第5話
「あたし、イヌイルイ。
多分君達と同じく、この学校の生徒なんだけど……」
ふむ、といった具合に、地に足のついた長谷川が頷く。
「僕達は、お互いに全く面識が無い」
ここで一つの疑問が生まれる。
俺は堪らず挙手をした。
「はい、正義くん」
「学年やクラスが別々なんじゃないか?
全校生徒の顔を覚えている訳ではあるまいし、それなら面識が無いのも当然だ。
……という訳では無いんだろう?」
「うん、普通に考えたらおかしいよね」
俺に続けてイヌイが手を挙げる。
「先生、それは数学ですか?
数学は嫌いです!」
長谷川が誇らしげに応える。
「うーん、国語じゃないかな?
知らないけど。
じゃあいきなり答え合わせをしよう。
僕らのクラスは?」
「「二年B組」」
やはりか。
イヌイと俺の声がハモった。
ゲーム開始の時点で俺たちは、二年B組教室、つまり自分の所属クラスにいた。
そこに丁度イヌイが、狼の形態で家庭科室からやって来た。
この学校の教室は、家庭科室などの特殊な物を除いて、30を超える数が有る。
イヌイはその中から一つを選んで中に入ったわけだが、何か理由が無ければ、普通は自分が普段使っている教室を選ぶのでは無いだろうか?
「え? でも、あたし、君達の事、知らないし……」
「ああごめん、混乱させちゃったかな。
まあ、それについては不思議としか言いようが無いから、後で考えようか。
今は平行世界がどーたらっていう話をするより、このゲームについての情報を共有するのが先だね」
「お前が最初に言い出したんだろうが」
俺の声が聞こえているのかいないのか、長谷川はスタスタと歩き出し、さっき腰を打った黒板の前に立つ。
「さて、イヌイさん。
応えたく無かったら、応えなくてもいいよ、無理はしないでね。
貴女はゲーム開始直後に僕達を殺しにかかった。
今思えば、それはあまりにも素早い行動だったから、君にとってはゲーム開始直後では無かったのかも知れないけれど、僕達とそれ程ゲーム開始の時刻は変わらないと仮定すると、貴女がこのゲームで最初に起こしたアクションはPVPってことになる。
まあ普通のオンラインゲームだったら、いきなり対人戦を楽しみたい人もいるかも知れないけど、このゲームは普通じゃないよね。
自分と同じプレイヤーらしき人と出会ったら、普通は話しかけて情報を集めたりすると思うんだ。
そうせずに、イキナリ僕達を殺そうとした理由、それを教えて欲しい」
長谷川が芝居がかった動作で、チョークを取り出しながら、イヌイの方へと振り向く。
イヌイは暫くポカンとした様子で口を開けていたが、合点がいったようで、ニヤリと口を結んで歪めた。
「そっか、君達まだ会ってないんだ」
「何に?」
「このゲームの製作者って言ってた。
最初に、夜へようこそっていう文を見て、色々わかって、だからこそあたし、もう、訳わかんなくなっちゃって、そしたらチャット欄に……えっと、こうかな?」
イヌイが、手を振るような動作をすると、そこからチャットのログが飛び出した。
sfものの近未来をテーマにした映画で良く使われるような、ホログラムの画面だ。
正面から覗き込む。
チャットログ 全体〜個人
____________________________________
管理人:初めましてプレイヤーの皆様。
私がこのゲームの製作者です。
管理人:皆様には、このゲームを強制的に
プレイして頂く事になります。
申し訳ありません。
管理人:唐突な話ではありますが、私はこ
の世界の仕組みを知っています。
管理人:それを利用し、このゲームを作成
しました。
管理人:このゲームをクリアされた方には
、報酬として、世界の仕組みを利用し、
一つ願い事を叶えさせて頂きます。
クリア時にお好きな物をお申し付け下さ
い。
管理人:このゲームのクリアとは何なのか
、それはプレイヤーの皆様に是非とも考
えて頂きたいです。
私からヒントを一つ申し上げますと、対
人戦に勝利する事で、確実にクリアへと
近づきます。
管理人:尚、このゲームは期間限定での公
開とさせて頂きます。
クリアを目指す方は、お急ぎ下さい。
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