第11話わいせつ湯のみの村

ぬりんこの次郎左が、村に三台あるパソコンからインターネットに繋いでプリントアウトした紙を一同の前に差し出した。


「こんげみろやい、えらい学者さんらの会合の予告ごたる。こんに写っているんは、わいげらよこんつつくりての湯のみじゃろこってん、わいばそう思いて、東京で医術学びごたる伊賀屋の周作さに電気手紙送りなしたんだ。したら、周作さば、げにめんじんすきたるよかな愛想もんじゃけ、研究の参考だばんいいよがって、湯のみの欠片ば現物見せてもろうて、こん村さつくりごたる刻印ば確かめた言いよる」


「おお、さよかさよか」とぬきさしの番平が言う。


「わいのう、この六十五歳いうじいさまに思い当たりあるで。一年ほど前の冬に村ば来よって、二つ注文しよったけ。一つは五号半で、もう一つは七号言うで、じいさまは長年のお客様じゃけ言うまでもないことやろが、何十年かけて五号まできよって五号半はわかりしも、七号は無茶なるがぞね。五号半からは手練もんも四分の一ずつ大きいしよるもんが定跡ぞね、わいは言うたがな。したらばじいさま言うに、わしも老い先短こうなって、悠長なことは言うとられん、五号半に慣れたら七号に行く、七号を確かめてからでなけりゃあ死なれん言いよる。ようがす、そこまでのお覚悟ありなんだらば、やーごだこちとらもわざ師の腕によりをかけておつくりいたすっちゅうことになったがいや。そうがいえんども、やがりて七号むくいうは、ようばおしりぞ保たんこと自明じゃったが。さあいえども、都会の病院のお医者様やのうて、わしらわざ師ん村ば送ってもらえりゃあ、代々の技量にて湯のみ壊しも、腹ン中傷つけることもなかったぞ。それが惜しゅうてならんがぞい」


「まことにそうじゃ、そうじゃ」と村の衆。


「ま、それはおいときって、本題に移ろうかいな」と村長。


「五平よ、おぬしばつくりたる新しか湯のみづくりの機械仕掛けの話じゃ。わしら村も平安の御代に大陸から渡うてきて、長いこと、そりゃあ長いことわいせつ湯のみ作ってきよった。先祖様ごくろうさまじゃ。そなごたるいいよかれいども、おんしりんばに湯のみ入れたるが行儀する人ぞ年々少なくなりて、しりばいらぬ把手つきよう西洋食器づくりに走りたるもんも少なかたるて、わしらが伝統ば守ることしんぞ考えにゃあならん。なあ、五平、どうなっちょるかてや?」


ぼくは一同を見回して、静かに切り出した。


「わしには村の衆から集めごたるおぜぜの責任ばあろうて、そんばこたえっちゅうのが男のおんぎりやと思うておる。安心いたしてくだされい。わしとアメリカに遊学しちょる紺助の研究ばじゅんちょっこに進みてござるば。紺助ば医療工学の技術と、わしの電信技術ばあわせって、この地球のどの地からも、おんしりんばの細かたる情報ばオンラインいうもんに乗せて来よって、自動的にそん人におうたる湯のみぞ、自動機械が即座に作り始めよって、宅配便の伝票まで出力したるごて、世界中なんどきでも湯のみの注文も製造も発送もできよるがに、こげんシステムばまっこと蛇の豚を丸呑みにするがごたる」


「ほうか、ほうか、そんがたるはまっこと頼もしゅうことよ」と村長。


ぼくはさらに付け加えた。


「こったらシステムば、応用の効きたることが注目じゃ。紺助どんが今手がけとうは脳神経工学じゃけん、脳のスキャンばようできたるようになりよりゃ、そん人ば理想のわいせつば取り出せようなりよう。したらば、となり村のわいせつ石膏づくり工場に接続せば、オーダーメード品が地球の裏側の好きもんさまにもお届けできゅうことばなりもんぞ。世界ぞ、世界ぞ繋ぐわいせつの網目が、こん星さ覆い尽くすんぞ。そのいっちょう重要な網目の真ん中ばこの村たい。おん御代にば帝に献上したるという栄華、いまにまた来よるけん、楽しみにしてくんろ。こん村さかえれば、おまんも来て豆まいてくださるけえ、みなで酒盛りじゃで……」


……こうして村の夜はふけていった。地球を覆うわいせつの網の目を夢見ながら……。

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