Ep. 1そうだ、旅に出よう‼

 人間たちが生活する第6大陸の東の果てに位置する「ジョコル村」。人口100人程度の小さな村である。

 この村はチョコレート菓子が有名で、国内でもトップクラスだと評判だ。特に看板商品「ムギチョコ」は、甘さと香ばしさが絶妙に調和した美味しさで、且つ手頃な値段であることから、多くの人々に愛されるロングセラー商品である。

 ジョコル村の村人たちは商品の生産や開発で生計をたて、けして裕福とは言えないが、平和で穏やかな生活を営んでいた。


しかし、その平穏はいとも簡単に崩れ去る。



 その日は、この国の物流の要であるキャラバンが村にやって来る日であった。

 キャラバンは、立ち寄った街や村で積み荷を売り、空いた場所にその土地の品物を積んで去って行く「流浪商人」と、あらかじめ契約を結び定期的に都市へ送る商品を取りに来る「契約商人」とに別れる。今日訪れるのは後者だ。


「品物、確かに御受取りしました」

「ご苦労様、今回もよろしく頼むよ」

「任せてください!いつも通り無事に届けますよ!」


 ジョコル村の商品は契約商人が近くの鉄道がある街に運び、そこから国中に運ばれていく。


「…最近モンスターが増えているらしいじゃないか。道中気をつけて行ってくれよ。万が一品物が駄目になるようなことがあったら…」

「そんなヘマしませんって!心配し過ぎですよ、タニー村長」

「だが村人全員の生活がかかっているんだ。くれぐれも慎重にな」

「わかってますよ」





翌日。


「あ、アンタは…!どうしたんだ!?」

「そ、村長を…!タニー村長を呼んでくれ…!!」


 只事ではない雰囲気に村人たちが集まってくる。そこにいたのは昨日商品を運んでいったはずの契約商人だった。

 鉄道がある街までは数日かかる距離なのだが、商人はぼろぼろの姿で、しかも商品を積んでいた荷馬車もない。ひょっとして盗賊に襲われたのでは…と人々がいぶかしんでいたところに、騒ぎを聞きつけた村長が慌てた様子で駆けつけた。


「何があった!?まさか襲われたのか!?」

「途中モンスターの群れと遭遇し、どうにか追い払ったまではよかった…だがその隙に…何者かに荷馬車を奪われてしまったんだ…」

「何だって⁉」


まさかの事態に頭を抱えていると、


「た、た、大変だーーー‼」

「今度は何だ!?」

「工場が…工場の設備が壊されてるぞーー!」

「な、何だっ「ぬあんだとぉぉぉおおお‼?」……はい?」



 村長タニーの声を遮るようにして雄叫びがあがる。野次馬を掻き分けながら現れたのは、この村一番のムギチョコ愛好家の若い女、ディアナだ。


「タニー村ちょおおおぉぉぉ!!」

「そんなに叫ばなくても聞こえてるから?!」

「俺は…俺は絶対に犯人を許さない‼」

「しかも変なスイッチ入ってる!」

「工場が再稼働するまでこの村の収入源であるチョコレートは作れない。しかもいつ再稼働するのかもわからない。村の収入は途絶えこのままでは我々はの垂れ死ぬ…そして何より‼」

「…何より?」




「俺のライフライン(ムギチョコ)が途絶えちまったじゃねぇかああぁぁぁあ‼!!」

「「そこ!?」」


反射的にツッコんだ周りの野次馬たちと村長。が、それを全く意に介することなく、ディアナはそこにガックリと膝をつき、負のオーラを漂わせながらなにやら物騒な内容の独り言を呟きだした。

その中身については諸事情により、というか皆さんにお話しできるようなものではないので割愛させていただく。

まあ、世の中には知らない方が幸せなこともある………ということだ。

「「そこ!?」」


反射的にツッコんだ周りの野次馬たちと村長。が、それを全く意に介することなく、ディアナはそこにガックリと膝をつき、負のオーラを漂わせながらなにやら物騒な内容の独り言を呟きだした。

その中身については諸事情により、というか皆さんにお話しできるようなものではないので割愛させていただく。

まあ、世の中知らない方がいいこともある………ということだ。



「ぶつぶつ……おのれ犯人許すまじ………そうだ、旅に出よう!!」

「今までの流れはどこへ⁉」


グチグチねちねちと、しばらくの間犯人への恨み事を紡いでいたディアナだったが、唐突に立ち上がるなりそう言い放った。


「俺は旅に出る。そして…モンスターを狩りまくってやるんだ」

「それは有難いが…何故突然?」

「え?憂さ晴らしですけど何か?」

「は?」

「ん?」


きょとんと小首を傾げるディアナには、自分が理解不能なことを言っている自覚がないらしい。その様子に、村長はツッコむのを諦めて彼女の話を聞くことにした。ちなみにギャラリーはわりと始めの時点で諦めている。


「当然工場破壊した犯人にもムカついてるけど、そもそもモンスターが増えて襲ってきたりしなきゃ、少なくとも商品は無事だったわけだろ?今後同じ事が無いとも限らないし、どっちみち誰かがやらなきゃならない」

((まともな理由だった…!!))

「俺はモンスターをぼこっ…狩ることで憂さ晴らしじゃなくて修行になるし、村のためにもなって一石二鳥。それに道中で荷馬車奪った連中にでくわすかもしれないし?そしたらそいつら殴っ…んん″、捕まえて弁償させることもできるし良いことずくめで万事オッケー」

((ま、まともだ…途中はアレだが至極まともな回答だ…‼))


最後にはピースまでして見せたディアナに、もはや異論を唱える者は居なかった。

というか、本人がそれを望んでいるので止められないのだが。


斯くして、後の勇者となるディアナの旅立ちが決まったのである。



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ムギチョコクエスト(仮) 銀の雫 @silver_drop

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