第7話家族の一員

福島の原発事故のあと、私達が住む飯館村は警戒区域となり、一切の立入禁止になった。

その時は体一つで逃げてきたが、避難場所には、ペットを連れていけなかった。泣く泣く飼っていた柴犬の大地を置いて来なければならなかった。


そう語るのは60代のご夫婦篠原さんご夫婦だ。避難場所に行く際に、多めにこばんと水を用意し、その場を後にした。


その3日後、一度家に戻り、必要な着替えや荷物を持ってくる。その時大地は、私達を見つけてしっぽを大きく振り、何度も何度も吠えた。

「大地、ごめんな。お前も連れて行きたいんだけど、政府がダメって言うんだ。また帰ってくるから、それまで、元気に、しててくれよ?必ず帰ってくるからな。」

主人はそう言って大地の頭を撫でた。その姿を見て涙が止まりませんでした。今度はいつ戻れるか、分からなかったのが、現状です。


日に日にニュースでも、この区域は、放射能汚染が、ひどいと、悪いことばかり言われるようになり、私達は、1ヶ月は、戻れませんでした。

「あんた、大地大丈夫かな?」

「大丈夫だ。きっと生きていてくれるさ。信じるしかない」


最初は、1ヶ月と言われたのが伸びに延びてようやく一時帰宅を許されたのは、3ヶ月後でした。

頭の中は置き去りにした大地のことが、離れませんでした。心配で、心配で、夜も眠れない日が続きました。

家の前に行き、大地の名前を呼びました。シーンとした現場。いつもなら、私達の声を聞いてすぐ、吠えるのですが。。。


繋いであった場所に大地はいません。私達は、必死に探しました。すると、家の中の台所で、変わり果て横に倒れたミイラ化した大地を見つけました。周りにはハエがたかり、ひどい臭がしました。

「大地!!!うわぁぁぁぁぁん。大地が。。。大地!!大地!!父さんと、母さん帰って来たぞ。ごめんな。ごめんな。」


「この子、お腹空いて首輪自分で自力で外したんだ。台所に、食べ物あるの知ってて。。。可哀想に。ごめんね。大地ー!!」


私達は、避難場所に戻る際、ただただ、泣くばかりで口を開きませんでした。大地の首輪を抱えながら。


こうして、私達の家族は政府の指示によって命を落としました。私達だけじゃない。大事に家族の一員として、飼っていた犬や猫、酪農で飼っていた牛や馬や、豚、鶏。沢山の動物たちが、原発事故のため命を落としました。東電さえしっかりしていれば。私達は、恨みました。子供がいない私達夫婦にとって、大地は、唯一の家族です。それを置き去りにしろなんて。あまりにも、酷すぎます。

怒りを顕にしながら涙ながらに語った篠原さん。今でも、大地は、彼女達の胸の中に生き続けています。

犬や猫だって命あるもの。命の尊さを教えてくれました。未だにその悲しみは拭いきることはできません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る