奴らは不完全なロボットと同じだ



猫田さんは重い口を開いて、この世界の歪みを教えてくれた。




今から45年ほど昔、科学の進化に伴いコンピュータ…ロボットにできないことは完全になくなった。だからロボットに仕事を奪われた人間がとても増えたんだ。人を雇うより、人型ロボットを買った方が安く済むし仕事も確実ってね。


だから人々は政府に対してデモを行ったんだ。ロボットに奪われた俺たちの仕事を返せ!って。


そんなこと言っても、ロボットがなんでもやってくれるわけだから不自由ない暮らしはできる。でもお金がなきゃ生きていけないのは昔…君の時代と変わらない。


最初、デモは20人にも満たない人だけで行われてた。でも次第に、その数はどんどん増えていって…これは日本だけの問題じゃない。諸外国でも問題になっていることだった。


でも今更、ロボットを使うことを廃止なんて出来ない。そこで過度にロボットを使わず人を雇うと政府は緩和策を実施したけど、全くうまくいかなかった。


そうしてどんどん支持率を下げていった政府は解散した。


新しい政治家がどんどん出てきた。もちろん、ロボット廃止を掲げる政治家だ。それで次の政府は、本当にロボットを廃止した。あくまで人の仕事を奪うロボットね。


だけどそのせいで、色んなサービスの質がガタ落ちしたんだ。面白いことに、今度はロボットを復活させろなんて言い出す国民が増えた。都合がいいよね。でも仕方なかった。結局その時の政府は解散せざるをえなくなったんだけど、今度はロボット賛成派と反対派で見事に分裂した。


どちらもまったく譲る姿勢を見せなくて、しばらくはその両方が交互に政治をしていたんだ。


しかしついに決着がついた。第3の勢力が現れたんだ。


それが今の総理大臣、赤城心。彼女はそのとき、別に政治家ではなかった。なんだろう、思想家とかの方が近いかもしれない。でも彼女の考えに、国民が賛同してしまったんだ。そうしてあれよあれよと日本のトップになってしまった。


彼女の考えはこう。人々を適材適所に当てればいい、というものだ。詳しく言うと、自分ってどんな職業に向いてるんだろう、どうせ仕事するなら自分に向いてることをして頑張りたいなとか思ったことない?まさにそれなんだ。


さっきも言ったように、科学技術は最高レベル。だから作られてしまったんだ、人の能力とか元々持っている才能とかを測定して、今後の伸び率とか柔軟性とかそういうのを計算に入れて、その人に合う人生を与える装置を。


まさに適材適所。これは生まれたその日に計算されて、そして完全な道を用意してくれるんだ。


人生何が起こるかわからない、何が向いてるのかわからない。それを試行錯誤しながら大人になって結局夢も仕事も消えるよりは、最初から1番適したことをやらせる方が効率もいいし将来絶望することもない。それに将来必要がないから、向いてないことはやらなくていい。


失敗しない人生。挫折のない毎日。子供が絶望するなんて、見たくない親たちはもちろん支持した。


ああロボット?それはどうやら人手の足りないところへ送られるよう決められたんだ。適材適所だから人だって使い物になる。ただしロボットは、人間の能力よりも高い数値にならないよう設定された。最初からそうしろよって話だよね。


まあそれは置いといて。最初は親が主な支持層だったけど、彼女の考えはどんどん広まって、そうしてトップになった。本当にその装置も使われた。ちなみにその装置は諸外国でも反響を呼んだらしい。人々は本気で信じたんだ。これでまた平和な毎日が訪れるってね。



その装置が使われるようになったのは今から25年前のこと。ちなみに当時4歳未満の子供はその装置によって人生を決められていた。


それより年齢が上の人たちにはその装置は使われなかった。まあ申請すればできたみたいだけど、子供はともかく、大人なんかは意味ないけど。でもロボットの性能基準が下がったおかげで、再び大人にもちゃんと仕事が与えられるようになってきたんだ。


すべてはうまく行くはずだった。でも、どんなに技術が発展して、自分にもっとも合う人生を与えられたからってすべての人間が幸せになったわけじゃない。


その装置によってやることすべて決められて、与えられたもののみをこなす子供たちに、自分の意思は消えていった。感情がないというのかな。わからなくなってしまったらしい。それを心配した親は病院なりなんなり連れて行った。意味ないけど。


そして数年前、ある事件が起きた。未だにロボットのせいで職を奪われ絶望しかなくなっていた人たちが、自爆した。


人々の人生のデータが管理されている場所は各都道府県一つずつあって、それは極秘でその場所はほんの一部の人間しか知らないんだけど、幸か不幸か、彼らはそれのすぐ近くで自爆したんだ。もちろんそのせいでデータ管理所がやられたわけじゃない。ほとんど無傷だ。ほとんど。


つまりほんの少しだけ、不具合が現れたんだ。ほんの数時間の間だけですぐに普及したから大事件ってわけじゃないけど、不具合のせいで数人の子供に与えられる指令が届かなかった。


ああ、言ってなかったね。人生を決められた人間にはそのデータ管理所から毎日指令が届くんだ。これをしろとかあれをしろとか。それをこなしていくことが、彼らのやるべきことで正しい人生の歩み方。


だけどその指令が届かなかったせいで、何をしたらいいのかわからなくなり、パニックを起こしたんだ。今まで与えられたものを言われるがままやってきて、自分の意思などなかったわけだから、何をしたらいいのかわからず一気に不安になった。人によっては3日くらい寝込んだらしいね。


まあそんなことが起きたせいで、政府には改善策が求められた。もう二度とこのようなことが起きないよう、今まで以上にデータの管理は厳しくなってそれ以来同じことは起きていない。


でもその事件のせいで、主な支持層だった子供の親に不信感が芽生えた。このせいで、自分の子供は間違わない未来を手に入れたけど、それと同時に意思をなくした。ロボットとなんの変わりもない。本当にこの計画は正しいのか?子供のためを思ってしたことだけど、本当に子供のためになっているのか?とね。


そして6年前、ついに人生を決められて大人になった人たちが社会人になった。もちろん、使い物にならない人なんていなかった。だからその事件によって不信感を得た人も、デモを起こしたり抗議したりしなかった。ある意味政府の事業は成功したと言っていい。


だけど決して不信感を持った人がいなくなったわけじゃない。その人たちが集まってできたのが俺たち反政府組織だからね。


俺みたいにそういう世代の奴がなんで反政府組織にいるのかというと、俺たちはみんな無戸籍だからだ。無戸籍の奴には人生なんて与えてもらえないからね。


だけど俺は、決まり切った人生を与えられて受動的にしか生きていけなくなった同世代の奴らを見てると、自分はなんて幸せなんだろうって思う。俺には意思がある。未来を選択する権利がある。確かに失敗や挫折は嫌だけど、それを拒んで何になるんだ。楽しくないだろ。失敗しても好きなことやって生きてる方が、断然いいに決まってる。






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