第15話 やっと、出会えた(第一章エピローグ)1
「いやー、ドラゴンが水の中から現れた時は『この世の終わりだー』って一瞬思っちまったぜ」
「そうそう。まさかポーション恵んでくれるとは思いもしなかった」
翌日、目が覚めた僕は眠気を振り払って朝食の用意をした。
なんと、昨日倒した羽蜥蜴の肉を『
昨日の激戦を思い返してもあの戦いを乗り越えた報酬だと思えば助かったと言えるだろう。
というか大人数で魚肉だけじゃ物足りない気がしてたんだよね。
と言う事で一旦ホームに急いでで戻った後、アイテムボックスに放り込んでいた調理器具や食材を取り出して料理を始めた。
彼等から提供して貰った堅い黒パンを粉々に砕いて、
羽蜥蜴肉は一部をブロック状に切ったのを薄くスライス、骨は一部を出汁に使用して(これは大変だったのでスキルで短縮)、山菜と一緒に見付けた茸と、ソルトプランツから取れた塩と
そう言えば此処の泉で食用の穀物の原種を見付けて採取したのでそれを使ったお粥も作った。
『しかし昨日の今日じゃ、あまり無理をするものじゃないぞ』
『若い内ならちょびっとくらいは無茶も利きますし、こうしてる方がずっと楽しいですし』
『む…そう、じゃったな』
確かに今現在の僕の肉体は相棒であるギルだけど、精神はただの人間の少年なんだ。
少しでも人間らしい心を忘れないために、している行動でもある。
『しかし、お前さんがトレントの葉を出して来た時は驚いたわい』
『軽率だったかも。反省中』
『――否。確かにあれは扱いの難しい薬草じゃが、
『そう言って貰えると嬉しいな。あ、ロゥ爺にはこれ』
そう言ってロゥ爺の前に出したのは羽蜥蜴の特大ロースト肉。
しかもミスティ・トレントのチップで燻した、食欲そそる芳しい香り付き。
『おお、済まぬな』
生肉だけじゃなくて、火の通った肉にも興味を持って貰いたかったので特別に腕を振るって作ったのだ。
「それにしても、朝からがっつり食えるとは思わなかった」
「まさに恩人ならぬ恩竜、有り難や有り難や~」
助けた人は男性二人、女性三人の計五人パーティーで、この森へは冒険者ギルド調査依頼を受けてたそうだ。
『調査依頼?』
「そ。いやぁ、ね? 何でも、最近旧街道で跡形も無くなっていた橋が何故か作られてたっていうのサ」
――ギクッ。
「そうそう。でさ、てっきり最近討伐された盗賊が作ったんじゃないかって噂が経ってパーティーランクの高いウチ等に依頼が回って来たって訳」
ありゃま此処でも盗賊か。
まぁでも、あの橋は盗賊が討伐されてた後に僕が作ったから、その推測は間違ってるけどね。
しかし、冒険者ギルドかぁ。
登録してみたいけど、この姿じゃテイムモンスターと勘違いされそう。
というか登録できるかどうかも怪しいっていうのがちょっと悲しい。
「けどあたし等が確認した所、不思議なのは橋の構造でね? 盗賊が作ったにしては不自然に精巧なのよ」
「ああ、確かに。わざわざ馬車が二車両分が余裕で通れる程頑丈そうだってのと、スペースがあるってのは結構珍しいからな」
ありゃりゃ、こっちの世界はそういう常識…というか概念とかって無いのね。
そりゃそうか、僕の居た世界だったらやや中世よりちょい遡るくらいの街道整備の技術で大体が歩行者メインだもん。
「ただもうちょい調べるにしても、この装備じゃねぇ」
落ち込む五人。
羽蜥蜴の戦闘のせいか、防具なんかがかなりボロボロになってる。
革の部分は破れ、鉄はひしゃげたり、武器の刀剣類はまさに悲惨の一言。
というか、彼等の装備の金属加工の技術が駄目駄目なせいで頭が痛くなった。
『そりゃだって、金属加工の技術が貧弱すぎるもん。本来の君達なら装備がしっかりしてればちゃんとあの羽蜥蜴を討伐出来たと思うよ?』
「…マジ?」
『マジ』
「…………」
『…………』
『ふむ? 何やら興味深い話じゃの』
暫しの沈黙、それを破ったのはロゥ爺だった。
と言う事で彼等を自慢の工房へ案内する事に。
『ふむ…今まで気付かなかったが、これは“気付けなかった”と言うべきじゃな』
そりゃそうです、工房自体僕が許可しないと視えないし入れない。
工房を直に向かわせたのは単純にロゥ爺が大き過ぎたためと、自分のホームの場所が嘗ての盗賊のねぐらだったのを知られたくなかったため。
と言う訳で六名様ご案内。
「洞窟にこんな設備…凄い」
『それでも資材不足だからね。金属加工は全く手を付けて無い状態』
とはいっても特殊な木材を使用してるから鍛えていない訳じゃない。
『モノがあんまりないからちょっと退屈だろうけど、我慢してね』
と言う事で此処からは職人の腕の見せ所。
まずは刀剣類を鍛える。
まず炉に木炭を入れて『
鞴で風を送って丁度良い温度になったら、武器の形をした鉄の塊を火床に入れて熱する。
丁度良い温度になった所で『
それからミスティ・トレントの木材で作ったヒートプレス加工済のテコ棒とテコ台に一旦バラバラにした、色の変化別に分けた鉄の破片をそれぞれの台へ乗せていく。
それから盗賊が持っていたと思われる薄くスライスさせた契約書だったものらしき羊皮紙に包ませ、元から所有していた焼刃土(偶然何故か文字化けの難を逃れていたのを最近発見した)で濡らし、木箱の中で見付けた品物を保護する藁で作った藁灰をまぶして再び火床の中に突っ込む。
良い具合になった所で引き出して、金床で鎚で
折り返し鍛える事によって鉄の中に含まれる
両手を尻尾を駆使して鍛えてるために今の僕の姿はシュールな感じになってはいるけど、効率の面でそれが一番良いから止める気にはなれない。
有る程度鍛えた所で今度は|皮鉄を鍛えていく。
――それからその作業も終わって今度はそれを一つに合わせる作業。
今回は余り時眼が無いので“甲伏せ”で成型していく。
有る程度整形された刀身に焼刃土を塗ってから今度は焼き戻す。
『
それから
無論、波紋を美しく見せるために細心の注意を払って。
それからヒートプレス加工で作った柄と鍔をそれぞれ組んで完成。
刀身のサイズは彼等が元々所持していた鞘の形に調整してある。
同時に+αとして防具も修復序でに一部新規造形で作っている。
『手際が良いのぉ』
粗方作業を終えた時に作業場に入って来たのはロゥ爺だった。
その眼の奥には驚愕を含んだ関心と感心。
『お主の真の
『元々、苛めが原因で壊された相棒の身体を作り直すために磨いた技術ですから、そんな大層な物じゃないです』
『じゃとしても鉄を鍛えておる間のお主の瞳は人一倍輝いて見えたの』
――最初から、見られていたのか。
なんだか、ヒヤッとする様な、むず痒いような…。
けどロゥ爺に言われて悪い気はしないな、寧ろ物凄く嬉しい。
『さ、もうすぐ日が昇り切る頃合いじゃ、そろそろ食事の用意をせんと、文句が飛んでくるぞ』
え、もうそんな時間!?
気が付かなかった。
『ありがとロゥ爺。お昼の支度してくる』
『うむ、そうせい』
急いで昼食の準備に掛るために作業台を後にする僕だった。
『――――しかし、職人が何日間掛けて行う作業を半刻掛らずに作りだしてしまうとは、若さとは末恐ろしいのぅ』
「――――で、出来上がった物がこれ」
昼食を済ませた後、メンテナンスされて戻って来た
各々調子を確認してからの反応。
新品同様所か性能アップして帰って来たんだから当たり前かな。
「こりゃ下手な鍛冶師に頼むよりこっちの方がよっぽど性能が良いって言われても正直頷くしかないわ」
盗賊職と思われる女性――オリヴァーさん――は主要部分以外を削ぎ落したプレートメイルとマントという出で立ち。
彼女には本来の獲物であるダガーとおまけに棒手裏剣数十本と腕と脚にそれぞれ着用する革製収納バンドとベルトを新規で贈呈。
因みに五寸釘の様な太い物じゃ無くて、なるべく細くて取り回しの良い、より気付かれ難い物だ。
イメージ的には御老侯様ご一行のお仲間の風車の某忍者あれを思い出して欲しい。
兎も角彼女の様な隠密業にはぴったりの武器だと思う。
『仲間の死を盗む、それが冒険者の盗賊としての役割ならほんとはもっと教えたいんだけどね』
寧ろ、要といっても過言ではない。
「仲間の死を盗む、か。成程、確かにその通りだな」
そう応えたのはメインで
彼には動き易さ重視の仕立て直したプレートメイル一式と新規で作成した
盾が小さいのは両手で剣を振るうのを阻害しないため、その為の
逆に
彼は所謂タンク職と呼ばれているポジションで、ヘイトを一挙に引き受ける役割の為に、被弾しても少々の事ではびくともしない様に新規で作成している。
機動力を多少削いでもヘイトコントロールを担う彼が守りを固めれば、例え集団戦でも、強敵との戦いにおいても無類の力を発揮できてしまう。
魔法職の二人――ニレさんとオロゥストさん――には魔方陣を縫い込んだ服と、ミスティ・トレントで作成した杖を。
二人とも預かった服に魔方陣を縫い込んで、更に動き易い様に調整を施す。
これは固定砲台化を防ぐのと、ヘイトのコントロールの維持のためである。
常に動き回りながら攻撃と回復・補助といった辻行為をする事で戦場を有利に進める事が可能になるし、杖の素材をミスティ・トレントにしてあるので杖術なり棒術なりで近付いて来た敵を叩きのめす事も出来るといった離れ業も可能にできる。
ただ、その事を話したらロゥ爺含めた全員が驚いた顔をした。
「…成程、それは盲点でした」
ニレさんが、感心した様に頷いた。
『複数パーティー連合で敵と戦うならこの戦法は役立ちますけど、一パーティーと言った少数人数で活動するなら寧ろ纏まって行動した方が生存率は高いですよ?
『真っ先に狙われるのは術者か。そうであるならば動き回れば被弾率を下げられると、お主はそう言いたいのじゃな?』
『ええ』
序でに言うのならば、人相手に戦う場合は回復役は抹殺対象ナンバー1だ。
同等で生産者や補給部隊。
というか、此処を叩かれると結構脆い。
裏切り然り、一度戦争イベに巻き込まれて散々な目に遭った経験もあるので術師の強化と生産職の強化は必須だろう。
特にこの世界は生産面が圧倒的に下と見ても良い。
特に金属加工の技術とか、回復薬の技術とか。
それだけでもかなり違ってくる。
彼等五人は冒険者だ、それが解らない人は此処には居ない。
「しかし、良いのかい? これだけの装備を貰ったあたしらが貴方を倒すって事も有り得た訳だけど」
やっぱりと言うか、オリヴァーさんが切り込んで来た。
『成り行き上って言えば良いのかな? 後は勘』
「勘、ね」
『――こういっちゃなんだけど、悪意には少し過敏になっててね。だからこそ、さ』
「そう、そりゃ悪い事聞いちゃったね」
『いえ、人付き合いにおいての通過儀礼みたいなものですから、あんまり気にしないでください』
「まぁ…確かに」
『皆冒険者ですからね。まず信用第一と憶えないと痛い目に遭います』
冒険者に限らず、大体は信用されてこそ。
信用されないと物事は円満に進まないと理解しているから。
『そうじゃの。儂は兎も角、お主は肉体はゴーレムに有れど、人の心を宿しておる。最も人付き合いが大事じゃと身に沁みておるお主が言うのであれば間違いないの』
『――――え?』
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