第6話

 ラーメンを食べ終えると、ぼくは一人で大好きなゲームを遊んだ。


 剣と魔法のファンタジーを題材としたそのアクションゲームは、教授のお気に入りでもあった。

 複数人の協力プレイが可能なゲームなので、ぼくはよく教授を誘って、一緒に遊んでもらった。

 でも今日は一人だ。


 コインシューターに50円玉を入れて、スタートボタンを押す。

 ウェルカムボイスが流れ、使用キャラの選択画面になった。

 酒場に集った5人の冒険者の中から、ぼくは美しい森の妖精族エルフの少女を選ぶ。華麗な剣技と多彩な魔法を操る魔法剣士だ。


 エルフの少女は、ザコモンスターを蹴散らしながらステージを進んでいく。

 しかし、快調なのは中盤までだった。

 飛行船のステージで、闇の妖精族シャドウエルフの集団と女面鳥身の怪物ハーピィに襲われたエルフの少女は、一気にピンチに陥ってしまう。

 このステージは、ゲーム中では有名な難所の一つなのだ。

 ぼくは無意識に「ねえ、教授」と声をあげそうになって、慌てて思いとどまる。


 いつもなら、ここで教授に助けを求めるところだ。

 ぼくが「助けて」というと、彼は「仕方ないですね」と笑いながら50円玉を筐体に突っ込むのだ。

 そして、画面の中に心強い援軍が現れる。

 教授がすべてのキャラを扱えるけれど、お気に入りはダボダボのローブをまとった魔法使いマジックユーザー

 教授の操る魔法使いは、ローブをはためかせながら、まるで魔法みたいにモンスターの群れをすり抜けてぼくを助けに来る。

 ぼくに斬りかかる闇の森の剣士を杖で打ちすえ、空に逃げようとする怪鳥を魔法の矢で撃ち落とし、あらゆる敵をなぎ倒すのだ。

 そう、いつもなら。


 気がつけば、ぼくの操るエルフの体力ゲージは真っ赤だった。

 いま、ここに教授はいない。

 エルフの少女を助けてくれるはずの、大魔法使いは現れなかった。


 テレポーテーションを使うシャドウエルフの剣士が、空中から襲い掛かってくる。

 エルフの少女はその攻撃を避けきれず、悲鳴をあげて地面に倒れた。

 モニターには、無情なコンテニュー画面が表示される。


 ぼくは席を立つと、そのまま店を出て、家に帰った。

 玄関をくぐると、ぼくの顔色を見た母親が心配そうな声をかけてくれたが、何と言っていたのかは覚えていない。

 いつもなら「あんたみたいな年頃の子が、朝からゲームセンターに行くんじゃありません!」、「ゲームするくらいなら、少しはおしゃれくらいすればいいのにねえ」などと小言の一つでも言うものなのだけど、この日はそうではなかったと思う。


 自室駆け込むと、ぼくはベッドに倒れ伏し、そのまま眠りに落ちた。

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