10 異世界からの干渉
「なるほど、そういうことか!」
わたしの知らない爽人が云う。
顔と身体つきと声は同じだ。
が、全体的な雰囲気が違っう。
「執着みたいなものか?」
そんなこと知らないわよ。
「あなたは誰?」
「キミの知らない寺西爽人だろうな」
「爽人は何処に?」
「いるよ」
「だから、どこに?」
「ここに……」
「いないわ」
「共存は出来ない」
不意に雰囲気が変わる。
「1と1と1と1と1とから成り立っている世界とーっ、1と2と3と4と5から成り立っている世界はねえーっ、同じ時空を共有していてもーっ、別物なんだよーっ……ってこと!」
恵子さん?
「違う恵子さんだけどねーっ」
「じゃあ、誰なんですか?」
「5と5と5と5と5から成り立っている世界だってあってーっ、無数なのよーっ」
ああ、頭が痛い!
「それに利用されていないパタンはただの可能性だからーっ、実際込んでいるわけでもないしねーっ」
わたしに向き返り、右手の人指し指でわたしの鼻先を突付く。
「あなたには自覚がないようねーっ」
そんなもの最初からありませんよ!
「でも偶然のサンプリングだからーっ、仕方ないわよねーっ」
「えっ、恵子さんもサンプリングされたの? いや、違うか……」
「わたしはあなたの記憶の中にあるーっ、山野恵子から構成された別物よーっ」
「じゃ、恵子さんではないわけね」
「うん。でもこの形ならーっ、あなたが驚かないからーっ。家族じゃ無理だったんだよねーっ。だから執着―っ」
執着?
「そう。ま、別の意味もあるんだけどねーっ」
不意に、また雰囲気が変わる。
が、それはわたしに近しいものだ。
「何なんだよ。今のは?」
爽人が戻る。
肩が重いのか、しきりと首を動かしている。
「爽人?」
「……たぶんね」
「どうかされたの?」
「わからないけど、強引に乗っ取られた感じだな」
そういうこと?
「今は戻ったの?」
と、わたし。
「おそらくは」
と爽人。
「よかったぁ!」
「おれの存在自体は消えなかったから。たぶん、そこまでの干渉はできないんだろうな、まだ」
「まだ?」
「そう。……おーい青年!」
爽人が呼び、青年が無から出現する。
「はい。どういたしまして」
「アンタなんだろ? 助けてくれてありがとう」
「思いつきませんね」
「あいつらをこの世界から追い出す方法はないのか?」
「入ってきた経路を塞ぐしかないでしょう」
「全然?」
「いえ、残念ながら……」
「アンタはそれを知ってるわけ?」
「確かにそうかもしれませんが、方法がわからないんですよ」
「でも、わたしがキーパーソンなんでしょ? わたしを通じてやってくるんじゃないの?」
「大胆なご意見ですが、推奨できません」
「方法はそうかもしれないけど、わたしがいなくなれば、死ねばいいんじゃないの」
「そうすれば、おそらく別のキーパーソンが選ばれるだけです」
「違う?」
「静かに、来ます!」
「そっか。……困ったわね」
ズウウウウウンと腹の底に響くような時空のうねり。
吐き気がする。
気づくと大学の校舎が揺れている。
わたしたちが良く知る地面が動く地震のように……
「地震じゃない?」
と、わたし。
「大きいな!」
と爽人。
わたしと爽人は最初講義室の長机の下に避難する。
が、揺れが尋常ではない。
しかも長い。
グラグラグラグラ……
ユラユラユラユラ……
これは地震なのか?
本当に?
ユラユラユラユラ……
グラグラグラグラ……
それとも時震に伴うわたしたちの空間の反応か?
「彼らが現れたこの世界の場所が歪むのは確かなようです」
青年が云う。
ついで、
「しっかりぼくに掴まって……」
云われるまま、わたしと爽人が青年の華奢な身体に掴まる。
肌が凍る。
シュン シュン シュン
三度撥ね、最後に青年がドサリと不器用に着地。
大学の校舎が轟音を立て崩れ落ちる画がスローモーションでわたしの脳裡を通過する。
ついで、また、
シュン シュン シュン
時間が跳び、戻り、混乱する。
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