第2話 どらごんてきさばいばる(何か違う気が)1

暮れ時の森って言うのは初めてだな。

ゲーム時代でちょろっと経験した事有るけど、それっきり、ね…?


『クル…ル』


記憶、身体、スキル以外、全部手探りでやっていかなければならない。

けど寧ろ、その三点が揃ってる時点でなんとか自給自足で賄っていけると解った。


(う~ん、肉体の構成的にTF的な存在だからか、意外と身体の動きは鋭敏且つ軽いな。何て言うか、不思議な感じ? ま、違和感が無いだけマシかな)


(あれ、あんな所に木の実?)


既に暗くなってたので解り辛かったけど、凡そ五〇〇メートル向こうの木に胡桃大程の赤い木の実を見付けた。

近付いて何個か、もいでみる。

なっているのがかなり高かったから取るのに苦労したけど『鑑定ジャッヂメント』の結果、『カメロ』という椿に似た植物の実だった。

金属とかの保存、手入れや料理とかに利用できるみたいだけど、こう言うのって現地の人って知ってたりするのかなぁ……まだ、会った事無いけど。

そんな事より椿油、もといカメロオイルが手に入った。

おっと鑑定、鑑定っと。


○カメロの実

・温暖な地域に生息する常緑樹のひとつカメロの果実。

そこから取れる油は食用の他、整髪料、燃料油、保存油に使用される。

現在、まだその事実を知っている者は誰ひとりとしていない。


どうやらいらっしゃらないみたいでしたね。

後は搾るための布と器か…。

器は何とか調達できる、問題は布。

こう言った場合は時により植物性の布の方が良い。

いや、蜘蛛や芋虫の繭から採取した動物性の布シルクが悪いと言う訳じゃない。

水分の通りが良いか悪いか、それを考えると植物性の布に軍配が上がる。

現実世界でも、夏には木綿コットン製のシャツなんかが好まれる。

通気性が良いからだ。

同時に水の通し具合が良いから、搾りには適していると言って良い。

出来れば木綿が一番良いんだけど、期待できそうも無い。

服とかあったら利用できたんだろうけど、そうもいかない。

手探りでやるしかない。

ほんと、今まで肝心な所で蹴っ躓いてばかりの道のりだったなぁ…これからも続いて行きそうな予感だけど。


ねぐらはあっさりと見つかった。

生活感の痕跡は有った。

有ったんだけど…おえっぷ。

何処ぞの盗賊が討伐されたばかりみたいなのか、血の匂いが新しい。

うへぇ…そう考えると血痕も比較的新しいと思えてくる。

スプラッターで事件脳とか、ミステリードラマの見過ぎだ。

…兎に角片付けよう、そうしよう。


『クル、ォン』


まず散らかったものを整理する、んで酒の匂いと血の匂い、まずは其処から。

生活魔法ライフ・マジック』で散らかった物を風で巻き上げる。

この時、大きいものは巻き上げない様に注意。

巻き上げたゴミを広がらない様に水と土で固めて、出入り口に送って、脇に積む。

次に水を掛けて巻き上がらなかった汚れと匂いを洗い流す。

風で既に敷いてあった獣皮の簡易カーペットを風で持ち上げながら、熱で以て温めた高圧水流と、風で丹念に洗い落していく。

自然にできたと思われる洞窟らしく、各エリアは入り組んでいて、どうやら奥が有りそうだったけど今は雨風を凌げる拠点の手入れを優先的に行うために断念した。


行ける範囲のフロアは意外と少ない、なので直ぐに終わった。

討伐して時間が経ってないらしく、生活に必要な薪等の備蓄がそのままの状態で在るから助かったと言えば助かった、のかな?

とは言え有限だから今後追加していく予定でもある。

武器も所々散乱してるけど、状態はまぁまぁ良い方なのかな?

保管庫は人一人が横歩きで行ける程しかない狭い通路に有ったお陰で売ればそれなりのお金になるけど…今の状態じゃ人里に下りてもまともに相手してくれるどころか討伐されそうな勢いなのでこのままにしておく。

と言うか、通れない。

小さくなってやっと…っていった感じ。

はっきり言おう、僕は小さくならない。

逆に大きくもならない。

現状、通り抜けるのは無理。

だからと言って、自然に形作られたものを壊したく無いので拡張は無し、このまま放っぽる事にする。

気を取り直して食料庫を見てみたけど、此処は嬉しい事に綺麗なままだった。

此処を強襲した人達は兎に角始末する事だけを優先していたに違いない。


『クルオン!』


鉄鍋、良し!

布、良し!

しめしめ、思いがけず拠点が手に入ったぞ。

ともあれ、これで心置きなく作業が続けられる。

布は、血糊の付いた服の切れ端が落ちていたから洗って乾燥させて置いた。

他の人が見たら生理的に受け付けなさそうだけど、折角のチャンスなのでこれを利用しない手は無い。

恐らく熊と思われる獣の絨毯の上に座ると、椿に似たカメロの実をスキルで乾燥状態にして種を取り出す。

次に殻ごと砕く。

粉状になるまで兎に角、砕く。

砕いたら石と落ちてた剣からスキルで作った針金で嵩上げして鍋に。

んで、蒸す。

蒸したら布で包んでからその端を刃の無い二振りの剣の柄に括り付けてゆっくり、だんだんと力を加えながら搾っていく。

そうして出来た油を嘗て無造作に散らかっていた、恐らくは回復藥ポーションを入れておくための瓶に溜めて行く。

これも状態の良いのを選び、『生活魔法ライフ・マジック』で清潔にした。

ただ、瓶の大半が踏み潰されて粉々に砕けてたのが多かったので大丈夫な物を探し出すのに苦労した。


(さて、これで準備が整った)


まず、各パーツに、同時並行して狼の尻尾の毛から作成した刷毛型の筆(何本か作ったためか全部禿げたが)に油を塗布する。

なるべく薄く、薄く。

細かい所は細い筆先で、軽くなぞる様に塗布する。

付け終わったら、スキルでゆっくり乾燥、同時に綺麗に拭いてムラを無くす。

それを何度か繰り返し、組み立てる。

おっと、その前にいい加減研いでおこう。

砥石は拾っておいたそれっぽい石粗・中・細の三種を選んで、生活魔法で生み出した水をちょいちょいと掛けながらしゃりしゃりと研ぐ。

よし、この勢いのまま銘を切っておこう。

これも研ぎと同じでスキルで行う事が出来ないので慎重に自作の銘切り鏨に鎚を当てて、かつ、かつ、と切ってゆく。

シェーシャ、という文字を大地を支える蛇竜を模した形に切ってゆく。

よし、出来た。

後は、組み立てて…出来た!


○百年魔樹の木真刀

レア度:???

品質:S

劣化度:0%

耐久値:100%

付加能力:『火耐性(弱)』

製作者:シェーシャ

備考:百年魔樹ミスティ・トレントを使用し、異界の技術で作成された木刀。

材質が変化し、超高熱の温度でも或る程度燃えにくくなった。

通常の木刀とは異なり、切れ味が存在している。


なんてものを作ってしまったんだ。

反則近いが、無効化じゃないだけ、まだマシと思える結果だ。

付加エンチャント能力があくまで止まりなのは、おそらく“鍛錬”していないからだろうと予測。


(それにしても完成した途端、眠くなってきたなぁ…明日、は…どう、しよ、う……)


其処で僕の意識が真っ暗になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る