王道ファンタジー世界を、独特に鮮やかに描いた小説

この小説の魅力として特筆すべきなのは、情景や色の表現だろう。独特な表現によって色鮮やかに描き出されるシーン一つ一つは、その香りや空気感までも感じ取れるよう。まるで作者自身のノンフィクションかと思えるような情景やシーンの表現は秀逸である。この表現はこの作者さんならではだと思う。

物語を彩る人物たちは、ファンタジーらしく特色があるが、完璧ではなかったり、弱さや闇を抱えていたりと愛着もあり、妙にあたたかく人間味があり、つい感情移入してしまう魅力がある。

課題点としては戦闘シーンの戦況の運び方。押しつ押されつが規則正しく、やや単調に感じられる節がある。幻獣や魔獣たちによる美しく激しい戦闘がたいへん魅力的に描かれていただけに、この場面ではすこし戦況運びのパターン変化によるスパイスが欲しいところである。

様々な表現や、キャラクターも個性的なために、最初はおそらく物語に入っていく段階で読み進めを躊躇するはずだが、つづいて読み進めてしまえば虜になる作品であり、続きが大いに楽しみである。