第8話風評被害

私の父は福島の田舎で育ち、代々続くキャベツ農家でした。あの日以来、私達は、避難生活を余儀なくされ、畑に立ち入ることすらできませんでした。毎年この季節に春キャベツの出荷があり、沢山の春キャベツが、畑に並んでいました。


そう言って父の遺影に目をやった山口さん。あれから起こった原発事故のせいで、大事に育てたキャベツ達は世に出荷されることなく、廃棄処分となりました。


「あんなに、一生懸命育ててきたのに。これじゃ買ってくれるどころか、廃棄処分なんて。せっかくもうすぐ、出荷だというのに。」

父は愕然と、肩を落としました。私達の家計はこの、キャベツのみが生活を支えていました。

父は日に日にやつれ、口数が少なくなっていきました。



そんなある日、父の姿が見当たりません。昨日の夜に、畑に行くと出て行ったきり。私と母は、心配になり、周りを探し回りました。すると、倉庫の中で父は首を吊って死んでいました。足元には、遺書が。。。

「かなえ、里見、ごめんなさい。一生懸命育ててきたのにキャベツが、出荷できないままで、もう、お父さんどうしたらいいか分からないんだ。借金だってあるし、このままじゃ、返していけない。お前たちを食わせていけなくなりました。だから、俺の、生命保険で、借金の返済とお前たちのこれからの生活費に、宛ててくれ。お父さんな、お前たちの家族でほんとに良かった。今までありがとな。そして、先立つことをどうか、許してくれ。幸せになってくれよ。無責任な父でほんとにごめんな。さよなら。」


「お父さん!!なんで。。」


私は、その場で、母と父を卸し、ただただ、泣くばかりでした。やりようがない現実。原発事故さえなければ、、、私は、悔しくて悲しくて、一晩中泣きました。


それからは、父が、守ってきたキャベツ畑を守ろうと、心に誓い、今では、ようやく少しずつですが、キャベツが出荷できるようになりました。


ニュースでもやっていたこの二次災害。キャベツ畑を切り盛りしていた山口さん一家だけではない。果物や、魚介、畜産、全ての福島の農家の人達に多大なダメージを与えたのは言うまでもない。TOKIOのダッシュ村や、カンニング竹山氏などが、実際現地に行き、放射能で、汚染されてません!大丈夫です!

そう訴えたところで、なかなか消えないのが風評被害。現地の人は、それを食べ、生活しているんです。大事に一生懸命育てた魂がこもった農産物です。まだまだ東北には、いい食材が眠っています。風評被害で、食べない。それは、本来あるべき姿ではないのではないかと、飲食業界で働く私は、遺憾の意を持ちました。

早く風評被害を気にすることなく、美味しい食材が出まわる日を夢見て。。。

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