ようじょたちのきっく・うぉー 2


缶コーヒーを飲み干したみづきが、缶をゴミ箱に捨てようとする。うん、みづき偉い子。


「ちょちょちょ!すとーっぷですわ!」

「……?ごみは、ごみばこに」

「そうなんですけれど!」


ありすがぎゃーぎゃーと騒いでいる。取り巻きの子達は大変そうだなぁ。ありすをどうどうと宥めている。

すーはーと深呼吸して落ち着いたありすは、高らかに宣言する。


「このこうえんであそぶけんりをかけて、かんけりでしょうぶ!ですわ!」



缶蹴り。

かくれんぼと鬼ごっこのハイブリットとでも言うべき遊びだろうか。

鬼側は缶を守りながら、逃げるプレーヤーを全員捕まえれば勝ち。

逃げる方は鬼に捕まらないように逃げ切れば勝ち。ただし捕まっても、缶を蹴飛ばせば、捕まった子を逃がすことができる。

その他地方ルールもあったりするけれど、大元になるルールはこんな感じだろう。

まぁ、遊びで決着をつけるということであればこちらは特に構わない。ぶっちゃけると、缶蹴りで遊んだ時点でこちらの目的は達成されているのだから。

ありすはアホなのか気がついていないっぽいが。

だけれど、


「こっち3人で、そっち4人だけどどうするの?こっちがおに?」


るながありすに問いかける。


「あ……どうしよう……」


どうやら何も考えていなかったようである。めっちゃおろおろしだした。

どうしようどうしようと、頭を抱えてしゃがんで呟いている。

そんな時であった。


「なんやこまってるなら、うちにまかしとき!」


何処からともなく声が聞こえる。が、姿が見えない。

不気味。不気味すぎる。

ありすたちはその声に4人でがたがたくっついて震えている。

俺もみづきとぎゅーっと抱き合った。


「る、るにゃぁ、なにこのこえぇ……」

「……さぁ?」


この場で唯一るなだけが平気そうな顔をしていた。そういえばこいつホラーとか平気なんだっけ。

俺はそういうのは苦手だ。幼女になったからじゃなくて、元から苦手だ。


「たぶんどこかにかくれているんでしょ。はやくでておいでー」


呑気な声で、謎の声の主を呼ぶるな。

公園には、公園全体を覆う塀、横向きの土管、トンネルのような遊具、ブランコ、滑り台、ジャングルジムがある。

目に見えるところには姿が見えない。つまりはどこかに隠れている。

隠れられそうなのは、土管かトンネルの中。


「そ、そこにいるんでしょう!」


と、ありすが土管の中を指差した。全員の視線が土管に集まる。


「えーっと、ごめんな?」


と言って彼女が現れたのは、トンネルの中だった。

全員の視線がありすの方を向いた。彼女の顔は、これでもかというくらい、真っ赤になっていた。


発狂したありすが落ち着いてから、その微妙な関西弁の、キャラメル色の茶髪をサイドテールにまとめた幼女が話し始めた。


「いやな?このこうえんのとんねるのなか、ひんやりしてきもちいーわーおもて、おひるねしてたらなんやこえがきこえてきたからな?うちもまぜてーっておもてな?」


にゃははと笑いながら話す幼女は、底抜けに明るかった。


「ところで、おなまえはなんていうの?」

「うち?うちは、りん、っていうんよ」

「……りーちゃ、おぼえた」


りん、と名乗ったその幼女は、あっという間に俺たちの輪の中に溶け込んできた。

人付き合いがうまいタイプなのだろうなと思う。


「まぁ、これで4たい4だからちょうどいいんじゃない?」

「えぇ、こちらもよくってよ」


るなとありすが人数の確認をしていた。

どうやらりんを加えた4対4で決まったようだ。

ルールは、俺、るな、みづき、りんの4人が逃げるチーム。ありすとその取り巻きが鬼役。

缶を守る役は1人。その人は、缶を中心におおよそ半径1,5メートル程の円を書いた中から出ることはできない。そのほかの鬼は、その円の中には入ることはできない。

捕まったらブランコを囲う手すりの中から出られない。

公園の中から出てはいけない。

30分誰か一人でも逃げ切ったら逃げるチームの勝ち。全員が捕まったら鬼チームの勝ち。

といった内容になった。

今はチームごとに作戦会議をしている。


「あんまりかくれるところはないから、きほんてきにおにごっこだとおもったほうがいいね」

「うん、だから、いかににげきれるかがしょうぶになる」


俺とるながそうこのゲームを評価した。


「……がんばる」


みづきはやる気満々な様子で、両手をぐっと力を込めた。かわいいからなでなでしてぎゅーってする。


「つかまってもうちがかんをけるからあんしんしときー」


りんは、そう冗談めかして言って、手をひらひらと振ってきた。


「そろそろいいかしら?」


ありすのチームも、作戦が決まったようだった。

いよいよ、缶蹴りが始まる。

思えばこのゲーム、『ようじょ・はーと・おんらいん』で、こんなに人数を多くして遊んだことはなかった。……と言っても8人だけど。

とはいえ、ドキドキして、楽しみになってきた。


「じゃあひなちゃん。さいしょにかんをけるのはまかせた!」

「ふぇっ!?」


ナンデ!?最初に缶を蹴るのは俺なのナンデ!?


「……ひーちゃ、がんばれ」

「ひなちゃーん、がんばりやー」


やめて!あんまりプレッシャーかけないで!


「じゃあそっちのちーむがかんをけったらすたーとですわ。そのあと30かぞえたらおいかけますので」

「ん、おーけー。ひなちゃん、まかせた!」


グッと親指を立てサムズアップをするるな。みづきも真似して、親指をグッとする。

こうなったらもうやるしかない訳で。


「……いきます!」


勢いよく駆け出して、振りかぶった足は、缶には当たらずに宙を舞って、俺の頭を地面に叩きつけたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る