
「……どじった。へるぷ」
ヘルプじゃねっつの!
どうにかしてありすを振り切り、缶を守っているピンクのツインテールの取り巻きを掻い潜って缶を蹴る。
これをどうにかして実行しなければならない。
子どもの遊びだからと言って、負けるのはやっぱり悔しい。
「あっはは!うちにまかしときー!」
どこかから、りんの声が聞こえてくる。こちらも走っているので周りまで見る余裕がない。
とててててーと走ってちょっと開けたところに出ると、りんの姿が見えた。
あのアホ、ジャングルジムのてっぺんにいやがる。
「さぁさ!おにさんこちらやでー!」
その言葉に、守り役以外の取り巻き2人がジャングルジムを囲う。
「ちょ!2たい1はひきょうやんかー!」
取り巻き2人はジリジリとジャングルジムを登り、そう時間がかからないうちに、りんを捕まえた。
「まちなさいですわー!」
ぜーぜー言いながら他のことには目もくれず、俺だけを追いかけるありす。
他のことに気を取られてくれないから、逃げ切れる隙が全然ない。
そんな時だった。
「たあぁぁぁ!」
カコン。
りんがつかまってる隙に、るながピンクツインテールを掻い潜って、スライディングで缶を蹴飛ばした。
「ほら、にげるよ!」
「……るーちゃ、ありがと」
缶が蹴られたので、みづきが解放されて、とててててーと走っていく。
りんは二人掛かりで捕まえられたままだ。
「ちょっと!なにしてますのー!」
ありすがこちらを追いかけながら、守り役のピンクツインテールに檄を飛ばす。
「いまだ!」
ありすの気が一瞬それた隙に、全力で走って逃げた。
「まちなさ、あっ!」
ありすが転んだ。顔から転んだから痛そうであるが、勝負は非情である。俺はその隙に、ありすからかなり距離をとった。
「さて、どうしようか」
全員がそれぞれ逃げて、土管の蔭に合流する。
敵チームは守りを固めたようで、全員が缶の周りから離れようとしない。
「このまま、じかんぎれでもいいけど、それはおもしろくないよね」
るながそう言った。俺もみづきもこくこくと頷いて肯定する。
「のこりじかんもすくないし、さんにんでとっこうしようか」
るなはにっこりと、死刑宣告でもするかのように、笑いながらそう言った。
俺とみづきはその笑顔に怯えながらぎゅーっと抱きつき、るなの作戦を聞いた。
「なーなー、かまってんかー」
「うるさいですわ!このえせかんさいべん!」
「ありすはけちんぼさんやなー」
「だまってまってなさいな!」
見ればりんとありすが漫才(?)をしている。なんだかありすは全力で生きてるって感じがするなぁ。公園の占拠なんかしてなかったらもっと好印象だったはずだ。
そんなところに、俺はみづきと2人で猛ダッシュした。
とててててーとまっすぐ走って近づいた。
「なーなー」
「なによ!」
「向こうから、ひなちゃんとみづきちゃんきてるで?」
「なっ!?あなたたち!いきますわよ!」
ピンクツインテール以外の3人が、こちらに向かって走ってくる。このままだと3対1だ!
それでも構わずに、俺はまっすぐ突っ切った!みづきはすぐに捕まっていた!
「……むねん」
そう言って取り巻きの1人に捕まったまま、がくりと項垂れている。
俺はなんとか取り巻きの1人とありすをかわして、缶のある場所に突っ込んだ!
「わああぁぁぁ!」
「させない!」
どてん。ずさー。
俺はピンクツインテールの目の前で転んだ。派手に転んだ。
缶までは、もう手を伸ばせばすぐだったのに。
周りのみんなに温かい目線を向けられて、俺はピンクツインテールにタッチされた。
「ひなちゃん、がんばったね」
カーンっ!
いつの間にか現れたるなが、缶を蹴り飛ばした。
その時点で、30分が経ち、タイムアップとなった。
缶蹴りは俺たちの大勝利だった。
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