第2話

 あれから一週間。女は何をするでもなく、ただ雪と戯れている。


 一日目は、庭にある石に座ってじっと朝日を見つめていた。何をするでもなく、ただ見ているだけで、話しかけようとはしない。朝日の仕事に興味を持つこともなかった。


 二日目は、一日中大小様々な雪だるまや雪うさぎを作っていた。妙に躍動感のある氷像も混じっている。この日も、話しかけてくることはなかった。雪が降った気配はなかったはずだが。


 三日目には、雪が降っていた。いつになく艶やかな笑みを浮かべた女は、雪の中はしゃいでいた。


「……楽しいのか?」

「! ええ、楽しいですよ」


 朝日が話しかけると、女は一瞬嬉しそうな表情を見せる。……だが、すぐに笑みに変わる。いつもと変わらない、作り物めいた、あの表情へと。


 そんな女を見て、朝日は興味が失せたかのように部屋に戻る。一日に交わす言葉は、ほんの少しだった。そして朝日を、女は感情の乗らない笑みで見送る。


 ──それが一週間続いた。



 いい加減、飽きた。


「そろそろこの会話も飽きてきました。……ふふっ、その表情は当たりですね」


 雪が降る中、女はいつもと少し違った表情を見せた。


「……おまえ、そんな顔もするのか」


 少し得意そうな、そんな新たな表情。


「ええ。あなたも、楽しいのか以外の言葉を知っていたのですね」

「……朝日だ」

「朝日様?」

「ああ。……おまえは?」

「私ですか? 私に名前はありません」


朝日がそう尋ねると、女は事も無げに言い放った。


「今までお世話になった所では、白姫や小白と呼ばれていました。ですが……朝日様のお好きなようにお呼びください」


名のない神など存在するのだろうか、と朝日は怪しんだが、それも数秒のこと。自身の名がどのようなものになるのか期待に目を輝かせていた女に、朝日は告げた。


「雪」


それだけ言うと、朝日はぷいと顔を背けて部屋に戻っていった。


――そのため、朝日がどんな表情をしていたのか。雪、と名付けられた女がどんな表情をしていたのか。互いに、気がつかなかった――

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天華と、恋を。 花桃夕桜 @hana_momo_

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