第9話 どらごんてきさばいばる(何か違う気が)8

昔食べた松茸より美味しい茸の誘惑に負けて食べ尽くしてしまったお陰で絶賛後悔中。

夕食分と朝食分が一気に無くなってしまった。

…そうだ、これは悪者退治なんだ。

そんでもって、滅茶苦茶旨――ゲフンゲフン…美味しいのがいけないんだ!


「……」


うう、仕方ない。

ここは早めの夕食と言う事にしといて、工房作業にしよう。


転移陣ポータル・ゲート】で工房へ足を運んだ僕は泉のタンクを置いた。

ふう、と一息吐いて地面に座ると、アイテムボックスから刈ったミスティ・トレントをスキルで切り出し、木材へ加工、それからヒートブレス加工からのレンガ状にブロック加工。

更に『生活魔法ライフ・マジック』で火を加える。

火加減を間違うと一瞬で消し炭にるので慎重に。

でもまぁ、流石『EX』レベル。

一、ニ個ダメにした程度で後は全部上手くいった。

一部は槌と金床用に別枠にしておく。

さて此処からが本番。

今回作るのは炉と、そして火床ほどと呼ばれるものだ。

相棒ギルのボティ作製のために鍛冶を齧っている僕としてはこれが無ければ全てが上手く回らない。

此処まで加工出来た耐熱木ブロックを炉の形に積み上げていく。

積み上げる、と言っても此処には竃作製に必要な粘土等が無い。

其処で今回採る手法は、木組み。

一旦積み上げてから崩し、木組み用に一部を切り出す。

ミクロン単位でずれると厄介なので気を抜かず慎重にまっ平らに砥石を使って砥いでいく。

その工程の合間に、槌作り。

あ、そうそう。

一応言っておくけどこの場合僕は“鎚”じゃなくて“槌”と表現する。

理由?

そりゃまぁ、“木”から作るからね。

兎も角、木組程度なら槌でやった方が感触としては一番良い。

槌が完成したらいよいよブロックを炉の形に積み上げて行く。

積み重ねたら、カツンカツンと槌でもって嵌めて行く。

木独特の澄んだ音を奏でながら完成された形が、自分の手でゆっくり出来上がってゆくのは見ていて気持ち良い。

作る者の特権、ってやつかな。

さて、炉が組み上がって火床も完成したので今度は金床。

これも同じ様に木組み加工して出来上がり。

トレント製耐熱木ブロックが微妙に余ってしまったので残りは木炭に回していよいよ鍛冶――と思ったけど夜遅いので【本拠地ホーム・ゲート】に戻って寝た。


翌日、工房へ跳んだ僕はすっかり作るのを忘れていた手押し鞴を作って火床に取り付けた。

因みに手押し鞴は狸の毛皮が良かったんだけど、在庫が無いので熊の毛皮を使用した。

 取敢えず、此処まで出来たので火床に木炭を入れ『生活魔法ライフ・マジック』で着火、炭が燃えて一定の温度になった所で鞴で空気を送り中の温度を調節する。

 火挟ひばさみで拠点で拾ったぼろい剣みたいな何かを掴んで炉に入れる。

 火加減を見て、丁度良い時を見計らって出して急拵えの特製木槌で叩く。

 ひたすら叩く。

 折り返し、叩く。

 こうする事で鉄に含まれる不純物を少しでも追い出しておく。

 

 うーん…にしてもさ、拾った剣見て思ったんだけど、この世界で一般的に出回ってる鉄製の剣ってただ高火力で精錬した鉄鉱石から剣の形に調整されてるみたいなのかな?

手に取って刃こぼれとか、切断面とか確認して始めて解ったんだけど…これじゃあ返り討ちにされてもおかしく無いね、だって不純物が多くて脆いし。

おまけに所有者は手入れも怠ってたのか錆が多かったし、言っちゃ悪いけどさ…作ってる奴にしろ使ってる奴にしろアンタら腕悪過ぎだろ、ど畜生め!

使用者はもうお亡くなりになってるから置いとくとしてこれ作った奴、僕の前に出て来い。

何この粗悪品、リベレーターバラ撒いてるつもり!?

ふざけてんのかこのコンチキが!


……けふんけふん。

なまじ腕に覚えがあるせいで荒ぶっちゃったけど、腕の良い職人なら数打ちでももうちょっと良い物を作る。

僕に鍛冶のいろはを教えてくれた親方は『信頼できる武器防具が作れない奴は人殺しと同じだ』と教えてくれた。


鉄のお粗末さに頭を痛めながらもひたすら鍛え続けて、“あたま”と呼ばれる部分を二つ作る。

何故二つなのか。

本来は鉄を鍛える時は師と弟子が相槌を打ちながら鍛えるからだ。

最近は機械で叩く職人が多くなったが、古くはそうやって鉄は鋼へと段々と鍛えられていくのだ。

じゃあ意味無いじゃん、と言うツッコミは無しで。

と言うか今回物が物だけに製錬炉は作らなかった。

溶かしてインゴット作製までやらなきゃならないなんて、はっきり言って面倒。

だから今ある物で直接鍛え上げていく方法の方が手っ取り早い。


(よし、と)


形が出来上がったので、タンクから水を出して『生活魔法ライフ・マジック』で水を操作して中空で球を作る。

其処に熱々の鍛えた鉄を入れる。

じゅうと冷やされた頭にアイテムボックスに入っていた焼刃土を縫って焼き入れ。

それが終わったら軽く形を整えて焼きなます。

柄を作って頭に開いている穴に通して…鎚の完成。

師が持つ短柄の金鎚、弟子が持つ長柄の金鎚。

二振りの槌は洞窟から入る光に照らされて淡く、鈍く輝いて見えた。

…完成したのに…ほんとにどうしようか。

いっその事尻尾、使うって手も有るし。

仕方ないか、ぼっちだもん。

諦めて僕は数日前に作った木刀の刀身を柄から予め取り外しておく。

もうお昼だからそれくらいにしとかないと、これ以上作業効率が悪くなっちゃうのは御免被る。


兎も角、ポーション用に採取した輪廻草ララクラフトの一部を湯がいて食べた後再び鍛冶の準備をする。

火挟ひばさみを使って燃える木炭によって赤く輝く炉の中に刀身を入れる。

それから頃合いを見計らって鎚を打っていく。

普通なら消し炭になってもおかしくは無いが、今の熱せられた刀身は元の木材とは思えない程鉄の様に鈍い輝きを放っていた。

今回はこれから本格的に自分の相棒となる武器に仕上げるので実験的な意味も込めて魔力を以て鎚を振う事にした。

――打つ。

チィーン。

――打つ。

チィーン。

凡そそれが木だと誰もが思ってもみないだろう、鉄の澄んだ音がまるで風鈴の様に工房内一杯に響き渡って行く。

間違い無い――――材質が完全にしている!

これ、どうみても木材じゃないよね。

思いっきり鋼じゃん!

心当たりは…あ、ちょっとあるかも。

心の中で盛大なツッコミをしながらも作業を止まらせずにひたすら打ち続ける。

そして水へ投入。

それから形を整えて焼きなまし。

最後に刀身を砥いで。柄に繋げて…鞘に納めてってうわぁ!?

ぱちんと鞘に収まった途端強く光り出し、それが収まった時には木刀が別物に変わっていた。


○サイバーカタナ・トレントカノン(シェーシャ専用)

レア度:ERROR

品質:ERROR

耐久値:ERROR

製作者:シェーシャ

『概念干渉(超)』

自動修復オート・リペアメント(超)』

全耐性オールアンチボディ(超)』

世界接続核鍵ワールドコネクト・マスターキー【セレブレム】【???】』

・五色の賢者の弟子である『無色の創作者』が鍛えた木刀を、鍛え直し更なる力を得た刀。

鍛え直された際、材質が未知の金属であるユグドラジリニウムへと変質してしまっており最早木刀と呼べる代物では無くなってしまった。

接続された世界の記憶から、属性エレメントの魔力を引き出し、刀身に纏わせたり飛ばしたりする事が可能。

納刀時、鞘は銃の砲となる。


どうしてこうなった。

…とんでもない物に変わってしまったぞ。というか何この壊れ性能。

 何と言うか、普通に考えれば有り得ない。

 と言うか軽く異常事態なんだけど…どうしてこうなった(二度目)!?

 ――もう考えるのは止そう…うん、そうしよう。

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