01.崩壊

(待て待て…)

とにかく整理が必要や。昨夜寝る前までは、いつも通りやった筈。


それやのに。


日が変わっただけでなんで母親にはどちら様と言われ、医師には息子さんおったんやと驚かれたんや?


しかも、それだけやない。


帰り、すれ違った知人に挨拶したら首を傾げられてしもた。

俺を忘れたというより、最初から俺なんか居らへんかった…そんな嫌な感じの反応。


欲しくもない答えが、妙に胸の中でストンと当てはまったら。途端に怖くなって。


とにかく僕を知ってる誰かに会いたくて母親を家に戻した後、全速力で学校へ向かった。

(誰でもえぇ)

夏休みやけど、部活で五月蝿い校内。親しいヤツの一人や二人はおるやろう。

否、この際俺を見下してた奴らでもえぇ。現状を打破してくれるんなら。

たとえまた、辛い目にあったとしても…。


ハチャメチャな思考のまま、階段を駆け上りきって漸く見知った顔に出くわした。


「っ、ハァハァ、鷹野……」

「え、俺、坂野だけど。っか、お前誰やねん」

「はぁ?何言っとんねん!俺や、阪崎や。阪崎、……」


そこまで言うたところで、息を飲んだ。時間が止まったかのように、思考も停止する。

18年も付き合ってきた自分の名前やのに、どうしても思い出すことが出来へんくて。

見慣れた景色すら、俺の中から消え失せていく。


ーー俺は、誰や?


どうやら記憶喪失は、俺の方らしい。

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