目覚め

第1話 此処は何処で、

(さて、どうしたものか)


目覚めて早々、僕は何故か巨大な緑の木々が鬱蒼と生い茂った森の中に居た。

確かにさっきまでVRMMORPGのβ版の世界に居た筈。

それが何でか森の中とは。

――――解せぬ。

思い返してみたけど、何故そうなってしまっているのか不明なままだ。

あれこれ考えても仕方無いか。

今の状況を確認してみよう。


恐々と自分の手を、手をそっと見てみた。

人間の手では無い、明らかに異形のもの。

但し、何処か見慣れた気分に懐かしみを覚える。

まさかとは思いながらも、足下を確認してみる。

黒錆マグネタイトでコーティングされた太い脚に鋭利な爪。

同時に何処か機械めいていた。


(機械…!?)


絶句。

それしか表現しようがない。

というか、先程見た僕の手の形も本物以上にリアルで、サイバーチックな構造だったからだ。


『コアァァァァ…ン』


喋ろうとして放った第一声も、機械染みて何処かくぐもった電子音にしか聞こえない。


(うそ、だよね…?)


ボディのメカメカしい金属っぽさ、鱗や関節の継ぎ目、此処から導き出されるのは只一つ。


(僕が…ギルガメッシュになっちゃった!?)


『キュルオン!?』


吃驚してまた声を出しちゃった。

うう、うそ~ん。

ショックのあまり、手と膝を付いて、いわゆるorz状態になってしまった。


――――閑話休題。


気を取り直して状況を再び確認してみる。

β版のサービス終了、気が付いたら森の中、しかも人外…って事は多分転移系って事で良いのかな?

この身体はゲームから引き継いだ訳なんだと仮定して、先ずは検証。


(システムメニューの表記オープン


▽ステータス

▽装備

▽アイテムボックス

▽フレンドID

▽ヘルプ


良かった!

幾らか削られていたけれども、ウインドウには必要な項目が表記されていた。

兎に角、ステータスの項目を選択して開いた。


名前:シェーシャ/ギルガメッシュ

性別:雄

種族:機獣生命体イノセントビースト

職業:――

称号:『異世界者』『転移者』『境界超越』『機械生命体』『???の神々の祝福』

能力:『能力継承の儀』


種族に関してはそれにのゴーレムから一気にTFみたいなものに進化したって感じと考えてよさそう。

デメリットはポーションを含めた『回復術』の効果を一切受け付ける事ができないって事。

作った当初は貧弱なエンチャントで、よく壊れては修復を繰り返してた。

最終的に『作成術クラフティング』『錬金術アルケミー』『合成術シンディシス』『細工ワーカー』『調金チェイジング』『付加術エンチャント』『作製拡張術クラフティング・エクステンド』のスキルを掛け合わせて漸くまともになった程。

習得とレベリングがきつい上に此処まであり付けた時にはβのサービス終了間近だったのは良い思い出だ。

強いに越した事は無い。

ただ、目覚めて早々右も左も解らない状態だからうっかり討伐対象にされたら一貫の終わりって事もありえる。

うー、ぶるぶる…考えただけで鳥肌が立ってきた…………様な気分になった。

いや、と言うよりそもそも機械に鳥肌なんて無いし、人工皮膚とか全面的に作っても意味無いし。

それよりも気になったのがあった。

ええっと、『能力継承の儀』?

解らないのでヘルプ機能で調べてみた。


『能力継承の儀』

???の神々の祝福によって添付された能力。

今までに培われ、同時に失われた能力を解放及び以降のスキル開花・称号の贈与が行われる様になる。

(※この能力を解放すると称号『???の神々の祝福』諸共消滅します)


???の部分は解らなかったけど、今僕に必要な物だと解った。

迷う事無く、解放した。

すると『能力継承の儀』と『???の神々の祝福』が消えて新しく表記が追加された。


名前:シェーシャ/ギルガメッシュ

性別:雄型

種族:機獣生命体イノセントビースト

職業:初心者ノービス(NEW)

称号:『異世界者』『転移者』『境界超越』『機械生命体』

能力:『変形機構トランスフォーメーションLv.――』『能力最適化スキル・オプティミゼーションLv.――』(NEW)『操機闘術ドッグファイト・アーツLv.5』『龍闘法ドラゴニック・アーツLv.6』『究極作製術アルッティメット・クラフティングLv.EX』『鑑定ジャッヂLv.EX』『看破ファーゾムLv.EX』『生活魔法ライフ・マジックLv.EX』『自動修復オートリペアメントLv.EX』


うん、普通に強い。

と言うか何でも出来る。

状況の確認終了、んで、幸先が怪しくなってきた所でひとつ、物を作ってみようかと思う。

作るのは…今は木刀で良いかな?

取り敢えず其処等辺に生えている木を鑑定してみた。


○ミスティ・トレント

魔物の一種、樹齢百年以上生きたトレントが進化した魔物。

硬い上に良くしなるため、主に修験者の錫杖や槍の柄に使用される。


魔物でした。

基本的にエンシェント級だったらほんとに冷や汗ものだったけど、見た所中級冒険者が頑張れば刈れる程度の強さしか無いって事が解った。

基本的に動けないのか、近付いて試しに引っ掻いたら根で突き刺そうと襲ってきた。

だけども攻撃が貧弱なのか、それとも僕の装甲が堅過ぎるのか、弾いてしまう。

…大丈夫かな?

爪で枝をすっぱすっぱと斬…る訳無いじゃないか。

狙うは根。

再生される前に、全て断つ。


(【アームセイバー】!)


右の腕部――――籠手に辺る部分が僅かに浮いてぶぉん、という鈍い音を立てながら魔力で出来たエナジーブレイドが出現する。

それに危機を感じたのか、ミストレが一斉に枝と根を束ねて襲いかかって来た。

一転集中で僕を貫く算段だろう――――が、残念!

そうは問屋が卸さない!


『キュル…ォオン!』


紙一重で避け、駆け込む。

あっという間に懐に飛び込まれて驚愕の色を見せるミストレ。

比喩表現じゃ無くて、実際さっきまで乾燥してたのに、結露したかのように湿った居たからだ。

きっと避けられてもすぐに対処できると思ってたんだろうな。

木の癖に。

けど残念、僕はその中に含まれていない。

軽く蹴り付けると、メキメキと音を立てながら根ひとつでなんとか踏ん張る。

勿論それを見逃してあげる程優しくなんて無く、すかさず断ち切った。


「――――!?」


一撃で供給源を失ったミストレがバランスを崩し他の木々を薙ぎ倒しながら倒れた。

倒れても油断はできない。

すぐさま他の根と枝もすっぱり斬る。

しかも焼き切れているから切り口からの再生ができない。

別の場所から新たに出そうとも、保有している魔力の大半を失ってしまう可能性が有るからそれも出来ない。

植物系は保有している魔力を失うと枯れる声質が有るから根と枝を斬っておけば攻撃が出来なくなる。

ミストレが倒れた場所で『究極作製術』を使用。

保有している水分を抽出して、ドライに掛ける。

完全な乾燥状態になるまでもうちょっと掛るので先にアイテムボックスを確認しようと思う。


▽『kfsjv;kds』

▽『:lmん0@くぁs』


(うわぁ…見事に全部文字化けしてる)


予想を裏切って全部文字化けしていた。

仕方ない、全部捨てるか。

とまぁ、そんなこんなでアイテムボックスがすっきりした所で木が丁度いい感じに乾燥してきた。

乾燥状態になった所で皮を剥いで、全体的に熱を加えながらゆっくりと、慎重にプレスしていく。

道具が無いけど、スキルが有るので均一にゆっくりと、圧力を掛けて行く。

こうすれば普通に削り出して作るよりも頑丈になる。

圧縮加工が終わると、木材と言われてもおかしくない程ほっそりとした長い棒になっていた。

此処から更に加工する。

今回作るのは木刀型なので、それに準じた形にゆっくり変えていく。

木材は兎に角柔らかい癖に、どんな素材よりも扱いが難しい。

僕の体格から考えれば太刀より打刀程度の方が良いかもしれない。

まるで生地の形を整える様に曲げてゆく。

慎重に、慎重に。


――――ばきゃ。


(あっ)


罅割れた、と思ったらぴしぴしぱきぱきという卵の殻が割れる様な音と共になんだか皮を破る様に黒光りする一振りの刃が現れた。

…どうなってるんだろーね(棒読み)。

まぁ良いや、刃の部分は研ぎが済めば完成と言う事にしよう。

次は柄、鞘、はばき、目釘の作製。

丁度斬り落とした枝が有るからそれを利用しない手は無い。

今回作るのは保存用の、鍔の無い白木の柄と鞘のもの。

刃と同じ様にスキルで熱を加えながら圧縮、鞘に関しては同時に刃に添う様に曲げてゆく。

はばきと鯉口は曲げるのが難しくて数個壊してしまったけど、なんとか完成。

目釘も作っていく。

各パーツが揃った所で、使用した後の手入れ――――即ち保存用の油、なんてのが欲しくなってくる。

後、作ってる時は解らなかったけど、もうそろそろ日が暮れる。

洞窟とか、探そう…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る