第37話 激 闘
結界が破られ、上昇気流が巻き起こる中、レグルスは瓦礫の中を進んでいた。
村の様子は、散々なものだった。
ほとんどの建物が倒壊し、道はなくなり、あちこちに火の手が上がっている。
レグルスはひたすらに
「なあ、あんた」
『アウトサイダー』
ナイフに
「・・・え?」
レグルスが聞き返せば、何故だろう、見えていないはずの男の表情が、
『呼び名だ。レマはそう呼ぶ』
「・・・わかった」
不思議な感覚だった。
アウトサイダーとレマも、こうして会話しているのだろうか。そんなことに思いを馳せると、レマとフェリドの安否が気遣われて、気が急いた。
しかし、乗り越えても乗り越えても続く
「クソっ・・・!」
悪態を吐いたその時、
バン!
突如、風を切り裂くような音がして、レグルスの背中に衝撃が走った。
「・・・ッ」
『慌てることねぇよ。これも、お前が竜血だってぇ証だ』
困惑するレグルスとは違い、軽く言うアウトサイダーに、思考が追いつかない。
固まるレグルスの脳裏に、アウトサイダーの軽快な笑い声が響く。
『翼だよ、つ・ば・さ! 生えてんだよ、背中から』
「・・・っ!?」
レグルスは、弾かれたように背中を見やる。と、確かにそこにはドラゴンの翼が姿を現していた。
呆気にとられたレグルスは、また翼が風に
「・・・これも、竜血の力・・・?」
『ああ。動かしてみろ』
アウトサイダーに促され、その場に上体を起こし、翼を動かそうと試みる。しかし、生まれたばかりの翼は、すぐには言うことを聞かなかった。
レグルスは二、三回、左腕を大きく広げる動作を繰り返し、それと同時に翼を広げるよう意識した。最初は
感覚が掴めたところで、今度は右腕を大きく広げると、その動きに合わせて右の翼が広がった。その頃には、両翼に風を受けても、背中に痛みを感じることは無くなっていた。
『筋が良いじゃねぇか。よしっ、このまま行こうぜ』
「このまま?」
『ああ、走りながら羽ばたけ!』
「・・・っ!」
アウトサイダーに言われ、レグルスが瓦礫の中を走り出す。
最初は背中に重心を取られ歩みも
レグルスが風となるまでに、そう時間はかからなかった。
***
時は、少し
崩壊した村の中心で、巨体を打ち付け合って
その激戦のすぐ側で、
一匹のトラウが、背後からアズールに飛び掛かる。が、アズールはすぐさま身を
ヘルムートは逃走する二匹のトラウを一気に
しかし、トラウたちも馬鹿ではなかった。次第にアズールとヘルムートの攻撃パターンを学習し始め、
二体が苦戦するその後方では、
ダンテは、力なく背中にいるレマを気遣いながら、トラウたちに
トラウたちの醜態を見た
「行かせない」
レマの治癒魔法を受けたフェリドだったが、傷の完治はしていない。そのうえ大型の幻獣を召喚し、体力の
それでも、引くわけにはいかない。
「ボヴァイア、相手をしてやれ」
言うや否や、ボヴァイアがフェリドとの距離をつめる。
繰り出された大きな拳を、フェリドは横に飛んで
フェリドとボヴァイアの戦いに
ベラとダンテの間には、すぐには縮められない距離がある。しかしダンテは、じりじりと
ベラの気配に、ダンテは全身の毛が逆撫でられるような、嫌な感覚を抱いていた。
そう、ダンテの本能が告げていた。
その間も、ボヴァイアの拳はフェリドに降り注いでいる。フェリドは、それらを短剣でかわすのが精一杯だった。そして、先に限界が来たのはフェリドではなく、短剣の方だった。
真上から振り下ろされた拳を受けた途端、短剣の刃が粉々に砕け散る。
破片が散乱する中、フェリドは
「が・・・ッ!!」
凄まじい力に、フェリドが
「ぎゃあああああああああああああああああっ」
ボヴァイアが
地面に放り出されたフェリドが、痛みに耐えながらもんどり打つと、そこには、ボヴァイアの残されていた方の翼を掴んで引きちぎろうとするヘルムートの姿があった。
抵抗するボヴァイアの頭部と右肩を、
その合間を縫うように
「アズール、ありがと」
フェリドが立ち上がって鼻先を撫でてやると、アズールは軽く首を振りながら鼻を鳴らした。
しかし、その時だった。
「ぎゃい・・・ッ」
新たな悲鳴が上がり、フェリドが振り返る。
そこには、ボヴァイアに足を掴まれ、今まさに地面に叩きつけられようとするヘルムートの姿があった。
「ヘルムート!!!」
フェリドが叫ぶと同時に、ヘルムートの体が瓦礫の中に沈み、凄まじい衝撃と砂煙が舞い上がる。少しすると、その
血の雨に、舞い上がっていた
「・・・ヘルムート・・・」
ビクン、ビクンと
フェリドが拳を握りしめた、その時。
「・・・ッ!?」
風の動きが変わった。
フェリドが天を仰いで目を凝らすと、村を囲うように張り巡らされていた結界が破れ、その裂け目から星が見えていた。が、それも束の間、結界の中に
アズールと身を寄せ合い暴風を耐えていたフェリドの胸中には、早鐘が鳴り響いていた。
魔法の結界が破れた。
それが意味するのは、他者に破られたか、そうでなければ、結界を施した術師本人の身に、何かあったと言うこと。
そして、フェリドは知らなかった。これまでに、レマの
「・・・レマ・・・ッ」
フェリドの世界から、音が消えた。
自分の息遣いさえも感じられない中、フェリドはアズールの背中に飛び乗って叫んだ。自分が、何と指示をしたのかも分からない。しかしアズールは、上昇気流が吹き荒れる中を真っ直ぐに走り出した。
その確かな足取りを、フェリドは信じて疑わなかった。
この先に、レマがいる。
アズールの足ならば束の間のはずの距離が、妙に長く感じる。
脳裏には、最悪の事態ばかりが思い浮かんだ。
胸が苦しくてたまらない。
と、地面に伏せるダンテの鼻の先に、力なく倒れるレマの姿があった。
「・・・ッレマ!」
フェリドはアズールから飛び降りると、レマに駆け寄り、ダンテの鼻先を押し除けてレマを抱き起こした。
刹那、その体の冷たさにゾッとした。
「・・・レマ・・・?」
静かに伏せられた長い
レマの頬を撫でるフェリドの指の、震えが止まらない。
フェリドは震える手を強く握りしめると、意を決してレマの鼓動を確認した。
「・・・生きてる・・・」
口にして、フェリドは大きく息を吐き出した。
強風が収まりつつある。
「よかった・・・レマ・・・」
震えていた手が、今はジンジンと
その
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