第5話 口の中の飴玉を転がし続ける
『君は最低に近いな……好きな子にその事実を伝えなよ……なんで言わないんだよ……』
彼女は呆れ顔すら通り越してやるせないような表情を浮かべていた。
「本当にね。ホント、僕もそう思う」
けどさ。
「たぶん、僕が望んでいたのはずっとずっと彼女の側に居ることだったんだ。誰かと彼女が付き合うのは嫌だけど、だからって自分が付き合えるわけでもないしさ。そりゃあできたら付き合いたいけれど、自分の中身を見せて空っぽなのがばれちゃったら辛いじゃないか」
彼女はつぶさに僕を見ていた。彼女の目に映る僕はどのような顔をしているのだろう。そして彼女は何を思って僕を見つめているのだろう。
『誰かと……他人とちゃんと向き合えないのは君が弱いからだよ』
全くもってその通りだ。
苦い笑いを口元に浮かべることしかできない。
『そしてさ』
ベッドに腰掛けていた彼女が立ち上がって手を僕の胸に押し当てた。
『貴方は空っぽなんかじゃないでしょう?』
「そういうのは自分じゃよく分からないよね」
ふう、と彼女はため息を吐いた。それからテクテクと歩いてテーブルに置いてあるお菓子の袋をガサガサと漁った。
『……飴ちゃんでも食べる?』
「関西人かって」
軽口を叩きながら彼女から差し出された飴玉の包装を破る。現れたのはくすんだ蜜柑色の飴玉で、その小さな飴玉を口に放り込んだ。
色と匂いと味、どれもがぼやけたオレンジのようだった。
破った後の包装紙を眺めたけれど、見れば見るほどに安っぽい包装紙だ。
美味しいんだけどなんともチープなんだよなあ。
「安い味だよね」
『まあ、そうね』
「好きだけどさ。こういう野暮ったいの」
『キミにピッタリだよ』
「君にもな」
『分かってるじゃん。私が好きなのは見栄えがよいモノでもなければ、万人が素敵って言うモノでもないのよ』
散りばめられた言葉の中には幾つかの――実際は幾つも無いんだけど――伏線とか、想いとか、そういったものが込められていた。
『何か喋ってよ』
理解してしまったから気恥ずかしい。
『ねえ』
僕は黙って口の中の飴玉を転がし続けていた。
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