第16話 やっと、出会えた(第一章エピローグ)2

「それにしても旧街道の橋が何故か新たに建設されている、か」


「どう見ます?」


「どうもこうもな。盗賊の件が片付いたと思った矢先、どうと言われた所ですぐに判断を下す事は出来ん」


椅子に座り、書斎で一枚の羊皮紙に書かれた報告書を机に投げ出す。

声からして男性である事は間違いない。


「あれは既に放置されて百年は久しい。問題は“何故この時期”になってだ、な。報告を聴く限り、討伐した盗賊達がという声は無い」


「では黙秘を?」


「それこそ有り得んだろう。報告書によれば橋の構造自体、城下町でも見た事が無い様子でかなり頑丈に出来ていたらしい。他国にしてもこれ程の技術を以て作らせられるような職人は居ない、とさ」


「いずれにせよ、懸念材料である事には間違い無いですね…はぁ」


溜息を吐く人物。

声と体型からして恐らく女性だと思われる。


「兎に角、もう少し情報が入らない事には領主にも判断が仰げない」


「そろそろ外野の貴族が痺れを切らして騒ぎ出し始めています」


「全く、民衆に不安を煽らせてどうすんだ、あのアホ共は」


「アホだからでしょう」


「クソ! 面倒事を増やすしか脳の無い奴等が!」


男性は怒りを露わにして無意識に握った拳でだん、と机を叩いた。


「兎に角もう少し様子見――」


と女性が話に区切りを付け様とした矢先、どたどたと言う音と共に思いっきりドアが開けられた。


「何ですか騒々しい。それに扉を開ける時はあれ程ノックをしなさいと――」


「派遣した『獅子の猛りレオ・ハウンズ』が戻って来ました!」


「何!?」


「本当ですか!?」


慌てて入室してきた女性の口から放たれる朗報。


「は、はい! …ただ」


「ただ?」


「……変な騎士みたいな人と一緒に」


「「――――は?」」


――――


時は遡って僕が街に到着する前。

ロゥ爺の放った台詞に僕を含めた全員が呆然としてしまった。

僕の場合いきなりその話題が出るとは思わなかったし、何より不意を突かれた感じで切り出されたから。

一瞬冷や汗が出て慌ててしまったが、ロゥ爺の「こういう事は先に説明しておかんとお主の場合、森の向こうに存在する街にも入れんじゃろ?」と切り返されてしまい、ぼかす所はぼかしながら、概要だけをざっと軽く摘まんで説明した。

そこからの追加設定として、僅かに残された記憶から空から落ちて来たらしい事と、その際にそれ以外の、それ以前の記憶がどうやら全く無くなってしまったらしいという流れにしておいた。

何故か生活する事に関しては身体が覚えていたらしく、試行錯誤しながら漸くまともに生活が出来るようになって来たという事も一応追記として説明しておいた。


「そっかぁ。やけに人間に明るいと思ってたけど元々人間だったのね」


『うん。でも、この身体じゃ森の外に行こうにも行けなかったから』


「そうだな。確かに精巧過ぎるゴーレムなんざ急に現れたら「何処の国の回し者だ」って難癖を付けられちまう可能性がある。そうでなくても国に目を付けられるのは避けられない」


いずれにせよ懸念事項はそれだけじゃ無い。

特に僕は個人で冒険者として登録したいという望みがある。


(誰かの隷属サーヴァントになるのは、嫌だし)


うーむ、どうしたもんか。


『人化はどうじゃ?』


人化、かぁ。

確かに人外が人と接触する時は大体人化を施す場合がある。

でも、この身体じゃあの三形態にしかなれないから無理――。


(もしかしたら)


思い立ってメニューを開き、習得可能なスキル欄を検索し見付けて取得した。


SPスキルポイント100を消費、『変身機能メタモルフォージスLv――』を取得。スキルリンクが発生、『変形機構トランスフォーメーション』の取得によるSPの超過分の支払いにより還元を行わず、そのまま『変化シェイプシフターLv.――』への統合を施行しました》


アナウンスが脳内に響き渡った。

先に取得していたスキルの事もあって嬉しい事が起きた。

ただ、人化以外には使用しないのでどうしようかと考えているとまたも脳内にアナウンスが。


《一部訂正事項が確認されました。『変化シェイプシフターLv.――』を解体、『変形機構トランスフォーメーション』と『変身メタモルフォーゼ(人化限定)Lv.――』を再取得しました。尚、『変身メタモルフォーゼ(人化限定)Lv.――』を発動させるとその間【飛龍形態ワイバーンフォーム】、【水龍形態リヴァイアサンフォーム】が使用不可となります》


成程成程。

つまり、今までの変形を使用不可にさせる代わりに人化が可能になるって訳か。

無意識の内に笑みを溢していた僕は『変身メタモルフォーゼ(人化限定)』を発動させる。

すると、僕の身体は一瞬閃光に包まれた。


《『変身メタモルフォーゼ(人化限定)Lv.――』の発動を確認、発動中は【飛龍形態ワイバーンフォーム】、【水龍形態リヴァイアサンフォーム】が使用不可となります。代わりに【狩人形態ハンターフォーム】を取得、併せて称号に『狩人ノ魂ハンター・スピリッツ』が追加されました。以降『変形チェンジ』の号令で任意に変形できます》


…うん、どう見ても設定的にTFにしか見えないね。

でも試してみる価値はあるか。


『――『変形チェンジ』!』


ガシャガシャという金属通しが擦れる音と共に、僕の姿は人の姿へと変わっていった。


『ほう?』


当然、ロゥ爺を抜いた五人は唖然とした顔で僕を見ていた。


「…さっきの光と言い、一体何が何をしたんだ!?」


「そうよ! いきなりぴかーって光ったと思ったら騎士みたいな姿に変わっちゃうし」


――――騎士?

一体僕に何が起きているのか解らないので『基礎魔法ベーシック・マジック』で水膜を中空に張って簡易的な鏡にしてその姿を覗いてみた。

そこに映ってたのは普段の、じゃなく、フルプレートの鎧装備に身を包んだ謎の姿だった。

というかモロに某狩りゲーに出てきてもおかしくない様な装備のデザインだった。

ただ何故かは知らないけれど何処か甲冑の一部デザインの意匠が女性っぽい感じがしたのは気のせいだと思いたい。

同時に身体の一部が武器になっているみたいで、それこそ玩具レビューの動画でかなり古い玩具のレビューで見掛けた某狩りゲーをモチーフとした変形玩具みたいだった。

あー、でもTFも身体の一部が武器になってたりするから一概にそうとは限らないか。


『騎士、と言うより狩人ハンター? の姿みたい』


若干疑問形なのはあまり実感が湧かないせいでもある。

――いや、ただ単に僕の理解が追い付いていないのかもしれない。

納得し難い部分がまだ沢山あるけど何はともあれ、これでこの問題はほぼ解決した様なものだ。

――見た目に関しては、だけど。

後は当たって砕けろ、だな。


さて、当初の問題をどうしようか。

確か彼等の目的は『突然現れた橋の調査』だった筈だ。

僕の思うに此処まで表沙汰にならなかったのは多分、単にその時まで発見する事が無かったから。

じゃなかったら今頃僕は討伐対象として、彼等と敵対していたに違いない。

そうなると、ロゥ爺のあの斬り込みは正しかったと思う。

もしロゥ爺が居なかったらと思うとぞっとする、同時に首の皮一枚繋がった今の状況に感謝した。

そしてこの好機を逃せば僕も彼等も容易に動けなくなってしまう。

兎も角言うだけ、話してみるか。


「――――用するに、君はなるべく波風を立てない様に橋を作った訳か」


『そう言う事になります』


だから流れに逆らわずに、舵取りをしながら説明を行う事にした。

まぁあの程度の建築技術ならこの世界でも多分受け入れられるだろう。

とはいえ、些か、いやかなり未熟過ぎる節があるのでいきなり高度な職人の技術を仕込まずに、段階的に技術を教える方で言った方が良いな。

勘違いする人が多いけど決して現代の技術だけが特出して優れている訳じゃない。

昔から培われてきた先人の技術の上に現代の技術は成り立っている。

だから原点であるその技術だけを抽出して教えるのはこの先僕が生きるためには多分必要な事だと思う。

よくラノベとかの転生系や転移系の人達は特に其処等辺に気を使う人が多い。

まぁ、その技術が日本の“食”の方に多く振り分けられているのは御愛嬌、かな?

まぁ中には現代の兵器なんかの技術をほいほいと提供させる奴も居るが…あれは場合による。

特に僕の場合は思いっきりそれに当たる。

相棒のギルを蘇らせるためにあらゆる手を尽くした結果だったから仕方が無いにせよ、あの技術だけは広めたら危険だ。

特に悪意ある人物がそれを嗅ぎ付けたら危険だ。

特に死の商人に繋がる様な奴には充分警戒しておくに越した事は無い。

取敢えず普段は【狩人形態ハンターフォーム】で、人目に付かない場所や有事の際には元の【火龍形態サラマンダーフォーム】といった感じに使い分けていけば当分は何とかやっていけるだろう。

色々と無理矢理感はあるけど、多分これで大丈夫。


この日はひとまず【転移陣ポータル・ゲート】を中継してから【本拠地ホーム・ゲート】へ移動して彼らには一泊して貰った。

移動に関しては長年生きていたと言うだけあってロゥ爺は大きさも変えられるし人の姿にも変えられたので【転移陣ポータル・ゲート】が利用出来たから。

因みにロゥ爺には【試しの門】へ案内した。

此処からならつい先日まで療養していたあの洞窟まで続いてるので人目を気にせずに何時でもあの場所へ行けるだろう。

翌日、留守番をロゥ爺に任せて、僕等は人里の街へ赴いて行った。

それから数日間移動して、漸く辿り着いた。


「漸く着いたわね~」


「ああ」


目の前に広がる光景に思わず息を飲む。

其処に映ったのは巨大な都市と言っても過言じゃない程に発展した、巨大な砦に囲まれた街だった。


「ようこそ、此処が冒険者が集う街にして私達の拠点――――メグレーヌだ」

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