第6話 僕も好きだよ



 自分の心情を可能な限り省いて、偶然、田中が君に告白をしようとしていることを聞いたと伝えた。

 得心したのか彼女は軽く頷いた。

「そうだったんだ」

「だから、なんだろうな。行かなくていいの?」

 僕がそう言うと、彼女は少し悩んでぼんやりと呟いた。

「逆に聞くんだけどさ。断るんだから行かなくていいんだよね。……良いのかな?」

 絶対的な経験値の差があると思っていたのだけど、どうやらそうでも無いらしい。

「断るんだったら行かなくても良いんじゃないかな。たぶん」

「たぶんって……」

「経験ねーから分かんないの」

 思わず情けないことを呟いてしまったけど、そういうことなのだ。

 それなりに長い間側に居たから、僕にそんな経験がないことなんて知っているだろうにさ。

 まあ、あくまで僕がそう思っているだけで、彼女からすれば気にしていない存在なのかもしれないけれど。

「いやいや。そんなまさか」

「そんなまさかだよ」

「本当に?」

「僕はそっくりそのまま君にそのセリフをお返しするよ」

 皮肉ったセリフに彼女は一瞬顔を顰めて、それから笑った。

「それなりにずっと居たから知ってると思ってた。私が告白されるわけ無いでしょ。……一度で良いからそんなモテモテガールになってみたいねー」

 嘆息しながらそう言う彼女に事実を告げてみる。

「知ってるのか知ってないのか分からないけど結構裏ではモテモテみたいだよ」

 本人が知らない事実は多々ある。

「そんなふうに感じたことないんだけどなー」

 だから後ろで言ってんだって。……ってそうだ。

「とにかくさ。田中にはメールかなんかで謝っておきなよ?」

「分かってるって。と言いたいんだけど、どんなふうに断ればいいのかな?」

 そこまで僕が知るか!

 って言いたいんだけど言えないんだよなあ。

 こうやって言えないことだけが増えていくから、僕はその内破裂するんだ。

「んー……『生理的に受け付けない』はさすがに傷付くよなあ」

「そうだよねえ」

「嘘でも良いから好きな人が居るってことにしたら?」

 ほんの少しの探りを入れてみる。

 誰か好きな人は居ますか?

 彼女は白く細い指先で携帯を扱いながら声を発した。

「そうだね。そうする、かな」

 僅かな間を置いて、彼女は続けた。

「けどね。別に嘘ってわけじゃないんだよね」

「……へえ」

 辛うじてそう言葉にするのが精一杯だった。

 平静を装う必要があるのは心がざわついて、感情が表面に出そうになるからだ。

 心の奥底へと沈んでいくとそこには小さな小さな水溜まりがあるんだ。水溜まりにはいつも自分の顔が映っていて、彼女の言葉で波紋が大きくなったり、凪いだりする。

 水溜まりはさざめく波のように大きく揺れているから、映っているであろう自身の顔は見えないけれど、きっと悲しい表情を浮かべているはずだ。

 だってそれは、今浮かべている自身の表情でもあるのだから。

 僕と反して彼女の眼差しは、そのなんとも形容しがたい気持ち――優しさとか柔らかさとかそういったすべてのモノ――を含んで、湛えていた。

 ああ、やっぱり明るい。彼女は柔和だと感じた次の瞬間、そういった明るさは顔から消えて、うっすらと陰すら見えるようだった。

「でも、この想いが報われないなのら、好きって言ってくれる人と付き合った方が良いのかな?」

 二の句を告げないとはこのことだろう。

 好きな人が居る上にその人を諦めて田中と付き合った方が良いのかって……僕はなんて言えば正解なんだよ。

 やっとのことで絞り出せたのは、

「報われないことって確定なの?」

 こんなことだった。

「んー……多分そいつね。私からアクションを起こさないとずっと気付かないんだと思う」

「うん」

「っていうかね。基本的に鈍感なんだよそいつ。男の子とは思えないくらいフニャフニャしてるし……けど好きなんだよね。私も大概だよ。馬鹿みたいだ」

 そんな鈍感男なんてやめちゃえよ。

 心の中で小さくそう呟いて苦笑してしまった。

 心の中でさえ小さくしか呟けないのだ。実際に言えるわけなんて無い。

「なんか。なんだろう。手伝おうか?」

 結局そんなふうに言うことしかできない。

 なんて中途半端な距離感だろうと嘆息しそうになるけれど、事実僕に許されているのはその程度なんだ。手を差し伸べることはできても、その手を掴むかどうかは彼女次第で、無理矢理に手を開かせることはできないし腕を掴むこともできない。

 そんなことはどんな距離に居たって言ってはならないのだけど、もっと近くに居たのなら……。そんなふうに考えてしまう自分が気持ち悪かった。

「無理だよ」

 あまりにも直球すぎると人間はどう反応していいのかよく分からないらしい。

「え?」

 蚊の鳴くような声でそう言って呆然と彼女の顔を眺めていた。

「キミにはきっと解決できないよ」

 どういうことだろうか?

「そりゃあ、そうかもしれないけれど。直接的なことはできないけど、それでも話したら楽になることってあるじゃん」

 吐息が聞こえた。けれど僕にはその吐息が何を意味しているのかが分からない。

「この言葉をキミに言ってしまったら、苦しくなる。辛くなる。答えが欲しくなる。だから言えないの」

 普段とは異なる彼女の言葉遣いと声色に、僕は身体を起こした。

 ベッドに腰掛けながら彼女に視線を向けた。携帯を持つ手が震えているのに気付いて、僕は色々と理由を考えてみようとした。

 サラサラとした髪。少し俯きがちな表情。テニス部なのにやけに白い肌。

 そんなモノを注視しながらあれこれと思惟できるほど、僕の心は鋼鉄で作られてはいない。糸と糸を捩るようにして思考を絡み合わせようとしてみるけど、すぐにその糸はほぐれてしまうから全くの無意味だった。

「君がどういう気持ちで言っているのか分からないけれど、そんな顔してるなら……」

 口に出している言葉とは裏腹に、心のどこかではさすがに気付いている。

 経験は無いのに案外分かるものだ。空気は重いのだけど、嫌な感じじゃない。

 詳しい言葉の使い方は分からないけれど、緊迫感とか緊張感とか、そういった類いだ。

「好きってさ」

 彼女は僕の言葉を遮るように吐き出した。

「心の中には確かにあって感じることができるのに、形には見えないものだよね。少なくとも私はそう思うんだ」

「……言いたいことはなんとなく分かるよ」

 それが一体どうしたって言うんだ。さっきの言葉とまるで繋がっていないじゃないか。

「ねえ」

 僕は無言で彼女の瞳を見つめる。彼女の瞳は確かに僕を真正面に見据えていた。 

「私はキミが好きだよ」

 告白かもしれないな。なんて思ってはいたけれど、本当のところでは理解していなかった。その言葉の意味も何もかもを理解していなかった。

 だから頭には入ってくるけど、どのような解釈もできないし、その言葉を受け入れて飲み干すこともできなかった。

 咀嚼できなければ飲み込めないのだから当たり前だろう。

「うん」

 小さく首肯することしかできなかった。



 その後僕は、この場面を幾度も思い返すことになる。

 彼女のその言葉だけで世界は一瞬にして色彩を変えたし、見つからなかった大切なモノがやっと僕の目の前に現れたのに、付いている意味を失った僕の口は固まってしまって上手に言葉を結べなかった。

 たぶん、もっともっと喜べば良かったんだ。 

 頷きだけで返すべきではなかったのだ。

 きっとそれが彼女の言う『形には見えないもの』に対抗できる唯一の手段だった。

 ……最良の選択肢とはそれだったけれど、選んだ選択肢だって別に悪手ではなかった。



 相変わらず口は渇いていた。けれどそれは熱っぽさから来ているものではなくて、部屋の静まりのせいで否が応でも彼女の言葉が頭の中で反芻されていたからだ。

 彼女の気持ち、分かんないや。

 大きな音を立てながらベッドに倒れ込んだ。

「『うん』だけじゃ、分からないよ」

 僕もそう思うよ。けれど、頷くこと以外にどんな反応が出来るのだろう。

 困ったな。本当に困った。

 それにしても、分からない同士で何を擦り合わせようとしているんだろう。

 本をパラパラと斜め読みするように、思ったことだけをそのまま吐き出してみる。

「どう反応して良いのか分からないんだよ。でも間違いなく、その言葉は嬉しいよ。ちょっと混乱しているから頭の中に真っ直ぐ入ってこないけどさ」

 そっか。と小さくこぼして、それから彼女はやっと笑みを浮かべた。

「そういう返事が聞けたから、とっても嬉しい。大げさじゃなくて、嬉しいよ」

 僕はずっと彼女のことが好きだったのもあるし、誰かからちゃんとした好意を向けられることもなかったから、大好きな人から向けられる好意というのは喜びという言葉以外のどんな言葉でも表せない。

 でも、彼女はどうなのだろう。

 彼女の言葉をそのままに受け取れば嬉しいらしい。

 けど、でも、一体何故僕なのだろう。

 なんで僕のことを好きになったのだろう。

 尋ねてみたかった。いや、聞かなければいけないと思った。

「でも、どうして……なんで?」

 主語も何もなくて言葉になっていなかったから、彼女は眉を顰めた。

「……何が?」

 簡素な部屋の中では僕たちの喋り声だけが響いていた。ときどき心臓の鼓動と呼吸音が思考の邪魔をしていて、僕は上手な言葉を結べなかった。

 相手に伝わるような上手な言葉を紡ぐのに必要なのは冷静さだ。

 それを欠いてしまえばどんなに相手を想っていたってなんの意味も無いのだ。

 柔らかな太陽の光が部屋の中で舞っているホコリにあたって乱反射していた。粉雪か雪虫か、そんな感じだ。視界に映るそれを払い除けるように僕は目を閉じた。

 ふう。

 いつもより大きく息を吐いて、またいつもより深く息を吸った。

「僕はさ。自分が魅力的な人間だって思っていないんだよ。君はどう?」

「私だって同じだよ。もし仮に自分に自信があるなら、もっともっと前に気持ちを喋ってるよ」

「それが不思議なんだよ」

 彼女は小首をかしげた。

「どういうこと?」

「なんで……なんで、今僕にその気持ちを伝えたの?」

 彼女は一瞬、んっと声を詰まらせて、それからはっきりと笑みを浮かべた。

「分からないの?」

 続けて言う。

「自分の気持ちを伝える理由なんて一つしかないよ。好きだから、でしょ?」

 感情はいつだって理性で抑え付けている。抑制しないと暴れ出してしまうほどの感情を野放しにしてしまえば、訪れるのは破滅でしかないと思う。少なくとも僕はそう思っている。

 何も言えない僕に、彼女は肩を竦めて対応した。

「やっぱりなっていうか、キミはそういう反応をすると思ったんだ。……私ね。キミがどういう言葉を返すのか、どんな表情をするのか、色々想像してたんだ」

「うん」

「それでね。やっぱりキミはそういう人なんだって思って、ちょっと安心しちゃった」

 予想通りの反応で安心したという彼女の気持ちは分からないでもない。けれど真意を掴むことは出来なかった。

 どういうことだろう。

 僕は幾度か瞬きを繰り返し、彼女を見つめた。

「だって、大げさに喜んで飛び跳ねちゃうのはキミじゃないみたいで怖いよ。内心ではどう思っててもいいんだけど……あ、もちろんめちゃくちゃ嬉しがっててほしいんだけどね。んー。いざこうやって言葉に出してみると難しいね。どんなふうに言ったら上手に伝わるのかな」

 そういうものなのか。と軽く俯いて思案に耽ってみる。

 僕は僕自身の性格が好きではない。人目の付くところでは平凡な人間を装っているけれど、考えていることは相応に屑であると思う。少なからずそう言って差し支えない部分は多分にある。

 そんな僕を好ましく思っているなんて、きっと彼女の懐は深すぎるくらい深いのだろう。

 海とか山とか。空とか宇宙とか。

 そんなくだらない言葉が浮かんでは消えていった。けれどたぶん、そういうものはどんな語句でも表せないし、表すものでもないのだろう。

 少しだけ乙女じみたことを考えてみる。

 僕も彼女も、相手が自分などに興味を持つはずないと決めつけていた。それはきっと自信の無さから由来するものだろうけど、それを単純に個々人の性格の問題で片付けていいのか。

 馬鹿みたいな考えをするけど、これは運命の赤い糸という奴じゃないだろうか。

 複雑に絡み合ったものは簡単には解けてはくれないし、繋がっていることを確認することすら難しい。けれどその一方であっさりと解けて、見つけやすくなることがある。そう考えてみると、僕と彼女の運命の赤い糸はたった今繋がろうとしているのかもしれない。

 そしてそれは恐らく偶然ではない。彼女が自身の想いを吐露したからこそ、運命のなんとやらという奴は引き寄せられるようにして僕たちの目の前に現れたんだろう。

 でも僕が『うん』と頷いて彼女の想いを受け入れるだけでいいのか?

 それでいいのか?

 手を差し出してくれたなら、僕もその手をちゃんと掴まなければいけないんじゃないか?

『どんなふうに言ったら上手に伝わるのかな』

 必要なのは冷静さ。そう思っていたけれど、案外それだけではないのかもしれない。

 どんな言葉だって形にすれば何かしらは伝わるし、伝えようとする意思さえあれば、熱意さえあれば、気持ちは伝えられるのかもしれない。

 だって、彼女の想いは僕に伝わっていたのだ。

 他人の心の機微が良く理解できない僕にさえ伝わっているのだから。

 盗み見るようにして彼女の姿をチラチラと捉えると、彼女は何もない天井を仰ぎ見ていた。彼女はどこを見ているのだろう。その瞳は何を捉えようとして上を見ているのだろう。そして、そしてなんで、僕は俯いていたのだろう。

 僕が下を向いているのは、過去の出来事を思い出していたからだ。

 とすれば、彼女は未来を想っているのだろうか。

 少なくとも僕よりは健全な思考をしている。過去を思い出すことも大切だけれど、それだけではいけないのだ。たぶん、そう。僕は今、前を向かなきゃならないのだ。

 努力なんて言葉を使うほど大層なことをするわけじゃない。ただ視線を上げればいいだけだ。

 チラチラと覗き見ることなんてしなくてもいい。ちゃんと彼女の目を直視すればいい。積み重ねてきた性格のすべてを、今更変えるのは難しいかも知れないけれど、できることを行わなければならない。

 だから。

 僅かながらに――けれどはっきりと――上げた視線は彼女の瞳とぶつかって、僕の口からは滑る落ちるようにして本音がこぼれ出た。

「どんなふうに言ったって君の気持ちは伝わってる。ありがとう。……僕も好きだよ」

 君の真っ黒な瞳はちゃんと僕を見つめていた。

「……よかった。伝わったのなら、よかった」

 彼女は二度か三度ほど瞬きを繰り返した。

 よくよく見るとその目は潤んでいて、目元には優しさを湛えているような気がした。

 ああ、やっぱり彼女は彼女だ。

 どこまでも柔らかい。そして僕にとっての気持ちよさを持ち合わせている。

 気質的にどこか丸くてふわふわしてるのに、その柔らかさの中には確かに自分というものが存在していてる。

 遠くに行ってしまったような気がしたのは僕の杞憂だった。思い違いに過ぎなかった。彼女はどこまで行っても彼女だった。もしかしたらそれすら馬鹿げた勘違いかもしれない。どこにも行ってなんてなかったのかもしれない。

 彼女は始めから何も変わっていなかったのかもしれない。

 頭の中に浮かぶのは同じような意味をなす言葉ばかりで、僕は本当は……心の奥底では何を想っているんだろう。それこそ、僕は彼女に何を伝えられるのだろう。

 どんなに彼女のことを想っても、僕は上手に伝えられない。

 なんであれこれと色々考えて塞ぎ込んでしまうのだろう。

 きっとこんな思惟には何も意味がないのに……。

 そんなことを考えていたら視界の端がゆらゆらと動いていた。波のように揺らめいて、どこもかしこもキラキラと輝いていた。

「なんで泣いてるの……?」

 彼女は不思議そうな表情をしながら、ゆっくりと僕に尋ねてきた。

 さぞ驚いているのだろうと思う。僕もそうだ。

 別に悲しくなんてないし、嬉しい気持ちが膨れ上がっているわけでもないのに、どうして僕は涙を流しているのだろう。

 彼女は緩慢な動きで椅子から立ち上がって、僕の座っているベッドまで近付いてくるとゆっくりと言葉を発した。

「ねえ。なんで泣いているの?」

 同じ質問をされたはずなのに、先ほどとは打って変わって優しい声色で尋ねられた気がした。けれど、それでも僕は叫んでしまいたくなった。

『僕にだって分からないんだって!』

 彼女は声を出せないままの僕の側に寄ってきて、頭を撫で始めた。

 彼女の突飛な行動に驚いたけれど、僕はその指の感触に身を任せた。

 髪が梳かされていく感覚はどこかこそばゆいけど、気持ちが良かった。

 細い指が髪に触れる度に心が落ち着いたし、髪から離れる度に心がざわついた。

「たぶんさ」

 幼子に言い聞かせるように彼女は告げる。

「きっとキミはもう答えを持っているんだよ。考え過ぎちゃってグルグルしてるだけじゃないかな」

 そういうところは往々にしてある。いや、それしか無いと言っても過言ではない。

 想えば想うほどに言えないことは増えていく。

 どうしようもない感情を告げてしまったら、この穏やかな関係が壊れるかも知れないという恐怖心だけが自分の胸の奥底に積み重なっては溜まっていく。

 壊したくない。側に居たい。好きで居たい。側に居てほしい。

 矛盾した想いを孕んだまま僕ほ堪えてきたんだ。

 なのに、どうして。

 なんで僕は気持ちを口に出せたのだろう。何故彼女にはっきりと伝えたのだろう。

 溢れ出てくるこの涙の淵源は一体どこにあるのだろう。

 悲しみや切なさから来るものではない。それは確かだ。そうだとしたらプラスの感情から涙が出たのだろうか。僕の心は何に喜びを覚えたのだろうか。

 これは恐らく、恐らくだけど、何よりも大切なことのような気がする。

 自らが発したメッセージを今は自身で噛み砕けないし飲み込めない。

 だからといって咀嚼しないわけにはいかないのだ。

 温かな涙が流れては溜まって、溢れて、また流れていく。

 この気持ちを忘れたくない。だから、無為なように思える思考を重ねていくほかない。

 胸を鷲掴みにされるような想いを消してしまいたくないのなら、思慮の過程も結果も積み上げては濾過していくしかない。

 口に出すことの難しい想いが繋がって未来を形作るのだと信じたい。

 彼女は相変わらず僕の頭を撫で続けていた。

 無遠慮だ。

 なんて言葉が脳裏を掠めるけれど、憤慨してみる気も起きない。

 フニャフニャしてるなんて言ったくせに、君がそうやって僕を甘やかす。

「いつかきっと……ちゃんとその想いを私に教えてね。誰より一番にさ」

 僕ははっきりと頷いた。

「うん」

 伝えよう。

 必ず伝えよう。

 きっと誰より先に、君に伝えよう。


 僕はこのときそう思ったんだ。




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