竜血の子 ~蒼い鳥のうたう歌~

来ノ宮 志貴

第一章

第1話 蒼い鳥の言い伝え




 幼い頃、鳥を見るのが好きだった。

 ある日、旅の途中に立ち寄った村でのこと。

 木漏れ日の中、さえずる小鳥を見ていたら、見知らぬ御婆おばばがやって来て、こう言った。


「蒼い鳥を見つけたら、すぐに目をつぶって逃げなさい。魅せられてしまったら事だから」


 どういうことかと聞き返せば、御婆おばばはシワが深く刻み込まれた顔面を更に歪め、「何も知らない坊やだねぇ」と笑った。


「蒼い鳥というのはね、人の一生を狂わせてしまうモノのことだよ。

 運命をつかさどる蒼い鳥。この世の中で最も残酷な神さんだ。

 彼女アレは気紛れで、退屈を嫌う。

 そして、何より悲劇が大好物なのさ。

 何故ならこの世界に悲しみを生み出したのは、蒼い鳥自身だっていうじゃないか。

 私たちのこの悲しみに満ちた人生は、蒼い鳥のうたう歌でしかないってことだよ。

 今も悲しみは尽きないというに、これ以上泣きたくはないだろう。

 悲劇に見舞われたくなかったら、蒼い鳥に気に入られないよう気を付けることだ。

 いいね」


 蒼い鳥のことよりも、御婆のしわがれた声の方が心に焼き付いた。

 あとでどうしようもなく怖くなって、トウマの腕の中で泣いた。

 それからというもの、小鳥のさえずりを聞くと、あの御婆の話を思い出す。

 もしかしたら、蒼い鳥がうたっているのではないか、と。




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