死なずの鳥

久遠了

第1話

 フィネは生まれた時から体が弱かった。

 楽しみといえば、部屋の窓から季節の移り変わりを見ることと、呪医の診療を受けに行くために外出することくらいだった。

 秋のある夜。

 フィネは虫の音を楽しもうと、窓を開けた。

 窓辺に椅子を置き、フィネは腰掛けた。

 虫の音を聞きながら輝く満月を眺めていたフィネは、月の下を鳥の群れが飛んでいることに気づいた。

「こんな夜更けに?」

 不思議に思ったフィネは、もっとよく見ようと立ち上がった。

 それは奇妙な鳥だった。

 羽毛も肉もなく、骨しか見えなかった。

 その骨も半分透明になりかけている。

 満月の光を浴びて、骨の鳥は不気味な輝きを放っていた。

 鳥たちは力なく羽ばたきながら、北を目指して飛んでいた。

 フィネは鳥たちの姿が消えるまで、その美しい光景を眺め続けた。

 呪医を訪れたフィネは、その鳥のことを話した。

 老婆は顔をしかめた。

「骨の鳥? それは死なずの鳥じゃ」

「不死鳥のこと?」

 老婆は顔をしかめ、苦い笑い声をあげた。

「そんないいものかね。生を喰らい、死を撒き散らす凶鳥じゃよ」

「そうは見えなかったわ」

 月の光を浴びて輝いていた鳥たちを思い浮かべ、フィネはつぶやいた。

 老婆はいたましそうにフィネを見つめた。

「おまえは生まれた時から死の近くにいるからの。奴らに恐怖を感じないのかもしれん」

 フィネを横目で見て、老婆はぼそぼそと言った。

 老婆の治療を受けたフィネは、帰り道、森の中で死なずの鳥を見つけた。

 フィネの手のひらほどしかない骨の鳥は大地に落ちたまま動かなかった。

「まだ小さいのに」

 フィネは死なずの鳥を手に取り、森の中に入った。

「おまえだけじゃ寂しいわね。私の大切なものをあげるわ。生まれ変わったら、一緒に旅をしましょう」

 フィネは首にかけていたペンダントを外すと、鳥の首にかけて埋葬した。

 冬の寒さは厳しく、フィネは十六回目の春を迎えられなかった。

 その年は呪いがかかったような年だった。

 春が来ても木々に緑は戻らなかった。

 花は咲かず、秋の実りもない。

 虫や獣だけではなく、多くの村人が死んだ。

 冬を待たずに、フィネの村は滅んだ。

 冬が過ぎ、ふたたび春が訪れた。

 その時には全ての木々が立ち枯れていた。

 秋になると、虫の音も聞こえない死の大地の一部が盛り上がった。

 フィネが埋葬した死なずの鳥が、ゆっくりと地中から頭を出した。

 一回り大きくなった死なずの鳥は、よろよろと地表に這い出た。

 そして、洞穴のような黒い眼窩を天に向けた。

 フィネが見た時と同じように満月が輝いていた。

 しばらくすると、満月の下に仲間たちが現れた。

 死なずの鳥が力なく羽ばたくと、体が浮いた。

 首にかかったペンダントが揺れて骨にあたり、カランカランと楽しそうな音を立てた。

 死なずの鳥は鳴き声をあげることもなく、静かに北へと飛び去っていった。


- 了 -

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死なずの鳥 久遠了 @kuonryo

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