第24話 喪失感と安堵と自責
もう、日が高く昇っている時刻だろうが、小屋の中は薄暗い。
だが、それがレグルスには、心地良かった。
昨夜は、フェリドに赤子のように寝かしつけられた。疲れているのになかなか寝入ることができず、その上、眠りが浅く寝苦しかった。
丑三つ時を過ぎた頃からか、
しかし、その度に何か心地良いものが
そんなことを朝方まで繰り返していた。
今は、
相変わらず身体は重たかったが、昨夜のような
外はきっと晴れているのだろう。開かれた窓から入り込む
そうして風の中でうとうととしていると、夜中に何度も感じていた、あの心地の良いものが額から頬へと触れてくる。
なんだろう、と導かれるように
「・・・レマ?」
頬に優しく触れていたのは、レマの冷たい手だった。
彼は静かに微笑む。
「気分はどうだ?」
「・・・悪くない・・・けど、何だか・・・
「そうだろう。昨晩、発熱したんだ」
発熱、という言葉が思考の鈍った頭の中をぐるぐる回る。
少しして自分のことだと分かると、昨晩のことも全て合点が行った。
「レマ」
「うん?」
「ごめんなさい」
「謝る必要なんてない」
「そうじゃなくて・・・」
レグルスが言い
レマは小首を傾げたが、レグルスの声が
水が通る度に、レグルスの
そうしているうちに、レグルスの謝罪が何のことか思い至ったレマは、「ああ」と小さく声を漏らした。
「良いんだ。もう痛くない」
良いはずがない、と、レグルスは水を飲ませてもらいながら思った。
そうしている間にも、脳裏には、昨日の記憶が
「・・・傷つけて、本当にごめんなさい」
「レグルス。もう良いんだ、本当に」
少し慌てたような、困ったような声音のレマは、すぐさまレグルスの細い肩を掴んで顔を上げさせると、その青い瞳で顔を覗き込んで「良いんだ」と、もう一度、言い含めるように言った。
「傷付いたのはお前の方じゃないか」
その言葉を聞いた途端、レグルスの目頭がカッと熱くなる。また溢れ出しそうな涙を押さえ込むように息を止めていると、その強張った背中を、レマの手が優しくさすった。
しばらくの間、無言の時間が流れる。その空間が心地良い。
涼しい風が窓から入り、レグルスとレマの髪をふわっと持ち上げた時、レマが昔話でも始めるかのように、ぽつりと呟いた。
「私には分かるよ、お前の気持ち。・・・私も、育て親を亡くした」
真っ赤になった目でレマを見上げれば、優しい片目が、寂しげに微笑んでいる。
「・・・悲しかった・・・?」
レグルスが問い掛ければ、レマは静かに、けれどしっかり頷いた。
「彼を失った喪失感は、今も癒えない」
レマのその言葉に、レグルスの頬を一筋涙が伝う。
その涙を拭いながら、レマは言葉を重ねた。
「でも、いいんだ。私は、この寂しさと一緒に生きていく。
喪失感が失せないということは、今も、あの人が私の中に生きているということだから。
・・・だから、大丈夫・・・。レグルスは何も悪くない」
レグルスの髪を撫でながらそう言ってくれたレマの言葉が、すうっと胸の奥に落ちていく。レグルスの中に、トウマを失って傷付いた自分の悲しみを認める思いや、自分も一生トーマを忘れないだろうという安心感が広がる。それと同時に、この自責の念も、ずっと抱えて生きていこうと思ったら、自然と言葉か出てきた。
「・・・ありがとう・・・」
レグルスの言葉を聞いて、レマは少し、苦しそうに笑った。
「さあ、もう少しお休み」
レマがそう言ってレグルスをまた横にならせる。そうして冷たい手でレグルスの瞼をゆっくり覆うと、
「ゆっくりお休み。ずっとそばに居るから」
その言葉を最後に、レグルスは眠りに落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます