私は、どうしたい?



「…俺たち反政府組織は今機会を待ってる状態だ。下手に動けば捕まる可能性だってある。だから普段はみんな、普通の奴を装ってる。たまに集まって計画を練ってるんだ」




猫田さんは深いため息を吐きだして続ける。




「だけどばあちゃんの余命がもうあとわずか。…ああ、言ってなかったね。そう、ばあちゃん…有栖川希望さん。君の子孫にあたる人だ。この世界を変えられるのは有栖川の血が流れてる者だけ。ばあちゃんに家族はいないし、今ばあちゃんが死ねば途絶えてしまうんだ。そんなことになったら取り返しがつかないことになる」




だから私にしか頼めないのか、と理解した。自分の子孫がまさか反政府組織の仲間だとは思いもしなかった。それにしても、どうして有栖川の血でなくてはいけないんだろう。


私がこんなよくわからない場所に連れてこられてしまった理由は、簡単に言えば世界を救える有栖川の血が途絶えてしまいそうだからだ。しかしそんな大そうな血筋ではないはず。もしそうなのだとしたら、こんなどこにでもいるような普通の人間にはならない。


考えれば考えるほどわからなくなる。今はとにかく猫田さんに話を最後まで聞くことに集中した方がいいだろう。




「そこでばあちゃんと相談して、先祖の君を連れてきた。勝手なことをして申し訳ないと思ってる。だけどもう、頼れるのは君しかいないんだよ」




猫田さんの、語尾が震えた。真っ直ぐ私を見つめる視線に、一気に重くのしかかるプレッシャーに、自分はどうすることが正しいのかわからなくなってしまった。


世界を救うだなんて、そんな簡単にいくわけがない。ましてや私なんか、ただの普通の人間なんかに。




「ごめん、こちらの事情ばかり押し付けてるのもわかってる。君に直接関係がないのもわかってる…でもごめん、無理にとは言わないからって心から言ってあげられない。…君が必要なんだよ」





私なんかあなたたちに関係ないじゃん、と突き放せたらどれだけ楽だろう。話を最後まで聞いてしまった分、断ることに対しての罪悪感が大きい。だからと言って、生半可な気持ちで引き受けていいような話じゃない。


この世界を変えられるのは有栖川の血だけ。どうしてそんな風に言われているんだろう。猫田さんはたくさん教えてくれたけど、正直わからないことの方が多い。今整理に必死で、展開して考えることなんて出来ない。




「……あの、しばらく時間もらえないかな。荷が重すぎて…すぐには決断できないから」




まとまらない考えに息苦しさを覚える。猫田さんは大丈夫だよ、と笑ってくれたけど、本当に答えは出るの?わからない。わからないことだらけで、余計にわからなくなる。


私のするべきことってなんだろう。私の意思ってなんだろう。


この人たちはきっと本気で、この世界を変えようとしている。そこに普通の女子高生が突然混ざって大丈夫なのか。中途半端な気持ちで投げ出したりなんか、絶対にできない。


私は、彼らの求める希望の光なんかじゃない。私は"アリス"じゃない。この世界のヒーローになれるような器もない。


正直、役に立たないとしか思えない。しかもいまいち何をするのかはわからなかったし。


猫田さんの救いを求めるような、申し訳なさそうに期待を送るような、そんな眼差しが痛くて仕方ない。



私はいったい、どうしたいの?




「時間をかけてくれて構わない。ここにどれだけ留まっていようと、必ず君は始業式の日の正午に戻してあげるから」




俺は少し外の空気を吸ってくるね、と猫田さんは席を立った。気を遣ってくれたのだと思う。


猫田さんが店から出た後、感情が高まったのか涙がこぼれ落ちてきた。プレッシャーも期待も罪悪感も、何もかもが今の私を追い詰めていく。


助けたい。助けてあげたい。

(…本当に役に立つの?)

話聞いてああはいそうですかなんて出来ない。

(…私にはなんの取り柄もないのに)

私が頑張れば、本当に世界を変えてあげられるのかもしれない。

(…自分は関係ないじゃん)


交錯していく感情に、止まらない涙。


こうやってすぐに決断を下せないのは、自分にしろ未来の世界にしろ、本当に守りたいものがない証拠だ。


テーブルに落ちた涙は、照明の光を反射してキラキラと輝いている。こんな風に、輝く光になれたらいいのに。


そうしたら、普通の私から少しだけ変われる気がするのに。



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Be my hope 小梅かん @koumeee_02

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