第6話
「正義、これ、どう思う?」
「気持ち悪いと思う」
正直な感想を口にせざるを得なかった。
例えばこのチャット欄の内容が、現実で普段通りに生活しているときに、メールか何かで俺の元に送られてきたとする。
多分俺は、ろくに読みもせずに、それを削除するだろう。
だが、今現在俺たちは、世界の仕組みを知っていると自称する、そいつのゲームをプレイしている。
その真っ只中にいる。
この管理人を名乗る者が、本当にこのゲームを作ったのだとしたら、困った事に『世界の仕組みを知っている』という素っ頓狂な言葉が、真実味を帯びてくるのだ。
長谷川がふうむと唸った。
「神様気取り……というか、困った事に、これじゃ本当に神様だよね。
この管理人って人が何処まで出来るのかわからないけど、少なくとも三人以上の人間に、僕らが知覚しない所から、幻覚を見せる以上の事はしてるんだ。
……ひょっとしてこれ、僕一人が見てる夢なんじゃないの?」
長谷川が自分の頰を抓りながら涙目になる。
「いてて。
まあ兎も角、この管理人って人がどういう人なのかわからないから、僕らからはどうする事も出来ないね。
その謎技術で、明日世界が破滅しても、僕らにはどうしようもないし、そもそも何もしてこないかも知れない」
長谷川がイヌイの方へ、くいっと振り向く。
いつ見ても不気味な動作だ。
「それで君は、この管理人に何らかの願いを叶えてもらう為、僕らを間髪入れずに殺害した訳だ。
このゲームには時間制限があるって、管理人も言ってるし、あの速攻戦術はまだ事態が呑み込めていない僕達には確かに有効だった。
それにしても、思い切ったことをしてくれたよね。
殺す事によるデメリットとか、殺された側はどうなるのかとか、サッパリわかってなかったのに。
よっぽど叶えたい願いがあると見た」
「ええ、そうね。
でも、君には私の願いは関係ないよね」
「殺しといてその言い草は無いんじゃ無いの?」
珍しい事に長谷川が苛立っている。
自分の体験によると、蘇生薬で蘇生された人間に、死の瞬間や最中の記憶は残らない筈だが、長谷川にとっては、殺されたという事実が不快なのだろうか?
「わかったなら、さっさとここから出してよ。
もう君達には手を出さないから。
……どうせ勝てるわけないし」
「だってさ、正義。
僕としてはこのゲームが終わるまでずっとここに閉じ込めておきたい所だね。
この子は危険だよ。
人がどうなるかも考えず、自分の目的を達成する為には何でもしちゃうタイプだ」
最終的な判断は、どうやら俺に任されたらしい。
「じゃあこうしよう。
イヌイを解放する」
「ちょっと、僕の言うこと聞いてた?」
「ただし、幾つかの条件がある。
まず、イヌイは俺と長谷川の両二名に戦闘行為を仕掛けない事。
これは、納得してくれるな?」
「うん、元よりもう君達と闘うつもりは無いよ。
そっちのヒョロヒョロは、やれば倒せるかもしれないけど……」
かつて無い程珍しい事に、長谷川が舌打ちをした。
面白い。
「そしたらどうせ、そっちの君とも闘うことになるんでしょう。
あれに勝つのは無理。
諦める」
「そうしてくれ。
……二つ目の条件なんだが、これはどちらかというと長谷川に同意を求める事になる」
「うっわ。
なんか嫌な予感がする。
で、一体何なんだい」
「俺たち三人で、手を組まないか?」
奇々怪々は夜を征く @quklop
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