第7話

 夢を見ていた。


 鬱蒼とした森の中を、エルフの少女が走っている。

 少女はなんらかの理由があって、故郷の森にいられなくなったらしい。

 故郷から遠く離れた、見知らぬ森の中を少女は疾駆する。

 自分の居場所を探しているようだった。


 突然、少女の前にバカでかい大木が姿を現した。

 大木の前で少女が立ち止まると、木の幹に人のような顔が出現する。

 その木の正体は、森に住む大樹の精霊だったのだ。


「そんな疲れた顔をして、一体どこにいくんだい?」


 優しい老人の声で、大樹の精霊は少女に聞いた。


「自分のおうちを探してるの」

「ほほう、お前の家はあっちではないのかね?」


 大樹の精霊は、木の枝を指のように動かして、遠くの方を指差した。

 そちらは、少女の故郷がある方向だった。

 少女は黙って首を横に振る。


「ふむ……。まぁ、よいだろう。ゆっくりしていけ。先客もおるぞ」


 大樹の枝が、別の方向を指差した。

 見れば、そちらには木でできた簡素な庵がある。

 少女は大樹の精霊に礼をいうと、庵の入り口をくぐった。


「こんにちは、エルフのお嬢さん」


 精霊が言った通り、そこには先客がいた。

 ゆったりとしたローブに身を包み、魔法の杖を携えた青年だった。


 それから、少女は青年と一緒に暮らし始めた。

 青年は少女に、よく森の話をした。


「あちらの沢には、貴重な薬草が生えています。あっちの洞窟には危険な怪物が出るので気をつけましょう」


 先にこの森で暮らしているだけあって、青年の話は常に的確だった。


 青年は、森の外にある国の話もした。

 彼は抜群に記憶力がよく、話題は多岐に渡った。

 ずっと森の中で暮らしてきた少女にとって、彼の話は心躍るものだった。

 少女の心は、次第に青年に惹かれていく。


 やがて時は流れて。

 少女が森の散策から帰ると、青年が大樹の精霊と話をしていた。

 青年は少女の姿に気がつくと、駆け寄って話しかけてきた。


「隣国の王から呼び出しがかかりました。私の力が必要だそうです。私は旅に出なければいけません」


 私の力が——と言った瞬間、魔法の杖を握る青年の手に力がこもった。

 おそらくそれは無意識の所作で、力を込めた本人も気がついていない。

 しかし、少女だけは青年の興奮を見逃さなかった。


「何を言ってるの? ずっとこの森で、一緒に暮らしましょう?」


 旅立ちを思いとどまらせようと、少女は青年のローブを掴む。

 青年は困ったような顔をして、何か言葉を口にした。


「———————」


 それを聞いた少女もまた、何かを言おうとする。

 言っている内容は分からなかったが、その声色は悲痛だった。


「——————————!」


 その瞬間、ぼくは夢から覚めた。

 窓の外を見ると、日が暮れようとしてる。


「せっかくの休日だったのに」


 ぼくは思ってもいない独り言を口にして、再びベッドに倒れこんだ。

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