その日、わたしは夢を見た。

戦争の夢だった。


わたしは上空や海の上、あるいはどこかの島で、どこかの国と戦争をしていた。

あるときはわたしは空から敵の軍事施設を爆撃した。

あるときは海の上で、一斉砲撃で相手を蹴散らした。

あるときは島を包囲していた。


目が覚めると、いつもの部屋で、朝の日差しがまぶしかった。

夢で良かったと、ほっとした。

でも、少し物足りないような気分になっていた。


それから毎日その夢を見るようになった。

戦果は一進一退で、いつ終わるとも知れぬ戦いとなっていた。

わたしはだいぶ疲れていた。それでもやめるわけにはいかなかった。


理由もわからず戦争をしていたが、わたしのなかではその理由は正義だとわかりきっていた。


悲しいこともたくさんあった。

わたしはわたしの家族を目の前でなくし、わたしの好きだった風景は焼かれた。

わたしの友達は、名も知れぬ戦場にいったあと帰ってこなかった。

わたしの好きだったひとは、死ぬ前にわたしの名前を思い出してくれただろうか。


それでもわたしは生きていて、それがすごく悲しかった。


正義だからわたしは戦わなければならなかった。

悲しいからわたしは戦わなければならなかった。


それと、怖かったから、わたしは戦わなければならなかった。


もしこの戦争に負けたら、わたしの夢はどうなってしまうのだろう。

相手のこともなにひとつわからない、わからない相手に負けたら何をされてしまうのだろう。

わたしはもう、夢をみることがないのか。それとも。


わたしは、戦争に勝たなければならないのだ。この、誰かとの戦争に。


わたしはある朝、ふと鏡を見た。わたしはだいぶ疲れていて、悲しそうで、そしてなにかを怖がった目をしていた。


わたしが戦っているのは、いったいどこの誰なのだろう。最早それは、どうでもいいことなのだけれど。

わたしは勝たなければならないのだ。相手が誰であろうとも。そうしたらこの戦争は終わる。


ある日学校で、同級生の男子と目が合った。

わたしはかつて、その男子のことが好きだった。


彼はだいぶ疲れていて、悲しそうで、そしてなにかを怖がった目をしていた。わたしはその目を、どこかで見たような気がした。


いまは、恋なんてしている場合ではなかった。


わたしは、戦争に勝たなければならないのだ。この、誰かとの戦争に。

名も知れぬ、誰かとの戦争に。

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