第28話 竜血の咆哮
−− そろそろ、か。
種族を問わず、自分の手によって心打ちのめされた者の姿を見るとゾクゾクする。そうして
−− さて、どう料理してくれよう。
まずはこの炎使いの長剣で、その
高いヒールがカツンと小気味良い音を鳴らした。
「さあ、
そして、刃こぼれした長剣の切先が少年の鼻先を
少年の赤毛の
『ガァああああああああああああああああああああああああああっ‼︎』
「なにっ!?」
ベラは、
大気が
ベラの背後では、ヒルデがうずくまり、魔獣たちは耳を倒して伏せていた。
「
不意を突かれ取り乱したベラだったが、その
−− なんじゃ、この
ベラの首筋を冷たい汗がつたう。
それは、久しく感じたことのない
これに似た恐怖を抱いたのは遥か昔、幼い頃に魔王様の居城で、囚われの
否、そうではない。
−− ・・・あるではないか、ほんの数年前に・・・。
ベラは、蘇った記憶の
そして、鳥肌立った両腕を掻き抱きながら「ははっ」と
「・・・
ベラはその言葉を呟いて身震いした。
あれから、まだ10年も経っていない。
ギガベスタの総力をもって、やっと滅亡へと追いやったバルトミリオン帝国。
あの日、死力を尽くして対決したのが『
ベラにとっては苦い記憶となった
その、
「ま、さか・・・生き残っておったとは・・・」
ベラの呟きと共に、
目前の少年の姿は、かつての大戦の折に見た、あの
肌には
それは正に
その
緊張からか、「クッ」と、ベラの
途端、ベラの肌が総毛立った。
***
「キャァあああああああああああああああああッ」
ベラの悲鳴が耳に快い。
それを見て、妹が何か叫びながらベラへ駆け寄ろうとする。
竜血は小蝿でも払いのけるくらいのつもりでヒルデを後ろ手に叩いたのだが、それだけで、彼女の首が簡単に飛んだ。
失神する魔獣に体を預けたままだったベラが、妹の血を浴びて、再び悲鳴を上げた。
「ヒッ・・・ヒルデッ‼︎ ヒルデッ‼︎ ・・・あぁぁぁ・・ああああああああああああっ‼︎‼︎」
あの高飛車な女が地面にうずくまって
竜血は天上に響く程の声で笑い、ベラに言い放った。
「いい気味だぜ‼︎
その言葉にベラの顔が引き
それに
この感覚は少し嫌だな、と指先で
リルーだ。
「ああ、こいつか」
リルーは苦痛を超える恐怖から失禁していた。必死に呼吸する口の隙間からは白い泡が吹き出してきている。
「汚ねぇなぁ」
竜血は
「きゃいん」
リルーが小さく声を上げる。と、その首に巻き付けられていた針金のような首輪が切れて、地面に落ちた。
それでも、自分に何が起こったのか分からないリルーは、小さくうずくまって震えるばかりだ。
「・・・ったく」
「おい、リルー」
と、リルーの耳が聞き覚えのある声にピクリと反応した。
リルーがそろそろと視線を上げてみれば、やはり見覚えのない顔がそこにある。しかし、
混乱するリルーを目前に、
「傷つけやしねぇよ。お前はフェリドのもんだからな」
「アイツのことは好きなんだ」と
リルーは二、三度、
リルーを無言で見送った
それは
「・・・この感じ、お前を殺っちまえば
竜血の目元と口元がニタリ、と歪んだ。
その視線の先にいるのは、勿論ベラだ。
ベラは「ヒッ」と小さく息を呑んだが、すぐさま身を翻し、狼型の魔獣の背に飛び乗る。
「殺せッ‼︎」
ベラが手を振って命じると、魔法陣から這い出て来ていた
「その程度で、俺を
竜血の翼が
と、一陣の風が吹いた。
途端、竜血は自ら魔獣との間合いを詰めて、先頭の一頭の鼻面を殴り飛ばした。魔獣の巨体が吹っ飛び、後方の数頭が巻き込まれる。
しかし、それがなんだと言わんばかりに、数において圧倒的に優位なのは魔獣たちの方だった。
魔獣たちは
だが、竜血も負けてはいなかった。その大きさに反し、
魔獣の叫び声と、竜血の
やがて、魔獣の
それ以外は、主人を
「お・・・のれ・・・、っ・・・おのれぇ‼︎」
ベラの全身がわなわなと震える。
「よくも、よくもこのような
圧倒的な力を見せつける、竜血。
それに対する恐怖は変わらない。
しかし、大事な妹と魔獣たちを奪われ、ベラの怒りは頂点に達していた。
何より、このような
このまま、やられてばかりではいられない。
この
ベラは、数頭の牛型魔獣に竜血の相手をさせている内に、ヒルデの頭のない亡骸へと駆け寄った。その前で膝を付くと、
そうして妹のモノを両手に大事に包み込むと、愛おしげに頬擦りをした。
ギガベスタでは、心の臓に、その人の魂と力が宿ると考えられていた。
家族や愛する人が亡くなると、心臓を肉体から引き離し、その魂と力を自らの身体に取り込む、つまり、喰らうという風習があった。
それ以外にも、力が全てのギガベスタでは、倒した相手の心臓をも喰らう。それは、相手を凌駕し、その力をねじ伏せた証とする行為であった。
ひとしきりヒルデの心臓を愛でたベラは、血に濡れた自分の髪を掻き上げると、ペロリと心臓の表面を舌先で舐め、そして勢い良く喰らった。
末の妹に引き続き、こうも早く、ヒルデの心臓まで喰らうことになろうとは、夢にも思わなかった。
中等魔族に生まれた妹たちが、高等魔族の自分より短命であろうことは、ベラ自身、良く心得ていた。
しかし、自分が付いていながら、あまつさえ人間に殺されることになろうとは・・・‼︎
「・・・許さぬ・・・ッ」
ベラの瞳がギラリと光る。
目の前の竜血が、最後の一頭に止め刺して、ベラを振り返る。
ベラは長剣を肩に担ぐと、髪を掻き上げた。
「・・・この剣で切り刻んでやろうぞ・・・ッ」
その言葉に、竜血は拳を鳴らしながら笑った。
「・・・上等だ・・・、
二人の視線がかち合い、決戦の
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