最近の豊崎愛生は魅力的だと思う

 声優は、当たり役を演じる前も、当たり役を演じたあとも、声優として演じている。


 平沢唯ひらさわゆいという、けいおん! の登場人物がいる。声をあてたのは、豊崎愛生とよさきあきである。平沢唯を演じ始める前も、わたしは豊崎愛生という声優を知っていた。そして、平沢唯を演じることに一段落がついたあとも、わたしは豊崎愛生を認識し続けているし、けいおん! シリーズの展開が一区切りついたあとの豊崎愛生こそ、わたしがもっともだと見なしている女性声優のひとりなのだ。

 神さまのいない日曜日というテレビアニメ作品があった。ちょうど五年前の今ごろ放映が始まった、深夜アニメだ。ゴリゴリのスタチャアニメという印象が強かった。オープニングテーマを歌っていたのが喜多村英梨きたむらえりで、エンディングテーマを歌っていたのが小松未可子こまつみかこだった。主演が豊崎愛生だった。


 一時いちじ浮動ふどうに惑わされないこと。けいおん! が京都アニメーションの後押しにより、主人公の平沢唯を演じている豊崎愛生の声質の特異な側面に過剰なスポットライトがあたり、過度に持ち上げられ、いくつかの不都合すらも起こってしまったこと。

 むしろ、ここ五年間の豊崎愛生こそが、彼女の本領を発揮している時代なのに。たしかに京都アニメーションのによって出世した声優は多い。

 

小野大輔、平野綾、茅原実里、白石稔、加藤英美里、福原香織、遠藤綾、豊崎愛生、日笠陽子、佐藤聡美、寿美菜子、竹達彩奈、洲崎綾、田丸篤志、黒沢ともよand more...


 豊崎愛生は、平沢唯をあとも、生きていかなくてはならない。誰として? 声優として。

 天体そらのメソッドというアニメがあった。約四年前のアニメだ。条件反射のように、エンディング映像の圧倒的なイメージが、脳幹に刺さってくる。たしかに、エンディング映像は、天体のメソッドというアニメのほとんどを代表している。そのせいで、作画の爆発力、とくにエフェクト作画の峻烈さにひいでているオープニング映像が看過されているぐらいに。

 豊崎愛生は、水坂柚希みずさかゆずきという少女を演じていた。そらに浮かぶ円盤を憎む少女で、双子の兄である湊太そうたとの関係性に悩んでいた。

 柚希は、主人公ではない。主人公の古宮乃々香こみやののかを演じていたのは、豊崎愛生よりひとまわりぐらい年下の夏川椎菜なつかわしいなだった。豊崎愛生は夏川椎菜の助演に過ぎなかった。しかし、ということこそが、豊崎愛生という存在の存在感の輪郭を、わたしの意識に強く浮きらせる契機となったのだ。


 時代がくだり、世代交代によって、事務所の後輩の助演を任されるようになった豊崎愛生を観ていて、いい仕事をしていると思った。新人の突き上げがある。夢喰いメリーでの佐倉綾音さくらあやねや、グラスリップでの深川芹亜ふかがわせりあのようなケースのように、なんの実績もないところからいきなり主役を任されるということはままある。わたしが三十路みそじになって見出した、ある種のは、キャリアが浅い声優ほど主役に登用されることが多いということであった。

 2017年のガブリールドロップアウトでは、あれだけ出演作品数が多くメインキャラも多かった花澤香菜はなざわかなが、ラフィエル役でに徹していた。

 そして今年の冬に商業成績という高いいただきの頂点に登りつめたゆるキャン△において、豊崎愛生もまた、胸の大きく関西弁を繰り出しとした自分のペースで生きている主人公各務原かがみはらなでしこの部活仲間である犬山いぬやまあおいを演じて、に徹していた。

 各務原なでしこに、平沢唯の幻影を垣間かいま見た。

 しかし、各務原なでしこを演じていたのは、やはり平沢唯を演じた豊崎愛生よりもひとまわり年下である、花守はなもりゆみりだった。


 わたしは、現在いまの豊崎愛生が、好きだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る