2ー1 誕生
「……で、あんた達は大事な取引先を一つ潰して帰ってきたってわけね」
フリーダは社長専用の椅子に座りながら、デイビッドとアルフレッドの話を聞きながら、目を瞑っていた。
一方の二人は
「「すんまっせんした!!」」
彼女に土下座をしていた。
ここは、彼らの職場、便利屋『スマイル・オブ・ゴッデス』。
ビルの三階で経営しているここはお世辞にも綺麗とは言えない。資料は散らばっており、色んなところにゴミが放置されている。しかし、部屋の真ん中に置かれている客用のソファーとテーブルだけは綺麗にされている。
「あんた達……社会人よね」
目を開けて二人にフリーダは微笑みかける。だが、目は笑っていない。
「「その通りです!」」
寸分の狂いも無く返事がハモる。
「私があなた達から聞いた話の感想を言っていいかしら。……バカじゃない?」
「バカじゃねえよ!」
「そこは、はいって言うべきところだろうがっ!」
デイビッドの頭をアルフレッドが盛大にブッ叩く。
「いいか、デイビッド。あいつは一時間も怒れば、怒りが収まってとりあえず許してくれるんだ。時がすべてを解決してくれる。分かったか?」
「あんたそんなこと考えながら、私の話聞いてたの!?」
アルフレッドの発言に机から身を乗り出してくる。
「もうやめようぜ、アルフレッド」
「そうだな。今から俺たち朝飯食べてくるんですけど、社長もどうです?」
「やっぱりあんた達ゲイバーに就職させれば良かったわ」
フリーダは深いため息を吐くと、机に頬杖をつく。
「まあ、今回はいいわ。報酬はガッポリもらったし、あの町の汚染は止まらなさそうだから、もう依頼も来ないだろうし」
「じゃあ、もういいじゃないですか」
「だけどね……お仕置きは必要だと思うのよ」
フリーダが引き出しから二枚の紙を出して、机の上に置く。
「なんです、これ?」
「新しい依頼書。二つあるからどっちか選びなさい。片方はテレビ番組『テンション☆マックス』の出演。もう一つはマフィアからあるものの奪取。どっちがいい?」
「げっ!あの番組ですか!?」
『テンション☆マックス』とは都市部のテレビ局で放送されている番組。巨大ヘビを単身で倒さなければ帰れなかったり、バンジージャンプ100連発させるなど出れば人権が一切保証されない。
もう一つのマフィアから何かを奪う方がまだマシだ。
「決まったようね」
二人に微笑むとフリーダはマフィアの方の紙をアルフレッドに差し出す。
なんだよ、わかっているなら最初からそっち出せよ。アルフレッドは紙を受け取りながら社長の毎度のやり方にうんざりしていた。
「分かってるなら、最初からそっち出せよ」
またこいつは。
「じゃあ、俺たちはこれで」
また怒られる前に退散した方がいいだろう。アルフレッドはデイビッドの首を絞めながらドアから出て行く。
「あの野郎共……今度失敗したらただじゃすまないからな」
高ぶった感情を落ち着かせるために、椅子を反転させて出た太陽の光を浴びる。
「しかし……」
落ち着いてくるとアルフレッドの報告を思い出す。
その中には奇妙な事が幾つもあった。
「戦争中に使用されたロボットが今さら復活するなんてこと有り得るか?」
もうあの戦争から九十年以上も経っている。魔力元の心臓も土に還っていてもおかしくはない。
「それと黒いマントの女か……。この二つに関わりがあるなら、デイビッドの実力を見るために来ただけってわけでもなさそうね」
もし、その女が第一世代のロボットを復活させているとするならば
「目的は一体……って今の私にはどうでもいい事か!さぁて、馬鹿共怒ったらスッキリしたし、朝ご飯でも食べに行くか!!」
***
二人が怒られてから三時間後、都市部郊外の組事務所。
「勘弁してください……」
泣きながらそう言い続けている組長のフェリクスだが、デイビッド達は容赦はしない。
ソファーに踏ん反り返り、二人揃って咥えたタバコに火をつける。
「てめえら、この前俺たちに酷いことしてくれたよな。その時の落とし前ってつけたっけ、アルフレッド?」
「いや、記憶にねえな」
一ヶ月程前、二人は仕事帰りに飲みに行った。かなり酒が入り、馬鹿騒ぎをしていると、客に迷惑だとマフィアの下っ端が注意したのだが、それが気に食わなかった二人はその下っ端をボコボコにした後、アジトの場所を聞き出して襲撃し、壊滅状態にしてしまったのだ。
……十割二人が悪いが、暴力を生業にする仕事柄、都市部の軍にすら相談できない。結果ここは二人の天下となっている。
「あなた達に襲われてからようやくここまで立ち直ってきたんです。あのブツは組の復活には大切なものなんですよ。だから……帰ってください。お願いします、お願いします」
何度も涙を浮かべながら頭を下げる姿に哀愁が漂う。だが、二人には通じない。
「襲われただぁ。誰にものを言ってんだよ。先に手を出したのはお前らだろ。普通は誠意を見せるべきじゃないのか、ああ?」
もはやどっちがマフィアだかわかったもんじゃない。
だが、デイビッドに恐喝されるフェリクスにアルフレッドが救いの手を差し伸べる。
「落ち着け、デイビッド。確かにこちらさんに不備があったかもしれないが、もう落とし前はここで暴れたことでつけたことにしよう、な?」
「そうか?アルフレッドがそこまで言うなら……」
アルフレッドの言葉にフェリクスの瞳から涙が溢れる。はっきり言って二人の発言は全く受け入れられないが、これで終わるならそれでもいい。
安堵で顔から強張りが解ける。
「そうですか。理解頂けて嬉し……」
「で、どっちがいいですか?ブツ渡して壊滅しないのとブツ渡さないで奪われてから壊滅するの」
アルフレッドは慈悲を与えたのではなく、もはやこのやり取りに面倒くさくなっただけなのだ。
どんなにゴネても最後にはこの二人は力で解決してくる。
そう理解したフェリクスの顔色は青を通り越して真っ白になってしまった。
***
「いや〜、楽な仕事だったな」
デイビッドは車の助手席で微笑を浮かべ、後ろにあるマフィアから奪い取った石を眺める。
「しかし、あれなんだ?ただの石にしか見えないんだが」
「そんなことどうでもいいだろ。俺たちはあれを事務所に運べばお役御免だろ」
「そうだが……」
運転しながらバックミラーからものすごい速さでこちらに向かってくる黒い車が見える。
事務所の前に駐車されていたものと同じものだ。
「だから新しい車を買えって言ったのに……」
「うるせえ」
車は二人の車の横に着くと、中の黒服の男が手のひらを向けてくる。
魔術式が浮かび上がり緑色の魔弾が三発が車に向かって発射してくる。
しかし、
「!!」
「この車の改造は大変だったんだよ」
魔弾が車に当たる直前で側面に魔術式が展開され、弾が消滅する。
男は再度手を向けるが、アルフレッドはそうはさせない。
「はい、どーーん」
車の魔術式が別のものに変わり、黒い車に体当たりをし、二人の車よりも大きいはずの車が吹っ飛んでいく。
ひっくり返りって中から黒服が数人出てきたので、どうやら命に別状はないようだ。
「どうする、戻ってやり返すか?」
「いや、面倒くせえ。とりあえずこいつを事務所に……」
「……おい、なんかコレこんな感じだったけ?」
「は?」
アルフレッドが後ろを振り向くと、さっきまでどこにでもある30cm程の石が赤い脈を打ちながら、大きくなり続けている。
「これ、爆発するんじゃんねえか?」
「チクショーーーー!あの組やっぱ壊滅させとけば良かった!」
車を止めると、アルフレッドが石を車から持ち出す。
「おい、そんなもん持ってくるんじゃねえよ!」
「ざけんな!車をオジャンにするわけにいくか!」
どれ位の威力があるかわからない。とにかく道路を走って、走って、走りまくる。
「どこまで持ってくるんだよ!早く捨てろ!」
「だったらお前が持ってろよ!ほら!」
石をデイビッドに投げ渡す。
ちょっとでも刺激を与えれば爆発をしてしまうかもしれないので、慌ててキャッチする。
「こっちに渡すんじゃねえよ!」
アルフレッドに投げ返す。
「危ねえな!」
デイビッドに投げ返す。
次第に二人のやっていることの趣旨が変わってくる。
「死ね!」
「くたばれ!」
「お前こそくたばれ!」
捨てればいいだけの話なのに、何度も死のキャッチボールを繰り返す。
次第に、脈を打つスピードが早くなってきた。
そして、
「なっ!」
「ヨッシャーーーーーーーーーーー!」
ちょうどアルフレッドが受け取ったところで赤い光を放出し、辺りを包み始めた。
爆発を覚悟して目を瞑るアルフレッドだが………………いつまで経っても何も起きない。
「おい、何も起きないぞ」
「……なんだ、その腕に抱えてるのは?」
「何って石……」
デイビッドはアルフレッドの腕を指差している。
さされた腕をアルフレッドが見ると、さっきまであった石がない。
「は?」
代わりにいたのは金髪の赤子。
そっと目を開けた赤子はアルフレッドをじっと見つめて、一言つぶやいた。
「ま……ま?」
何が起きたのか全くわからない二人の耳にその言葉は届かず、ただ二人で赤子を見るばかりだった。
Expiation of Heaven's vengeance people 松竹梅 @sidarezakura
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