煙草の神


煙草の神として知られるカヤノは言った。「煙草あれ」すると煙草があった。


それから幾年月が流れ、煙草は人間にとって非常に人気のある嗜好品となった。

インディアンを中心に薬として親しまれていた頃がカヤノの絶頂期だったと言って過言ではない。


その後は皆も知ってのとおりだ。

煙草の害が強調され、喫煙スペースは街中の小さなスペースに限定された。

煙草の税金は引き上げられ、煙草を吸う人間は肩身が狭い思いをすることになった。


煙草の神、カヤノは焦っていた。

煙草は彼女の所轄である。煙草の支持を回復しないことには、彼女の面目が立たない。


まさか煙草が人間の健康に悪いとは、作った時には思いもよらなかった。

というよりは、まさか煙草の葉を刻んで乾燥させて紙に巻いて燃やして煙を吸うなどといったことを、人間がすることを想定していなかった。せいぜい、葉っぱを噛むとかその程度かと思っていたのが甘かった。


カヤノは頭を抱えた。悔やんでも悔やみきれぬが、こうなっては致し方ない。

煙草の名誉を回復することが彼女の使命だったのだ。

カヤノは人間界に降り立ち、人間として煙草の推進活動をすることにした。


十数年後。

カヤノは煙草を販売する会社の社長として君臨していた。


政府に働きかけ、煙草税を減らし、煙草を普及させる使命に務めた。

カヤノは大変満足していた。これからも、出来る限り煙草の推進活動をしなければならない。

それが煙草の神たる自分の使命なのだから。

人間になってしまった今となっては、寿命が心配だ。寿命が尽きれば、天界に帰らなければならないからだ。


ある新米の秘書が、カヤノに煙草を差し出しライターで火をつけようとした。


「結構よ」カヤノは言った。


「煙草は吸わないの。健康に悪いから」

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